Marionette 1



彼はまるで自分の体のことなんてどうでもいいという風であったから、ぼろぼろになってゴミのようになっても構わないという風な扱いであったから、だからそれを俺がもらうことにしたのだ。

見ているといつも無理ばっかり。俺が気づいただけで、3回くらいテニスコートの中で倒れているのを見た気がする。立てなくなるくらいまでやらないと気が済まないんだとか。
それから手もぼろぼろで、包帯に覆われている左の手のひらはマメだらけだった。まあそれくらいは普通だけど、白石はそれを治療しようとも気遣おうともしないから、手のひらはそれはもう酷いありさまになっていた。
もちろんほかも部分も酷い。倒れたときにどこそこぶつけるから痣だらけ。白い肌には青いあざがいっぱいあって痛々しいような綺麗なような。
とにかく白石は自分の体が本当にどうでもいいようであった。なんだろう、自分の意識と体が乖離してしまっているような感じ。”これ”は乱暴に扱ってもいいものだ、と白石の意識は認識しているのだろうか。

だから俺は言ったのだ、白石は自分の体が要らないみたいだから、俺にちょうだい、って。
俺はその体欲しいから、白石がどうでもいいって思ってるのなら俺の好きなようにさせて、って。
そしたらやっぱり白石は自分の体なんてどうでもいいみたいで、俺が何をしたいかとか何を考えているのだとか聞くことも考えることもせずに、小さく頷いてあっさり承諾してしまったのだ。



とりあえず俺は白石の手を引いて自分の家へと連れ帰った。
白石はやっぱり何も聞かない。もちろん抵抗することだってしない。
俺の好きなようにさせてって言われてついてきて、もしこれで俺に殺されでもしたらどうするつもりだったんだろう。まあそんなことはしないけど。

でも本当に抵抗しないのなら好都合。
俺は白石の手をぐいと引いて家の中に引きずりこむ。
白石越しにしっかりとドアの鍵をしめて、狭い居間に敷きっ放しになっているせんべい布団に白石を座らせて、転がした。
布団の上に横になる白石の上に俺は圧し掛かって、柔らかな白い頬をゆっくりと撫でた。

白石の両目は不思議そうに俺の瞳を見つめているけれど、体はあくまで従順だった。というかどうでもよさそうだった。
なんだかあんまりにも動揺していないので、もしかして、と思って俺は聞いてみる。

「もしかして、初めてじゃなかとや?」
「なにが?」
「セックスするの」

この状態で、まさかこれから何をされるのかに気づいていないわけはないだろう。
だから、今までにもこんなことをしたことがあるんじゃないか、と思った。
こんなに自分の体に無頓着なのだから、誘われて何度か、ということがあっても全くおかしくはない。
それにこの端正な容姿なのだから、むしろそれは自然なことのように思えた。

「なんで?したことないけど」
「初めてとや?」
「男抱こうなんて思う奴そんなおらんやろ、つーかお前ほもやったんやなあ」

今まさに押し倒されている状況なのに、暢気にそんなことを言ってくる。

「…別にほもじゃなかよ、男抱くのは初めてやけん」
「ふーん」

白石の返答は本当にひとごと、という感じだった。
余裕そうな白石の態度に少しだけいらっとする。
理不尽とは分かっている。自分の体に無頓着だから、そんな白石だから今ここで俺の下に組み敷かれているのだ。
普通なら了承しないであろうことに軽く頷いて、ついてきて、そして今この状況でも少しも抵抗するような様子を見せたりしないし。
だけど、その余裕な感じが少しだけ気に障る。

まあ、いいや。
俺はこの体に触れてみたいだけなのだ。
白石がどうでもいいのなら好きにさせてもらう。本当にどうでもよさそうだし。
俺は白石のシャツのボタンに手をかける。さっさと全部外してしまって、白くてなめらかな肌に手を滑らせた。

白石の体は本当に綺麗だった。
細くて、ちゃんと筋肉はついていて、でもなんだか柔らかくて気持ちいい。手のひらに溶け込むような感触。触れるだけでなんだかぞくぞくと興奮してくる気がする。
ところどころ痣があるのはやっぱり気になるけれど、それすらも白い肌とのコントラストで美しく見える。
こんなに綺麗な体がどうでもいいなんてもったいないなあ、と思う。

俺は白石の体のラインを何度も手のひらでなぞりながら、白石の細い首のあたりに顔を埋めた。
いい匂いがする。なんだか甘い匂い。何の匂いかはよく分からないけど、むらむらと食欲とか性欲がわいてくるような。
たまらなくなって俺は鎖骨のあたりにむしゃぶりついた。れろれろと舌を這わせて甘く噛んで、吸い付く。
ただ体を撫でて、鎖骨を舐めているというそれだけなのに、なんだか頭がかっと熱くなって、酷く興奮してきているのが分かった。
まるで白石の体そのものが媚薬みたいだと思う。

「は…、んん、あっ」

なるほど別に体の感覚が無いわけじゃないらしい。
俺の手やら舌やらが触れるたびに紡がれるくぐもった喘ぎ声を聞きながら俺は思った。
てっきり痛みや刺激に鈍感なものだと思っていたのだけれど、そうでは無いみたいだ。むしろ感度はすごくいいように見える。
まあ何にも反応されないよりはよっぽどいい。人形を抱いてるみたいになったらどうしようかとちょっと心配したりもしたから。
白石はただ単に、自分の体がどうなるか、ということだけどうでもいいのかもしれない。たぶん。

「きもちよかとや?」
「ん、…はぁ、あっ、」

桃色の乳首をくり、と抓ってやると白石は更に体を震わせた。
甘い声ととろんと潤んだ瞳に俺の雄が固く勃起してくるのが分かる。

どうせ白石はどうなってもいいと思っているのだ、別に慣らしたり盛り上げたりする必要なんて無いだろう。早くこの体を味わいたい。
ズボンを下着ごと細い足から抜き取って、四つん這いの格好にさせる。
尻を突き出すような恥ずかしい格好をさせているというのに、白石はやっぱり抗いもしなかった。
内心ではどう思ってるか知らないけど、抵抗しないのならもう最後までさっさとしてしまうだけだ。
とりあえず突っ込めるくらいには慣らしておこうと思って、指にたっぷりと唾液を絡ませ、外気に触れてひくひくと蠢く白石のお尻の穴にぐちゅ、とねじこんだ。

「う、んっ、ん…っ!」

一気に2本突っ込んだのはさすがにちょっときつかったのか、白石は苦しげな声をあげた。肩が震えて、入れた指がぎゅっと締め付けられた。
でも抵抗しないのが悪い、それに好きなようにしていいとの了承ももらっている、構わずぐちゅぐちゅとかき回して拡げていく。
その度に白石は息を詰めて声を漏らしたけれど、それすらも興奮の材料にしかならなかった。
いい感じにほぐれたところで指を引き抜く。

「入れるばい」
「ん…、っく、う…あ、っ」

なんとなく白石の顔を見ながら犯してみたかったから、白石の体をぐるりと反転させて仰向けにさせてから俺は白石のお尻に勃起したものを一気に押し入れた。
ろくに慣らしてもいないところに突っ込んだのだから、やっぱり相当きつい。
白石は自らの腕で顔を覆い隠すようにしながら、苦しそうに喘いだ。腕の隙間から見える瞳からはぼろぼろと涙が零れている。

「はぁ、つらそうやね」
「っ、く、う…、うう」

顔を見せてもらおうと思って手を掴んでやれば、あっさりと腕は解かれた。こういうのは大抵顔を見せじと力をこめているのが普通だからちょっと拍子抜けしてしまった。
白石はぼんやり、眩しそうな辛そうな顔で俺のことを見上げてくる。そんなとぼけたような顔まで整っていて、ああやっぱり綺麗だなあと思う。
汗やら涙で髪の毛が顔に張り付いているのがいやらしい。

「むぞか」
「は、あっ、っう…」

とめどなく溢れ出てくる涙を舐め取ってやりながら、俺はゆるゆると腰を動かす。
白石はお尻の穴まで柔らかいみたいで、徐々に俺のものに馴染んできた。ねっとりと包み込む粘膜の感触に射精感が強まっていく。

快楽に酔いながら腰を振っていると、白石の唇から血が滲んでいるのに気がついた。
どうやら痛みに耐えている時に強く噛みすぎてしまったらしい。
手や唇で愛撫していたときにちょっと勃起していた白石のものは、今は痛みのせいかすっかり萎えてしまっている。やっぱりすごく痛いんだろうなあと思う。
それなのに、やっぱり白石は濡れた瞳でぼんやりとどこかを見つめるばかり。

「ね、白石は」
「…っ、なに…?」
「嫌じゃなかとや」

聞いてから、俺はばかじゃなかろうかと思った。
そんなの無理やり犯している側の台詞じゃないだろう。いくら白石の同意があるとはいえ。

さすがに呆れられるか、はたまたキレられるか。
ちょっとびびりつつ白石の表情を窺ってみる。
けれど白石は特に表情を変えたりはしなかった。やっぱりぼんやりとした表情のまま、薄い唇を開いた。

「別、に…」
「ん?」

口の端から血交じりの唾液が垂れる。
けほけほと軽く咳き込んだ後に白石は小さく答えた。

「お前が、俺の体、もらうって言ったんやから…、好きにすればいいと思う」

至極、どうでもよさそうな返答。
それはまるでなにもかもを諦めたようにも聞こえて。

どうしてこんなに簡単に自分の体を手放してしまえるのか、さっぱり分からない。
普通、人って自分の体が傷つけられたり壊されたりするのを嫌がるものじゃないだろうか。
なのに白石はそんな様子がさっぱり見えない。ただ、無関心、それだけ。
痛みも感情も普通にあるみたいなのに。

しかしまあ、理解する必要なんて俺には無いだろう。
好きにさせてくれるというのだから、そうさせてもらうだけだ。
細くて柔らかな体をゆっくりとなぞる。そしてぐしゃぐしゃに濡れた頬に手を当てる。
やっぱり綺麗。こんなに綺麗なものを持っているのに要らないなんてもったいないじゃないか。
俺が存分に玩具にしてあげよう、そんなことを思いながら、小刻みに震える細い体をぐっと奥まで突き上げた。



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