ぜんぶ貰って


白石2010誕生日企画
過去捏造しております。
謙也と白石が幼馴染です。

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幼いころの約束ってどれくらい覚えてるものなんだろう。
ずっとずっと昔のこと。5歳とか6歳とか、そういう物心もまともについてないような頃に交わした約束。
普通の人は忘れるんだろうな、そんなの。というかまず覚えてすらいないんだろうな。
大きくなっていくうちに色んなことを学んで、経験して。どんどん薄れていってしまう。
たぶんそんなのちゃんと覚えてるほうが珍しいんだ。
でも、嬉しかったから。本当にそうなったらいいなあと思ったから。
だから今も。こうして15歳の誕生日を迎える今日になっても、まだそのことが忘れられない。




「白石、なあ」
「ん?」

誕生日と言ったって、当たり前のことだけど学校も部活もある。
誕生日おめでとうの言葉やら、女の子からのプレゼントやら貰えること以外(それが特別に当たるのかもしれないけど)は普段と変わらないいたって普通の日。
本当は一日中ケンヤと一緒にいていちゃいちゃしてお祝いしてもらいたかったけど、まあ仕方ない。
いつもみたいにこうやって、ケンヤと一緒に帰れることだって十分幸せだと、俺は思う。

「今日、お前誕生日やんな」

そう言えば、今日はケンヤからその話題に触れられていなかったことを思い出す。
いつもだったら、いの一番に俺のところへ来ておめでとうだのなんだの言ってくるのに。そういえばおめでとうのメールも来てなかった気がする。
去年まではわざわざ日付が変わってすぐ、0時ちょうどにいろいろと飾りつけたやたらきらきらとしたメールを送りつけてきていたのに。
俺が毎年メールを返さなかったから止めたんだろうか(その時間にはもう寝てるから仕方ないんだけど)。

学ランの下から小さく伸ばした指先を、同じように少し覗いた俺の指先にそっと絡めて握ってくる。
ケンヤの触り方はいつもぎこちない。けど優しい。
ふんわりと壊れ物を扱うみたいな触り方がとても好き。

「んーなに?なんかくれるん?」
「や、それが、なあ…」

歯切れの悪いしゃべり方。合わせようとしない視線。
口をもごもごさせてその次の句を継ごうとしない。
なんとなく次に出てくる台詞は予想できるけれど(だってケンヤの態度がとても分かりやすい、これは何か後ろめたいことがあるときの、)、繋いだ手をそっと揺らしてその続きを促した。
顔を俯けたままこっちを見る。傷んだ髪から子犬みたいな目が覗く。

「1ヵ月くらいずっと考えてみたんやけど…き、決まらなくて何も準備してないねん…ごめん…」

継がれた言葉はだいたい予想通りのものだった。
ああもう、なんでケンヤはこんなに可愛いんだろうか。
そんな、ケンヤの選ぶものだったら、くれるものだったら俺はなんでも嬉しいに決まってるのに(それこそあの妙な消しゴムコレクションとかだって)。
それに、俺にとってはケンヤが俺のプレゼントを(つまり俺のために)悩んでいてくれたことが嬉しい。それって1ヶ月もずっと俺のことを考えていたってことじゃないか。

「わーケンヤ乙女みたいや、かーわいー」
「うっさいわ!」

言ってやると繋いでいた手をぎゅううと握りしめられた。
それに構わずその手をぶんぶんと振り回してやる。いつもは人目を気にしてこういう派手なことは出来ないけど、今日くらいは、まあ許してほしい。
だって嬉しかったのだから。

「ま、ええわ、とりあえずこれだけは言わんと」

ちょっとだけ歩みを止めて、ケンヤが俺に向き直る。
手を繋いだまんまだから、釣られて俺も立ち止まった。ケンヤのほうを向く。
あたたかい春風に、ケンヤの傷んだ髪がふわふわと揺らされている。夕暮れの赤にケンヤの金色が照らされて揺らされて、綺麗。

「誕生日、おめでと」

こうやって二人で一緒に帰って、ケンヤにおめでとうって言ってもらって、それで満足。だったはずなのだけど。
なんか、だめだった。たぶん今のが何かのスイッチだったんだと思う。
思い出してしまった、いや忘れてたわけじゃないけど、でも今ので急激に自分の中に浮かび上がってきたもの。

やくそく。
ずっとずっと前のこと。
ケンヤの顔。誕生日おめでと、って笑う顔。

そして、その言葉のあとに続いた言葉をケンヤは覚えてるのかな。
なんだか考え出したら止まらなくなってしまった。どうしよう。
愛しいなのか切ないなのかよく分からないものがぶわっと胸の中に広がってきてしまって、すごく苦しくなってしまった。
だめだ、今離れて欲しくない。一緒にいてほしい。

「それでな、今度の土曜日休みやん、部活」
「…うん」
「だから、二人で一緒に」
「ケンヤ、」

だから、今度一緒に遊ぼう、とか。プレゼント買いに行こう、とか。
ケンヤは俺を喜ばせようと思って色々考えていってくれているのだろうけど、そんなのもう俺はいらなかった。
そんなのはいらないからまだ一緒にいてほしい。
今ここで約束したら今日はもう帰ってしまう、それだけはいや。

「そんなんええから、今から家来て」
「へ、」
「今日な、誕生日なのに、10時くらいまでは俺一人なん、だから、お願い」

こうやってお願いしたらケンヤは弱い。
ケンヤの善意とか同情心を煽るようなことを言うのは少し汚いかなあと思うけど(まあ誰もいないのは事実なんだけど)、それでもどうしても一緒にいてほしいと思った。
だってもう、だめなのだ。思い出したらもうどうにも出来なくなってしまった、理性とかそういうのじゃ制御できないくらい勢いよく噴出してくる欲求。
いてほしい、一緒に。そして、あの約束をもう一度、ケンヤに。
ケンヤは少し困ったような顔をして、それから顔を赤くして(またえろいことを考えてる、ほんと分かりやすい奴だ)こくこくと小さく頷いた。


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