終わりの宣告と始まりの合い図

「大晦日になったら……またくるから……」

どこか悲しげにそう言った彼は、まるで闇に溶け入るように消えた。

◇◆◇

「山岸。今日、タルタロス大丈夫?」
「うん、今日は全員出動できます」
「じゃあ、今日行くから」
「分りました、皆さんに連絡しておきますね」
「うん、お願い」



「にしても、ほんとタフだよね。一番ショックだったの、有里君だと思ってたのに」
「体動かしてないと、余計なこと、考えるし。岳羽だってそうだろう?」
「まあね」

シャドウを倒した後、後片付けをしながらそんな話をする。
相変わらず表情が変わらない湊に、ゆかりはただ苦笑を浮かべる。

「次の階の脱出ポイントでエントランスに戻ろうか。私、そろそろ疲れちゃったし」
「了解。目標レベルまで行ったしね」

よいしょ、と立ち上がるとさっさと先に進む彼に、ゆかりは小走りでついていく。
一見無造作に散策しているように見えるけれど、本当は酷く精神を張り詰めていることを、仲間達は知っている。

「最近、ペアで行くことが多いよね」
「まあ、そっちの方が効率がいいからね」
「次はだれと行くわけ? 目標行ってないのって、順平と、アイギスと、天田君だっけ」
「うん、次は順平かな。その次に天田で、最後がアイギス」
「……大丈夫?」
「何が?」
「その、順平とふたりっきりって、気まずくない?」

淡々と会話を繰り返しながら、見つけた階段を上る。
気遣わしげな視線を向ける彼女に、湊は柔らかな瞳を向ける。

「……大丈夫だよ。順平がああいいたくなる気持ちはわかるし、ここでそんな私情を持ちこむほどあいつも馬鹿じゃない」
「………そっか。そうだよね。大丈夫だよね」

無表情ながらも、穏やかな瞳をする湊。それに、ゆかりは安心したように微笑む。
表情が動かない分、彼の瞳は千を語る。そんな瞳をみていると、暖かい何かに包まれているような心地がして。だからゆかりは彼の瞳を見るのが好きなのだけれど、それはちょっとした秘密である。

「さて、脱出ポイントを探しにいこうか」

階段を登り切り、そう足を踏み出した瞬間。

『……そんな、うそ……!?』

無線から、困惑したような、それでいて酷く焦ったような声が届いた。

「山岸、どうした」
『この階、誰かいるんです!』
「は? でも、失踪者の捜索依頼なんてなかったはずじゃ……」

そう、彼女らが毎日欠かさずチェックする失踪者リストは、確かに今日、更新されてなどいなかった。彼女らの困惑とは別のところで、湊も軽く混乱する。
失踪者リストなら、その家族がただ捜索依頼を出していないだけかもしれない。けれど、彼にはエリザベスがいる。果たして、彼女がタルタロスに迷い込んだ失踪者を見逃すだろうか。

「……とにかく、いるんだな」
『はい!』
「なら、探してみる。話はそれからだ。……岳羽、疲労は大丈夫か?」

余りにもきつい様だったら先に帰ってもいいけれど、と心配そうな色を宿す瞳を認めて、ゆかりは勤めて明るく笑って見せる。

「大丈夫大丈夫! そのくらい余裕だって!」
「……無理はするなよ?」
「心配ないってば! ほら、さっさと探しにいこ? ね?」

にっこり笑って促すと、わかった、と頷いて少し早足で探索に入る。
いつものように小走りではないのは、きっと彼なりの気遣いなのだろう。そんな不器用な優しさに少しくすぐったさを感じて思わず笑みがこぼれる。

「? どうかした?」
「あ、ううん。なんでもない」
「やっぱり疲れが……」
「ああもう、大丈夫だってば! あんまくどいと怒るよ?」
「……絶対、無理はしないで」

かなり不満そうにそう付け足すと、先程より更にやや遅い歩調で歩きだす。ああ、余計に心配をかけてしまったと、彼女は気と表情を引き締め、前を見据えた。



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