手に入れたのは、





だって俺の欲しいものなんて結局手に入らないものばっかりでそれどころか気づかぬうちに手の届かないところに行って見えなくなってしまうから。
だからどうしても手に入れたかった。どうしても欲しかった。他の何か全て手に入らなくてもいいから、だからそれだけは、そう思った。それが俺から離れていってしまう前に。




「てかさーオレやり方とか知らないんだけどー」

今日はせっかくだから最後までしようか。
そんな俺の言葉に対するアツシの反応はというと、まあいつものように淡白で適当なもので。
首をこてんと横に傾けて、眠そうな目のまま俺の顔をじっと見つめた。

「ふふ、まあアツシはそうだろうね」

からかうように言うとアツシは少しだけむっとした顔をする。子ども扱いされたと思ったのだろうか。
軽く膨らんだ頬を宥めるように撫でてやって、そっとアツシの太ももに跨る。安物のベッドがぎいと軋む。
そのまま抱きつくようにぐっと体を近づければ、アツシの温度とかにおいが近くなって、くらりとした。
いつもこうだ。アツシの体温とかにおいが俺の体に密に触れるだけで意識が飛んでしまいそうなほどどきどきしてくらくらして、たまらなくなる。麻薬でも発しているのかと思う。
ほしい。はやくこれを手に入れたい。ぜんぶ。
逸る気持ちを抑えてアツシのシャツにゆっくりと手を伸ばして、ひとつずつ、丁寧にそれを外していく。

「それくらい自分でするし」
「だめ、やらせて」

焦れているのか、はたまた分かりづらく照れているのか、アツシが俺の手をぎゅうと握ってそう言う。
でも俺は首を振ってそれを拒否する。
俺がだめというとアツシは不満そうにしつつも何も言わない。いつも。
その間にさっさとボタンを外してしまって、大きな肩から下ろすようにシャツを脱がせた。

「室ちんさむい」
「すぐあつくなるよ」

秋の初めと言えど、夜はかなり冷える。アツシは少しだけぶるりと体を震わせた。
でもきっとすぐにじわじわと汗が滲むほど熱くなるのだ。これくらいがちょうどいい。

「ね、キスしようアツシ」
「んー」

よく分からない返答もいつものこと。
ゆっくり唇を近づけると、アツシは口を開いて飲み込むように俺のキスを受け入れた。
すぐにぬるりとアツシの厚い舌が俺の口の中に侵入してきて、脳がびりりと痺れるような感触を覚えた。
俺が教えたキス。ファーストキスもまだだったアツシに、大人のキスは舌を使うんだよって教えて、それから何度も交わしたキス。
最初から口を開けてキスをするのはアツシの癖なのかな。でも俺は薄く開いて押し付けた唇がすぐにアツシの舌でこじ開けられる感触が好きだから、その癖が愛しくてたまらなかった。

「ん、はぁ、んん…」

そして、この容赦なく口の中を荒らされる感じも好きだ。
上手いキス、とはまた違うんだろうけど、ただ自分の欲望のままにぐちゃぐちゃと俺の口の中を舌でかきまわす。まるで俺の口の中全部舐め尽くしてしまうみたいに。
その、全部奪われてしまうような感覚が、くらくらするほど気持ちいい。脳みそにじんじんと快感として響く。

「、はー…、あらら、室ちんもう勃ってる」
「んっ、だって、アツシのキスえろいんだもん」
「室ちんがえっちなだけでしょー」

唇を離して、アツシはすりすりと俺の下半身を大きな手のひらで撫でた。
単に気になったから触る、子どもみたいな行動。でもその仕草にまた俺の欲望は煽られる。

「アツシ、全部脱ごうか」
「室ちんから先に脱いだほうがいいんじゃないのー?やばそうだよここ」
「っ、ん、ふふ、大丈夫だよ」

アツシの大きな手で触れられるたびにぞくぞくと震える、熱くなる。もっとその手で触って欲しくてたまらなくなる。割と大丈夫ではない、けれど。
それよりも今はもっと欲しいものがあるのだ。
俺はアツシのベルトに手をかける。

「ちょっとだけ腰浮かせてくれる?」
「自分で脱ぐってばー」

言いながらもアツシはのろのろと腰を浮かせてくれた。
下着ごとぐいとズボンを引きずり下ろすと、まだ勃ちあがりきっていない柔らかなアツシの性器が俺の足のあたりに直に触れる。

「アツシはまだ勃起してないね」
「室ちんが脱いだらおっきくなるかもー」

言ってアツシは俺のシャツの中に手を滑り込ませた。
熱くて大きな手のひらが直に俺の下腹部のあたりを撫でて、ゆっくりとシャツを捲くりながら胸のほうへと上っていく。
その感触と。そしてアツシの飢えたような行動にどうしようもない興奮を覚える。求められているという、その。
ちりちりと指先が痺れるような感覚を覚えつつ、自らのシャツのボタンを外していく。上から順にひとつひとつ。舐めるようなアツシの視線が熱い。

「んー室ちんー」
「あ、こら、アツシ」

あとひとつというところでアツシの唇が鎖骨のあたりに降ってくる。待ちきれないとでも言うように。ちゅうと音を立てて吸われて背筋が震えた。
もう上はこのままでいいか、と今度はズボンに手を掛ける。ベルトはいつの間にかアツシが外してしまっていたから、下ろすだけ。
ズボンも下着もベッドの横にぐちゃぐちゃのまま脱ぎ捨てて、お互いの下半身をひたりと触れ合わせる。肌と肌が直に触れ合う感覚がくすぐったい。

「アツシのも、おっきくなってきた」

指で包み込むように触れてやれば、それに反応してまた少し膨らみを増す。
それが嬉しくてゆるゆると軽く何度か扱いてやれば、まだ柔らかかったアツシの性器は俺の手の中に収まり切らないほど硬く太く勃ちあがった。はあ、と首のあたりにアツシの荒い吐息がかかって、ぞくぞくする。

「室ちーん…」
「きもちいい?アツシ」
「きもちー、けど、室ちん、今日は最後までって」

普段と同じゆっくりとした口調。でも今は明らかにそれに熱が篭っていて、俺の脳を体をじんと痺れさせる。
いつもならここでお互いに触りあって出して、それで終わり。でも、今日は。

「…うん、じゃあちょっと待ってね」

そのへんに放ってあったカバンを足でひっかけて取って、持ってきていたローションを取り出す。
興奮と快感で震える指先で蓋を開けて、どろりとしたそのその液体を手のひらの上に零した。
それからゆっくり自分の後ろの孔へ指を滑らせて、それを塗りこむようにしながらずぷりと2本ほど自分の中に押し込んだ。
もう幾度となく行った行為。アツシのことを考えながら、何度も。アツシのものがいつかここに入ってくることを考えながら、何度も何度も。
入り口を拡げるように指を回して、ほぐすように奥を突いて。
俺の背中を抱くアツシの手に力が篭る。

「室ちんえろい…なにしてるの?」
「ん…アツシのがちゃんと入るように、してるの」

見上げるとアツシは興奮で頬を上気させて、とろりとした目で俺を見ていて。
それだけでもう、達してしまいそうなほど体が震えてどうしようもなくなってしまう。
ずるりと指を引き抜いて、アツシの性器に触れる。俺のを見て興奮したのか、先ほどよりも熱くて硬い。
はやく、欲しい。これと、そして、もうひとつ。

「ね、アツシ」
「なーに?」
「オレが、ほしい?」

下半身をぴたりと触れさせて、アツシの性器を俺の尻に宛がう。
両腕をアツシの首に回して、額を合わせてそう問えば、はあ、と熱い吐息をひとつ零してアツシはうんと頷いた。

「欲しい」

まるで好きなお菓子でも強請るみたいに。アツシはそう答えた。

「…、じゃあ、あげる」

おれの、ぜんぶ。
その代わりに、おれは、あつしの。

「っ、ふあ、ぁ…!」
「う、うー…、きつい…」

宛がっていたアツシの性器を後孔まで導いて、軽く息を吐きそのままその先端を一気に飲み込んだ。
自分の指なんかよりも遥かに太くて熱くて、想像以上の張り裂けそうなほどの質量。ローションの助けを借りてなんとか中へと入るけれど、やはりきつくて仕方ない、でも。
息が詰まりそうなのを堪えて必死に呼吸をしながら、じわじわと腰を落として、アツシのものを押し込んでいく。
不安そうなもどかしそうなアツシの顔が可愛くて、そっと頬に触れると大きな腕でぎゅうと抱きしめてきた。

「室ちんへいき…?」
「ん、だいじょう、ぶ」
「でも苦しそうだよー」

答える代わりに瞼に口付けを返して、びくびくと震える太い幹を全て俺の中に収めきった。
俺の中は文字通りアツシのものでいっぱいで。アツシが呼吸や身動ぎをするだけでずるりと俺の内壁を擦っていって、おかしくなりそうなほどの快感が走る。
少し力を抜いてみればアツシの性器の先端がぐんと奥を突いてきて、がくんと体が跳ねた。
下半身が溶けてしまいそうなほど熱くて、頭もぼーっとしてしまうほど熱くて、ただできるのはアツシの体に縋り付いてゆるゆると軽く腰を揺らすことだけ。

「うー…、室ちん、むろちん」
「あ、つし、きもち、いい?」

突っ込んでいるアツシの方が泣きそうな顔をしていて。
宥めるようにちゅ、ちゅ、と軽いキスをしてやってそう聞いてやれば頷きながら強く抱きしめてくる。
ようやく押しつぶされるような圧迫感に少しだけ慣れてきて、軽く抽挿をしてみればぬちゅぬちゅといういやらしい音が結合部から響いた。
快楽に酔ったようなアツシの瞳。そして気持ちよさを隠せずに漏らす声。その全てはきっと俺しか知らないもので、そして俺しか。

「むろちん、」

潤んだ両の目が俺の視線を捉えて。
好き、と。熱くかすれた声でアツシが囁く。
その瞬間、やっと、やっと。

「おれも、すき」

ぐちゃぐちゃと、溢れ出そうな思いを全て飲み込むようにアツシの唇に自らのそれで触れた。
目を瞑ってしまえばもうアツシの音と体温だけがそこにある。

ああやっと、手に入れた。ぜんぶ。
(手に入れたのは俺のほう)






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