一足早く春が来ました/シュミリオ | ナノ
一国の王子なのだからきっと私の知らないことも経験しているんだろうなとか、大勢の人を見てきたのだろうなとか言ってみてもこれは全部私の想像だ。
もちろん立場が立場なのでこれまでに辛い思いもたくさんしてしたと思う。それでも彼はいつも何事もないかのように振舞う。
バレてないと思ってるのかもしれないが、秋に彼が国に帰り冬にここに戻ってきて深いため息をついていることをシュミットは気づいていない。
屋敷にシュミットがいないときセルカさんにそのことを相談してみたら、少し驚いた顔をしたがまたいつもの微笑みに変わった。
「よくお気づきですね」
「一応、シュミットの恋人ですから」
なんて胸を張れるほど大したことじゃない。恋人の悩み一つも聞き出せずにいるのだ。
しかし彼に尋ねても「なんでもない」の一点張り。そんなに私は頼りないだろうか。
そんなことを思いながら動物たちを洗っていたら手をすべらせて水を自分にもかけてしまった。ああ冬のせいか余計寒い。何をしているんだろうか。
「リオ!」
振り向くとシュミットが柵の外側に立っていた。
「大丈夫か?水が身体にかかっていたようだが」
「少しだけだから大丈夫」
情けないとこを見られた。普段はこんなミスなんてしないのに。
「とりあえず早く風呂に入らないと…」
「大丈夫!いつもこんな感じだから」
「ダメだ、風邪をひいたらどうするんだ」
そう言われて家まで引っ張られる。
ぼーっとシャワーを浴びながらふと気づく。なんでこんな時間にシュミットが牧場にいるんだろう。普段は来てないはずなのに…。あああああもうほんとに運が悪い!
ため息をつきながら着替えて部屋に戻ると、シュミットが椅子に座っていた。
「リオ、話があるんだ」
いつも以上の真剣な顔。なんだろう、さっきのマヌケな姿を見て愛想尽かしたとか?
「なあに?」
いやもしかしたら本格的に国に帰るのかもしれない。そしたら必然的にお別れだね。あ、やばい。涙が出そう。こらえろ、たえろ。
シュミットはゆっくりと口を開く。
「やっと説得が出来たんだ。結婚しようリオ」
「え…?」
「…いやなら断ってくれ」
彼はポケットから青い羽を取り出して私の前に見せた。
「リオ?」
「…私でいいの?」
耐えていたものが全て目から溢れ出る。
嬉しい、すごく嬉しい。でも
「私はただの牧場主で、いつも泥だらけで、いつもドジばっかりで、王子様のシュミットに、私なんかが奥さんなんて釣り合わないよ」
シュミットのプロポーズは本当はすぐにでも受け入れたい。でも、ほんとうに私でいいのかなんて考えしまう。
私よりもいい人なんて山程いるのだから。
「…確かにオレは一国の王だ。だが王である前にオレは一人の男なんだ。オレはリオだけを愛しているんだ。リオは…オレのこと嫌いか?」
「…好きだよ、大好き」
「なら問題ないじゃないか!」
シュミットの張り詰めていた顔が綻ぶ。
「この羽、受け取ってくれるか?」
「…喜んで!」
一足早く春が来ました