青少年のスイッチ






アツシのやる気スイッチというものは一体どこにあるのかどんなタイミングで入るのかがよく分からない。
バスケのそれに関してはなんとなく分かっててきた気がするけれど、未だに分からないのがいわゆる性的な衝動のスイッチだ。
普段はなかなか臨戦態勢にならなくて挿入前にあれやこれやと刺激を与えてやらなければいけない程だというのに、どうしてだか急にその気になることがあるらしくて。



「むろちーん」
「…だめ」

今日はキャンディでも舐めてたのか、甘い匂いのする厚い唇が鼻の下あたりに触れて味見でもするみたいにれろりと舌を這わせてくる。
大きな手は湿ったシャツを無作法に捲り上げて侵入してきて、汗ばんだ肌を楽しそうに撫で回す。
逃れようにも利き腕はとっくに捕らわれているし、もしそうでなくてもこの体格差だ。本気のアツシからは到底無理なことだろう。
キスの合間にとりあえず拒否の言葉を吐いてはみるけれど、まあそれもこの状態のアツシに効くわけはなかった。

「室ちんおいしい」
「ん、ちょ、っと…だめ、だって」

ますますアツシの手やらキスやらは激しくなるばかりで、そろそろ息が苦しくなってくる。
完全にスイッチが入ってしまっているみたいだ。何が原因なのかはさっぱり分からないけれど。

いつもと違ったことをした覚えはない。いつものように練習をした後にいつものようにシューティング練習をしていつもよりちょっと機嫌のいいアツシを1on1に誘って。
程よく体がくたびれてきたところでステージに腰掛けると、アツシも隣に座ってきたからはい、とタオルを手渡すとその手を掴まれてそのまま硬いステージの上に押し倒されて今に至る。

「なんでー?」
「なんで、って…」

ここがどこだか知らないとは言わせない。いつも使っている体育館だ。
そんなところで何故こんな行為を行う気分になれるのか、そしてなったとしてもここから場所を移動しようという気に何故ならないのか。
そんな気持ちでアツシをじろりと睨むと、なんとなくその意は伝わったのか、ああ、と呟いて一瞬動きを止める。かと思うとにへっと笑って再び伸し掛かってくる。

「いーじゃん別にー開放的開放的ー」

そのまま、ぐり、と俺の足を広げさせてその間に割り入るようにアツシは自分の股間を押し付けてくる。
その、押し付けられたアツシのモノの硬さと大きさに一瞬で頬がかっと熱くなった。

「っう、わ…!」

ゆったりとしたバスケ用のズボンの上からは分からない。けれど触れてみると分かる、それ。
見なくてもそのかたちがはっきりと分かるくらい勃起したアツシの性器が、俺の尻のあたりをゆるゆると撫でる。
普段セックスする時だってこんなに大きくすることは滅多に無いくせに。なんで、こんな時だけ。
俺の頭から冷静さがどんどん吹き飛んでいってしまって、代わりに脳内を埋め尽くしていくのは焦りと羞恥。そして快楽への期待。
これで思い切り中を抉られたら、と、体に刻みつけられた感覚が快楽を求めて勝手に走りだす。

「わ、かった、から、ちょっと落ち着いて…」
「落ち着いてるよ?」
「そういうことじゃなくて…あーもう」

このままだとどうしようもない。流されてしまう。
ちょっと緩んだアツシの手を振り払って胸を押し返す。

「とりあえず一回抜いてあげるから…それで満足してってこと」

さすがにここで突っ込まれてヒイヒイ言わされるわけにはいかない。俺にはアツシと違って(もしかしたらアツシにもちゃんとあるのかもしれないが)羞恥心というものがあるのだ。
こんなだだっ広いところで、しかも誰か来るかもしれないのに大人しく犯されるだなんて、できるわけがない。
しかしこの状態のアツシが今更引いてくれるわけもない。だからこれはせめてもの譲歩なのだ。
ここで、一回口でしてあげて、部室にでも移動してから続きをすればいい。
誰が来るかもしれないというリスクは同じだけれど、ここで挿入までされるよりはよっぽどマシだ。
そう思って体を起こそうとするけれど、アツシは再び体重をかけてそれを拒んできた。

「やだ」
「は?っ、ちょ、あ、あっ」

ぐ、と、まるで既に中に入れてるときみたいにアツシが突き上げてきて、脳みそがぐわんとするほどの衝撃が走る。
思わず喉から漏れた高い声が俺とアツシ以外誰もいない体育館にこだまして、はっと自分の口を塞いだ。

「室ちんえろーい」

楽しそうに笑いながらアツシは腰を押し付けて、ゆさゆさと揺さぶってくる。腹立たしい。
ただでさえその熱と質量で頭がおかしくなりそうなのに、そんな風にされるともうどうしようもなくなってしまいそうだ。
現に俺の性器は明確に快楽を反映し始めていて、脱がされたらもうひと目で分かってしまうほど。

「せ…めて、端っこで…」

拒否する、せめて口で。妥協案は段々と弱いものになっていって、結局はほとんどアツシの望みの通りになってしまって。

「もー室ちんわがままなんだからー」

わがままなのはどっちだ。そう突っ込む気力もない。
アツシは軽々と俺の体を抱えるとステージの端に移動する。
結んであった暗幕の紐をほどいて少し広げると、その中に軽くくるまるようにして俺の体を下ろした。

「ここなら文句ないでしょー?」

文句ならある。あるのだけれど、しかし今はそんなことを言っている余裕のほうがない。
シャツは既にほぼ脱がされてかろうじて首にひっかかっている状態だしズボンの中にはアツシの手が入り込んで好き勝手触っているし、そして何よりももう自分の下半身が熱くてじわじわ疼いて、どうしようもない。
こんな風に忙しなく脱がせたり触ったりしてくることだって滅多に無いから、ダメだと分かっているのに脳が勝手に興奮物質を出してしまう。心臓がドキドキして治まらない。
こういうのをギャップ萌えって言うんだろうか。いや、萌えとは違うからギャップ興奮とでも言うのか。どっちにしても、

「アツシ、ずるい…」
「えー、なにがー?」

本当にずるい。もうすっかり拒否する気なんてなくなってしまったじゃないか。

「とりあえず、背中痛いから…」
「あー、うん、そっか。室ちん乗って」

無理やりしようとしてるくせに、こういうところはちゃんと気遣ってくれるアツシがちょっとかわいいと思う。
アツシは器用に俺を抱いたまま体を起こし、自分の太ももの上に俺を跨がせるように座らせた。
さっきみたいにアツシの大きいのが服越しに俺のお尻のあたりに触れて、またぞくぞくと脳みそが震えるみたいな快感が走る。
もう我慢出来そうにもない。俺はひっかかっていた邪魔なシャツを脱ぎ捨てて、アツシの着ているシャツにも手を伸ばす。
いつもしてやってるみたいに脱がしてやれば、おかえしとでも言わんばかりにアツシは俺のズボンを下着ごと引きずり下ろした。

「わー室ちんもうこんななってる。まだここ触ってもなかったのにねー」

すっかり勃起してしまっていた俺の性器をやわやわと揉みながら、アツシは嬉しそうに笑う。
その笑顔にすら快感を覚えてしまう俺はもうどうしようもないと思った。

「こっちももう準備おっけーな感じー?」
「っひ、う、んん…!」

ぐりゅ、と性急にアツシの指が俺の中に侵入してくる。
また声が響きそうになって、慌ててアツシの肩に顔を押し付けて堪えた。
そんな俺の必死な努力なんてさっぱり気にする様子もなく、アツシは指を増やしたりぐちゅぐちゅかき混ぜたりと好き勝手に俺のそこを弄ぶ。

「ねー室ちん」「な、に…」
「もー入れていい?」

はあ、と熱い息をひとつ吐いて、アツシは俺の耳を食む。
ちらりと横目にアツシを見ると、アツシの目はすっかり興奮したまるで腹をすかせた獣みたいなそれで。
そんな瞳されたら断れるわけもないじゃないか。びりびりと痺れて感覚の麻痺した頭で思う。
小さくひとつ頷くと、腰を掴まれて下半身までぴたりとくっつくくらい抱き寄せられた。いつの間に露出していたのか、アツシの硬くなった性器が直に俺の尻のあたりに当たる。

「力抜いてねー」

いつもみたいにのほほんとした口調、でもいつもより熱を含んだ声で囁いて、抱き寄せる手に力がこもった。
と、同時に下半身に襲い来るのは息が詰まるほどの圧迫感。
十分にほぐしたはずのそこをまだ足りないと言わんばかりに押し広げながら、ぐぐ、とゆっくりと中へ侵入してくる。

「あ、っあ…、はあっ」
「はー…室ちんの中あったかーい。ほこほこー」

嬉しそうに俺の腰のあたりを擦りながらアツシがきゅうっと抱きついてきた。
そりゃあさっきまで運動してたんだからいつもよりは温かいのは当然だろう、と浅く息を吐きながら思う。
熱気のせいかアツシも俺も汗でびっしょりで、なんだか、すごく、えろい感じがする。動くたびに肌の触れ合っているところが汗でぬるっと滑って、その感触がたまらない。
と、同時に熱中症にならないか心配にもなる。こんなとこで繋がったまま二人してぶっ倒れたら笑えない、ほんとに。

「んー…もーちょい…」

はあ、と大きく息を吐いて更にアツシが腰を進める。
既に俺の中はいっぱいいっぱいなのに、まだ全部入りきってなかったのか、とちょっと血の気が引く思いがしつつも、少ししてアツシの下生えが俺の尻のあたりに触れるのを感じてやっとか、と小さく溜息を吐く。

「動いていい?室ちん」
「は、ぁ…いいよ…」

汗でしっとりとしたアツシの髪を撫でてやって許可をすると、アツシはふにゃんと笑って腰を動かし始めた。
予想はしていたけれど、腰の動きもやっぱりいつもよりも激しくて、かなり性急で。

「っあ…!あ、あぁ、っ!」

ぐん、と、大きな質量に下から思い切り突き上げられて息が詰まりそうになる。
大きな手のひらでがっちりと俺の腰を掴んで奥の奥まで穿つように腰を打ち付けてくる。
内壁にアツシのものが擦れるたびに、喉から情けない喘ぎ声が漏れた。
割と動きにくいこの対面座位でこれなのだ、もっとアツシが動きやすい体位だったら恐ろしいことになってただろうなあとぼんやり思う。

「室ちん、だいじょーぶ?」
「ん、んっ、いいよ、アツシの好きなよう、に、して」

正直なところ大丈夫ではない、けれど。こんな風に積極的なアツシは珍しくて嬉しいものだから、つい甘やかしてしまう。
くしゃ、と緩く後ろ髪を掴んで引き寄せて俺からキスをしてやる。強請るように。

「室ちんだいすきー」

唇を離すとアツシは子供みたいに笑って、またぐっと腰を引き寄せ突き上げた。そして一回ずるりと先端まで引きぬいて、その繰り返し。
奥を突かれるたびに、目眩のときみたいに目の前がくらくらっとする。下半身はじんじんするし、もうそろそろ限界みたいだ、と他人ごとみたいに思う。

「ア、ツシ…、も、イきそ…」
「はー…、うん、オレもー」

緊迫した感じのないいつもみたいにのほほんとした答えが返ってくる。
けれどそれに反比例するように腰の動きは激しくなっていって。どんどん俺を絶頂に追い詰めていく。
足の先が勝手にびくびくと震える。体の中心を這い上がってくる大きな快感に目を開けていられなくて、アツシの肩に縋るように抱きついて目を瞑る。
そして一際強く奥を抉られた瞬間、脳内が真っ白になった。

「アツ、シっ、あ、ああっ…!」
「は、っ、室ちん…」

もう声を抑える余裕なんてとっくに無かった。強い衝撃とともに下半身の熱が全部出ていって、全身の力が抜ける。
目の奥がちかちかする。音もなんだかよく聞こえない。汗と粘液まみれの体をアツシに預けたまま体の感覚が元に戻るのを待った。

「んー…室ちんー…」

はあ、と何度か大きい呼吸を繰り返しながらぼんやりしていると、アツシが俺の頭を撫でているのにやっと気づいた。甘えるような甘やかすような、よく分からない感じ。
そしてお腹の中にぬるいどろどろした感覚。あーこれは中に出されたなあとうんざりするけれど、怒る気力なんてあるわけもなく。とりあえず小さく溜息を吐く。
体の至る所(特にお尻とか)はじんじんするし、なんだかもうぐったりとした気分になった。

「アツシ…」
「んー?なにー?」
「シャワ行きたい…」
「はいはーい」

何故行為中はあんなにも後のことを考えないのだろうか、そして熱が覚めるとどうしてこうも自己嫌悪に陥るのか。謎だ。
アツシが俺の腰を掴んでずるりと萎えたものを引きぬく。まだアツシのかたちに拡げられたままのそこからじんわりとアツシの精液が垂れてくるのを感じて、またちょっと気分が落ちた。
アツシがあららーとか言いながらそれをタオルで拭って、またぎゅっと抱きしめてくる。

「むーろちん」
「ん…?」
「好きー」

けれどアツシはほわほわと幸せそうで、好きだと囁きながら俺の額やら瞼にキスを落とす。
そうしながらも器用にそこら辺に散らばっている衣服を集めてしまって、それからとりあえずという感じで力の入らない俺に着せていく。汗でびっしょりで気持ち悪いけど全裸でシャワールームに行くわけにはいかないし、仕方ない。
そしてステージから降りてからひょいと俺を抱き上げて適当に床を拭き、さっさと体育館の出口へと歩き出した。
その最中もずっとアツシはにこにこで、なんだかもう。

「甘いなあ、オレ…」

アツシが幸せならそれでいいか、と、半ば諦めのようにそう思ってアツシの背中をそっと撫でた。




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