とける夏の日



ああもうこんな暑い日にこんなことやってるなんてばかなんじゃないだろうか。
窓は閉め切られて風は通らないしじめじめと湿気は篭るし、今にも熱中症で倒れそうだ。いやまあ最初から寝転がっているから倒れると言うか気を失ってしまうというか。いやいやそんなのはどうでもいい。

「おんなじようなことやってる奴らなんて多分腐るほどいるばい」

言うと千歳はへらへらと言って笑った。そうかもしれないけど俺たちまでそんなことしなきゃいけないなんて理由はないだろう。
枕元に置いてあったスポーツ用ドリンクを千歳が手に取る。
ごくごくと4分の1くらい飲んだかと思うと、いくらかを口に含んだまま俺のほうに顔を近づけてくる。
げ、と思ったけれどこの体制だと逃げられるわけもない、そのまま千歳の唇が俺のそれに重ねられた。
熱気のせいで冷たさなどとうの昔に失ってしまった液体が喉をゆっくり通り過ぎていく。
ぬるい…まずい。やっぱりこういうのは冷たいまま飲まないとだめだ。
冷蔵庫まで行けば、冷たいのがあと2,3本くらいは入ってるはずなのに。

「ん…、く」

引き剥がそうとするけど、まあやっぱり無理だった。分かっているけど。
口の端から少しは零れながらも、結局全部飲まされてしまう。まずいって言って…言ってはいないけど態度で示してるのに。

「ちゃんと飲まんと熱中症なるとよー」

またへらへらと笑いながらぬるく湿った俺の唇を大きな指でぬぐう。
こいつは暑さで脳がちょっと溶けてきてるんじゃなかろうか。
だけど、その触る指の感触やら、ぬぐった後にぺろりと指を舐める仕草やらにまたぞくぞくとする俺の脳もやっぱり暑さでおかしくなってきてると思う。ほんと俺もばかだ。

「…冷たいのがええんやけど」
「向こうまで行くのめんどくさかー」
「自分で取りに行くっちゅーねん」

汗でじんわり湿った千歳の腕を押し返す。
こいつさえどいてくれれば、俺はこんなぬるいのじゃなくてちゃんと冷たくておいしいのを飲めるのに。
なのにこいつは。

「だーめ」

どいてくれるどころか更に圧しかかってくる奴なのだ。
ほんとこいつどうしようもない。
ずっしりと千歳の体重がかかるせいで汗でじっとり湿ったシーツに体が沈む。気持ち悪い。
お前は腕と足しかシーツに触れてないからいいけど、俺は全身接してるんだってば。

「も…いい加減に」
「汗だくでいちゃいちゃするのは夏の醍醐味たい」

そんな醍醐味どこにあるんだ。
あほなことをぬかす千歳の頭をぺしんとはたく。
千歳は全く痛くなどなさそうに痛かーと笑って俺の首にその頭を埋めた。

「ん、ちょ…」
「蔵の汗の匂いがすっとー」
「あ、当たり前やろ、んなのお前も…、っ」

体が震えたのは千歳の舌が首を這い始めたからだ。
熱い手が俺の頬を包む。逃げられないし、時折指が耳に触れて更にびくびくと体が跳ねる。

「ん、う…、ちと、っ」

色々言っていても体は正直だなあと自分で思ってしまう。きもちがよくて体から力は抜けてしまうし、抵抗する気もなくなってしまったから困った。
それになんだかいつもよりも執拗に舐められてる、というのもあるからかもしれない。
舐める、というよりも、味わう、みたいな。
はむはむと唇で甘噛みしてみたり、舌でつつきながら吸ってみたり、大きく舐めてみたり、首がふやけてしまいそうだ。ついでに脳みそまでふやけそう。

いやいやだめだ、これじゃ千歳の思う壺じゃないか。
痺れる体でぐいぐいと千歳の体を押し返すと、最後のおまけとでも言うようにちゅうと強く吸い付いてから唇を離した。ああもう今の絶対痕になったんだろうな。
はあとため息を吐く、と、気づけば千歳の顔が鼻先がくっつくくらいまで迫っていた。
やばいと思ったのはそのときの千歳の顔。

「蔵の汗舐めとったら興奮した」

千歳はもうあからさまな欲情を隠す気もなかったみたいで。
熱い息を吐いて、千歳は笑った。
じっとりと熱の篭った目、やらしく歪める口に、俺の脳やら下半身がずきずき疼きだす。期待なのか焦りなのか。
千歳はやや強引に俺の顔を引き寄せてぎゅううと噛み付くように口付けた。
こういう風に欲情してるのを隠せないくらい興奮してるときの千歳のキスは、やたらねちっこい、そしてえろい。

「んっ、ん、んんっ、…っ」

そして、はげしくてきもちいい。
お互いの唇の間からぴちゃぴちゃとやらしく音が鳴る。
なにやら今まで考えてたことを全部頭から飛ばしてしまうようなキス。
舌がとろとろと絡められるたびに、布を隔てて千歳の体に触れている下半身は熱くなるし、脳みそは完全に溶けてきてしまうし、もうどうしようもない。

「はあっ、は、ん…っ」

結局千歳の思う壺だ。
毎度毎度ほんとに俺は懲りない奴だ。
唇が離れたときに見えたのは千歳のやらしく笑った顔。ああもう。



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