扱い上手とちょろい恋人





年下の扱いには慣れていると思っていたんだけれど。

「は…はぁっ、ぁ…」

どれだけ熱を蓄えていればこんなにゆっくりと擦られるだけで火傷しそうなほど熱く感じるのやら。
物理の授業で習った熱の公式を一瞬だけ思い出した。けれど、再び襲ってくるえげつないほどの熱にすぐに意識を奪われてそんなもの記憶の彼方に飛んでいってしまう(確か明日の試験範囲だったはずなのに)。
ずるりと這わされる、背中のあたりまで届くようなそれ。焦らすように遊ぶようにゆるゆると何度か往復させて、それから気まぐれに入口あたりをつい、となぞる。

「っひ、ぅ…」

思わず情けない声が漏れて、慌てて喉を絞るけれど抑えきれるわけもなく。手のひらで自らの口を塞いでしまいたいのに両手首を掴まれていてはそれも叶わない。
しかしアツシは今の反応が気に入ったらしく、何度もその、俺の嫌がるあたりに腰を押し付けてくるものだから何度も自分の聞きたくもない声を聞かされるはめになった。行為自体は嫌いじゃないけれど(むしろ好きな方だ)自分のこの声は本当に嫌だと思う。
おまけに顔はシーツに押し付けられていて既に自分の唾液でぐちょぐちょだ。揺さぶられるたびに反動で口元に触れて気持ち悪い。

「きもちいーい?」

それなのにアツシはそんなことを聞いてくるものだから思わず睨んでやりたくなった(まあ当然それも出来ないけれど)。せめてもの抵抗にと頭をシーツに埋めながら首を横に振ってやれば気に食わなかったのかうなじあたりに噛み付いてくる。気に食わないのはこっちだっていうのに。
尚もゆるゆると擦り付けられるそれは熱く固くなるばかりで一向にそれを吐き出す様子がない。かと言って興奮していないのかというとそんなわけもなく、首筋にかかる吐息は荒いし刷り上げる度に俺の手首を掴むアツシの指はぎゅうと赤ちゃんみたいに震える(それを可愛いと思ってしまう自分はどうしようもない)。
そもそもこれだけ固くしていて興奮していないなどと言われたらそんな意味不明な器官もいでやるところだ。
いい加減じれったくて仕方がない。いろいろと。

「きょ、う、は擦るだけって、言っただろ…」
「んー知ってるし〜、だから入れてないじゃん」
「なら、早く…、っふ、ぁ」

終わらせてしまえ、と口を開いたところで急に強く俺自身(今にもはち切れそうに膨らんでいるのが見たくもないのに見える)の根元あたりを擦り上げてくるものだから。言葉を紡げなくなった口からは嬌声と唾液だけがこぼれて、またシーツに染みこんでいく。ああこれ洗うの俺なのに。
洗う時間すらもったいないのに、と視線の端に勉強用の机を捉える。ノートと教科書はただ開いただけの状態で随分と放置されたままだ。
そもそも一分一秒だって惜しい時にこんなことをしているのもどうかと思うが、いつの間にかこんなことになってしまっていたのだから仕方ない。アツシが悪い。
テスト前なのに眠いからなんとかしてと甘えてきたりせっかくだから恋人らしく二人で勉強したいだとか似合わないことを言うアツシに流された俺が悪いわけではない、断じてないのだ。

「(別にオレが甘いわけじゃない…)」

自分の中でちりちり燻る熱を感じて、もどかしさに内股を軽くすり合わせながら思う。
可愛いと思ってしまえばキスを許してしまって、キスを許してしまえばその先も…となってしまうのは当然のことだろう。むしろそこで今日はテスト勉強があるから、と挿入無しでさっさと済ませることという条件をつけた自分を褒めてほしいくらいだ。
しかしこいつはいざ事に及びだすと勉強なんてめんどいしーとかのたまって、いつも以上にゆっくりと焦らすように弄りだすからどうしようもない。最初から勉強する気なんて無かったのだこいつは。
なのに成績は割と、というよりもかなり良い方なのだからまったく才能というものを憎まずにはいられない。

「ぁ、も、いいかげん…」
「入れてほしい〜?」
「ちが、ぁ、あっ」

もう自分のそこがひくひくと疼いてアツシのものが入ってくるのを待っているのが自分でも分かるのに(これだけ散々焦らされれば仕方ないだろう)、違うもなにも無いだろうと思いながらも否定だけはしてみる。最後の矜持だ。
そもそも、まだ俺は明日の試験を諦めたわけではないのだし。普段からそこそこ復習はしていると言ってもテスト期間なのだから勉強をしなければならないだろう。
それなのに本当にこの扱いに困る恋人ときたら、

「オレは入れたいって思ってるのに、室ちんは違うのー…?」

また甘えるような声で言ってくるものだから、ああもう。

「アツシは本当に…どうしようもないな…」
「なにそれどういう意味〜」

呟いた両手を離して、代わりにベッドに縫いつけた時点で意味なんてとうに分かっているだろうに。
結局全部アツシの目論見どおりだったんだろうな、とふにゃふにゃ笑うアツシの顔を見て少し悔しく思う、けれどもうどうでもいい。
テストなんて赤点さえ取らなければいいものなのだ、それ以上に大事なものがいっぱいあるだろう。例えばアツシとか。
そう考えて(というよりも諦めに近い)、矜持なんて何の特にもならないものはとっとと放り投げてしまうことにした。







短文に投稿するには中途半端に長くなったのでこっちに。
扱いが上手なアツシとちょろい室ちん。







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