親指で優しく頬を撫で | ナノ






※チハヤ視点

最初は気まぐれのつもりだった。たしかにこないだ膝の消毒をして以降、仲良くなった気がする。前はあまり人付き合いの必要性を感じていなかったが、アカリは少し他人よりも気が抜けているしドジだから目が離せないだけだ。ほんとそれだけ。


「…どうしたのアカリ」
「動物がね、死んじゃったの」

そういえば風の噂で聞いた気がする。アカリの牧場の動物が1匹亡くなったと。

「...でも衰弱死だったんだろ?予定の迎えが来ただけだ」
「分かってる。でも、あの子は幸せだったのかって考えちゃうんだ」
「それは...」

そんなの分かるわけないだろ、といつもの僕だったら言ってしまうだろう。でも何故だか言葉が出てこない。

「...きっと幸せだったと思う。毎日放牧して、話しかけて、ブラシをかけて、こんなにも君に愛されてだから」
「...だといいなあ」

こんな返事で良かったのか。これは正解だったのか。そんなことを考えているとアカリの大きな瞳からポロポロ涙がこぼれ落ちていく。

「ちょっと…泣かないでよ。まるで僕が泣かせたみたいだ」
「ごめんね...ありがとうチハヤ...」

笑顔を作っている彼女はまだ涙が溢れている。手を伸ばして流れる涙を拭ってやる。

「チハヤ...?」
「あっいや、あまりにも酷い顔してたからさ」
「...いくらなんでも酷い!」

そう言ってくしゃくしゃ笑う。ああやっぱり彼女には笑顔が似合う、なんてらしくないことを思う。さっきより心臓がうるさい。アカリには伝わらないでくれ!


親指で優しく頬を撫で










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