過ぎし日のあおはる2





長い指、いつも綺麗にシュートを放つそれ。いつも高尾が見惚れるその美しい指は、今はただ熱を帯びて欲望のままに高尾の体を這いまわるのみだった。
汗ばんだ首筋をなぞり脇腹を撫で、固くなった乳首をやわやわと指先で揉む。
緑間の指が触れるたびに高尾の脳はじんと痺れ、脳内を何度も快感の渦が襲った。伝わる熱で思考など溶けてしまいそうだ。いや、既に溶けてしまっているのかもしれない。

「っふぁ、ぁ、あ…」

何故なら高尾の喉から漏れる声もぼんやりと緑間を見つめるその瞳も既に蕩けてしまったそれで。
もはや甘く溢れ続ける自らのはしたない喘ぎ声を抑えるという理性すら残っておらず、与えられる快感のままに嬌声をあげる。
しかし仕方がないのだ。なにせ高尾にしてみたら例のピンクな本を見つけた時から(正確にはそれを用いる緑間の姿を想像した時から)ずっと焦らされてきたようなものなので。
もうとにかく触れられたくて触れたくてどうしようもなくて、高尾は自ら腕を回し緑間を求める。自然と唇が近づいてそのまま柔らかく塞がれる。

「し、んちゃ…、こっち、も」

けれどそんなふんわりとしたキスではもう物足りないのだ。もっと激しく触れてほしい、もっと敏感な箇所に。
足の間に割入る緑間の太ももに自分の勃起したものを擦りつけて、震えた声ではやくとせがんだ。
その仕草と声で、緑間の熱も一瞬にして加速する。

「…ほん、とうに、お前は」

溢れ出しそうな欲望を堪えたような声。しかし行動までは抑えることもできず(むしろそうする必要なんてなく)、今度は荒々しく高尾の唇を奪った。
唇同士が触れるというよりも、最初から舌同士を重ね合わせるようなキス。
じゅる、と唾液の絡む生々しい音がお互いの鼓膜に響いて脳をじんと痺れさせた。
そのまま緑間は自らの太ももに触れる高尾の性器に片手を滑らせ、人差し指でその先端をぐり、と弄った。
唐突に与えられる一番熱い場所への刺激。高尾は塞がれた唇の奥でくぐもった嬌声をあげた。

「っふ、ん、んぅ、…っ!」

そのまま円を描くように弄り回されて、高尾はあっという間に吐精してしまう。
いくら散々焦らされて(自分で勝手に焦れていただけだが)既にどうしようもない状態だったとはいえあまりにも早い絶頂になんだか高尾は無性に羞恥を覚えた。
ゆっくりと唇が離されてぼんやりと視界に映る緑間の左手、その手にたっぷりと吐き出された自らの精液。恥ずかしさに目を背け腰を引きたくなったがしかし、今度は止まれないのは緑間の方で。
は、と熱に湿った息を小さく吐いて、高尾の太ももを掴みぐいと持ち上げる。
そしてその濡れた左手を高尾の後ろの穴にぬるりと這わせ性急に入り口を拡げはじめた。

「ぁ、しんちゃ、まって」
「さっきまでは急かしていたくせに何が待てなのだよ」
「ひぅ、だって、ぁ、あ」

大きく足を開かされ、いやらしい部分をしっかりと緑間に見られながらの愛撫。じっとりと欲望に濡れた目で見られていると思うだけで高尾の鼓動は再び高鳴っていく。
その後孔に1つ指が差し込まれたかと思うと更にもう1本、そして3本目がさっさとねじ込まれてしまって高尾は喉を体をびくびくと震わせる。
先ほどたっぷりと吐き出した精液のおかげか、高尾のそこはその無理やりな挿入にもすんなりと緑間の長い指を受け入れて根本までしっかりと飲み込んだ。
息を整える間も無く中を押し広げるように動かされる指。熱く溶けた内壁を何度も擦られるその快感に抗うことなんてできず、次第に高尾は羞恥心など再びどうでもよくなってきてしまって。
自ら快感を求めるようにゆるゆると腰を動かし始め、緑間の指をきゅうと締め付けた。
その、緑間を求める高尾の体に緑間の熱情は煽られるばかりで。

「高尾…」
「ひ、あっ」

ずるりと指が引き抜かれる感触に高尾はがくんと体を跳ねさせた。
そしてひたりと押し当てられる緑間の熱い塊。見なくてもそれは既に勃起しきった性器だと分かって高尾は興奮に脳がじりじりと痺れるような感覚を覚える。
これからこの大きくて熱いものが自分の中に侵入してくるのかと思うだけで、再び達してしまいそうだ。

「入れるぞ」
「ん、ん…」

もはや抗う理由も理性も体力もなく、高尾は緑間の為すがままだ。蕩けた瞳で緑間を見上げて、そしてその表情、同じように熱に支配されたその瞳に、更に高尾のそこは緑間のものを欲しがるように震えた。
既に柔らかく拡げられたそこに緑間の勃起した性器の先端が押し込まれて、そのまま大した抵抗も無くぬるりと中へと入り込んでいく。
熱く固く膨れ上がった緑間の性器は高尾の内壁の浅い部分をゆるゆると擦って、少しずつ中へと侵入していく。

「ぁ、ふ、もっと、おく…」

でもそれだけでは足らなくて。今の焦れた体にはそんな緩やかな刺激は物足りなすぎて。
高尾は自ら足を絡ませて欲望を呟く。熱く掠れた声で。
そんな風に誘われて崩壊しないほど緑間の理性が強靭にできているわけもなく。

「っ、どうなっても、知らないのだよ…」
「ひぁ、あ!っあ、あ」

堪えるようなその声とともに、根本まで一気に押し込まれたその塊に高尾は大きく体を跳ねさせた。
足を抱えられて奥を思い切り穿たれて。痛みよりも快感が、無理に貫かれる恐怖よりも興奮が、体中を痺れさせて脳を麻痺させていく。
その体中を駆け巡る電撃のような快感に抗うことなどできずに、高尾は声にならない声を上げ続けるばかり。
先ほど熱を吐き出したばかりの性器も既にまた固く勃ちあがって、緑間に突き上げられるたびにひくひくと震えた。

「ぁ、あ、やば、それっ」
「高尾…」

熱い塊が激しく後孔を出入りするたびに、ぎゅうと閉じた瞼の裏に星が飛ぶ。ちかちかと眩しくて、繋がる場所がじんじんと痺れて。
緑間の掠れた声が高尾の名を呼んで、それに応えるように目を開ければ欲望にぎらついた緑間のそれと目が合った。その目を表情を見るだけでまた中がじわりと溶けるように熱くなる。どうしようもなく押し寄せる快感に頭も体も追いつかなくて、体ががくがくと痙攣する。

「し、ん、ちゃ、っあ、イっちゃ、ぁ」
「っは、っ…、たかお…」
「ひ、ぁ、あ、あっ…」

熱が収束していく。一際奥を強く穿たれた瞬間高尾は体をびくりと震わせて再び絶頂に達した。先程よりも強く弾けるような絶頂。高尾は甘く喉を鳴らし緑間のものを中でぎゅうと締め付けた。
それに引きずられるように緑間も高尾の中にどろりと熱く精を吐き出す。溜め込んでいた熱を全て吐き出すように長く、ゆっくりと。
その長い吐精を全て受け止めるように高尾はぎゅうと緑間に抱きついて、また緑間も高尾の背中を強く抱き寄せながら大きく息を吐き、それから萎えた自分のものをゆっくりと引きぬいた。

「…は、ぁ、やっば、どろどろ…」

肩で息をしながら顔を上げると、知らぬ間に溢れだしていた生理的な涙を舌でぬぐわれる。
そんな、労るような自然な仕草が嬉しくて愛おしくて、お互いの精液でどろどろな下半身を再びくっつけあってそれから緑間の唇に唇を重ねた。先程は物足りなくて仕方なかったやわやわと柔らかな口づけが、今は気持ちよくてたまらない。
このまま緑間の心地良い体温の中でとろりと甘い眠りに落ちれたらさぞかし幸せだろうと思って(まあ下半身は正直ぬるぬるで気持ち悪いのだが)、ゆっくりと目を閉じる。
けれど再び腹部に押し付けられるぬるりとした塊に高尾の意識は一瞬で冴えて、ばちっと目を開けた。そして見上げるとまだ熱を帯びた緑間の瞳。

「は…?まだやんの…?」
「どうなっても知らないと言っただろう、先ほど」
「っえ、あー…、えー…」

もはや一寸の力も入らぬ高尾の体を、有無を言わせぬ態度で再びシーツに縫い付ける。
抵抗などできるわけもない。体もそうだけれど、心も。高尾はぼんやりとした思考の中で何度も柔らかなキスを受けながら思う。
緑間の欲望をかきたてるのは自分で、それが全てそのまま自分に向けられることに喜びを感じないわけがないのだ。
ならば好きなだけ求めてくれればいいのだ、気の済むまで。




「…で、なんで真ちゃんこんなん持ってんの」

さて、緑間の欲求が満たされるところまで、高尾がもう立ち上がれないというところまで致して。それからお互いの呼吸が落ち着くまでだらだらとしたところで。
もう散々欲望を満たしまくったせいか、至極落ち着いた心地で緑間に問うてみた。
思えば何故あんなに興奮したのか今ではあまり分からないし、どうして持ってるのかも正直どうでもいいような心持ちだったがなんとなく。

「おは朝のラッキーアイテムが古雑誌の日に青峰から押し付けられたのだよ」
「あー…、すっげ、納得」

そして案の定というか、予想通りの答えに高尾は小さく息を吐いた。
まああの緑間がこんなものを買うわけも無いのはやはりその通り、そして持っていた理由も緑間らしすぎてなんだか乾いた笑いしか出てこない。
そして果たしてこれを読んだのか否かは…もう今の高尾は既にどうでもよかった。というよりも今更そんなことを考えるような体の余裕が無いのだ、悶々とする元気など奪いつくされてしまったので。

「人から貰ったものを簡単に捨てるのは失礼だろう」
「さいですか」

そんなもはやどうでもよくなった高尾の疑問すら解消してしまうように緑間は付け加えた。
ああつまり全ては自分の欲求不満が爆発しただけだったのか。妄想の暴走とはこのことだ。
高尾は枕に顔を沈めた。もうこのまま体ごと沈んでしまいたい。羞恥やら自己嫌悪やらで。
そんな高尾の心境を知ってか知らずか、いや緑間のことだ、きっと多分全て見透かしてしまった上で高尾の頭を優しく撫ぜた。高尾の大好きなその左手で。
ほんの少しだけ高尾が顔を上げると、やっぱり全て見透かしたみたいに緩く微笑む緑間の顔があって。

「…真ちゃんずりーし、まじで」

それだけで行き場のないもやもやが全て消え去ってしまうのだから、愛という気持ちは本当に恐ろしいと思う。
とりあえず今はただその緑間のその手の温度だけが恋しくて、高尾は疲れきった体を休めるようにうとうとと瞳を閉じた。けれど、あの本はもうどこか見えないところに閉まってほしいなあ、なんて、ちょっとだけ思ったりもした。今度は緑間ではなく、自分の羞恥を思い出してしまいそうだったから。






高尾ナニーイイナ…って思って書き始めたんですけど
最終的に特に関係ない文章になりました。アレレ






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