繋ぎとめるための


白石2010誕生日企画
3/6の続きのようなそうでもないような


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「な、オサムちゃん、子供欲しくない?」

この教え子は急によく分からないことを口走ることがある。それもごく自然に。
今言った言葉もまるで、なあのど渇いた、とかそういう普通の会話みたいにぽろっと零したものだから、思わずあー…とかぼんやりと返事を返してしまうところだった。
驚いて白石のほうに顔を向けると、白石は、ね?と同意を求めるような顔をしてこちらを見上げてきた。ああ、かわいらしい。いやそうではなくて。

「や、いやいやいや、なあ白石」
「なんや」

まあ確かにさっきまでしていた行為は、本来そういう目的のものだけれど、でもそれは男女間でのことなのであって、男と男では意味をなさないものだ(…と言ったら少し悲しい気もするけれど)。
もしかして俺に組み敷かれて女みたいなことばっかりされてるから、白石は自分が男だということを忘れてしまっているのではなかろうか。
それとももう一回中学のときの保健体育の授業をやってあげたほうがいいのだろうか。変な意味ではなく。

「えーと、なあ子供っていうのはな、男と女が愛し合って…」
「そんなん知ってるっちゅーの、馬鹿にしとるん?」

枕をぎゅううと抱きしめながら、心底呆れたような顔で言われた。いやいや言い出したのは白石の方だっていうのに。

とりあえず白石がよく分からないわわがままを言うのは何かを分かってほしいときだ。
白石は言いたいことを直接的に言うのを嫌うから、いつもいつもだいぶ遠まわしに言う。だから俺はそれの奥まで踏み込んで聞き出してやる。
面倒くさいとかそんなのは思わない。結局、俺はこの子が大事なのだから。分かってやれるのならばその労力は惜しまない。
それに、他人が思っているよりとても繊細で、滅多に自分の感情やら考えやらを人に伝えようとしない白石が、遠まわしにでも俺に伝えようとしてくるのは悪い気はしないのだ。

ちびちびと飲んでいた缶ビールをちゃぶ台に置いて(この間まで置いていた炬燵は片付けた、白石が片付けろとうるさいから)、白石の転がる布団へと移動する(ちゃぶ台のすぐ横に布団は敷いてあるから移動する、というよりも座りなおしただけだけれど)。
どっこいしょ、とか言葉を漏らすと、オサムちゃんおっさんくさい、と笑われた。実際おっさんなんだから仕方がない。
綻んだ目元に指を寄せてやると、気持ちよさそうに目をつぶる。まるで猫みたいだ。

「しらいし」
「…なに?」
「なんで、子供欲しいとか思ったんや?」

踏み込む、と言っても俺は上手い聞き出し方とかは分からない。教師としては情けないけれど。
だからもう最初から単刀直入に聞いてやる。
言おうとしないことはどうやったって言おうとしない。けれど、聞いてほしいことならば、こうやってまっすぐに聞いたって白石は答えるのだ。

「んーだって、な、」
「うん」
「子供とかおったら、…ずっと一緒にいられる…、なんやろ、絶対のものみたいなのがあるやん」

だんだん恥ずかしくなってしまったのか、白石は途中で顔を枕に埋めてしまった。馬鹿にされるとでも思ったのだろうか。
けれど俺はそれを馬鹿にする気なんておきなかった。むしろ、軽くショックを受けていた。

ああ、そうか。この子は不安なのだ。
拙い言葉の節々に見え隠れする白石の本心。
俺をずっと繋ぎとめておくための約束みたいなものが欲しいのだろう。
どれだけ信頼していたって、愛していたって思っていたって、やっぱりどうしようもなく切なくなってしまうことだってあるのだろう。
だから、白石にとって絶対のものが欲しいんだろう。それがこの子にとっては子供というものだった。

でも、どれだけ大人びていたって結局、白石もまだ考えがお子様だ。
そんなもので縛れるほど人の心というのは甘くないのに。
そんなもので人の心を一生繋ぎとめておけるのならば、世の中に愛が消えての別れと言うものは存在しなくなるだろうに。

もしかしたらそこまで分かって、それでも言っているのかもしれないけれど。
それでも何かしらの約束が欲しいのだとしたら。
それでも俺との何か繋がるものが欲しいと言っているのだとしたら。
そうだとしたら、なんだか悲しすぎる。

「…そうやなあ、出来たらええなあ」

だから、俺は言ってやらない。言わなくていいのだ、そんなこと。
この子なりの精一杯で俺を繋ぎ止めたいと思っているのだ。だからそんな現実教えなくてもいい。
少しくらい夢を見させてあげたい。哀れで愛しいこの子に。

「でも、子供とかおらんくても、俺はずっと傍にいたるから、な?」

そう言って小指を出してやる。
子供なんだから、…まだほんの16歳なのだから約束だってこんな可愛いものでいいはずだ。
現実とか、苦しみの伴うような約束なんてしなくたっていい。

「そんなん…当たり前やろ」

そうだ、そうやって照れながらはにかんでいればいいのだ。
俺の荒れた指に白石の細くて美しい指が絡められる。
ゆびきりげんまん、幼い声で白石が歌う。

「うそ吐いたら…」
「吐かんわ」

きっぱりとそう言いきってやる。
そんな不安を匂わすようなことなんてしてはいけないのだ。
白石はちょっと驚いた顔をして、またふんわりと微笑んだ。

「…嬉しい」

願わくば、彼が幸せに笑っていられることを。なんて、少しクサいかもしれないけれど。
せめて今日くらいは、幸せな気分であって欲しい。そう思った。

「誕生日おめでとう、白石」


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オサムちゃんは白石のことを哀れみつつ愛してるといいと思います。
白石誕生日おめでとう***

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