(詩子さん宅の鼻血臨也企画献上品)(『いとのいろ』の続編)









「いつまで寝てるつもり?」


静かだった事務所に、凛とした冷たい声が染みた。その声を自分の真上で捕らえた臨也は、こちらを冷やかな目で見下ろす波江をとにかくじっと見つめる。

彼女の長い髪の先がさわさわと自分の頬を撫でる感触を自覚して、どうして自分が彼女の膝元に横たわっているのか、瞬きをする間に逡巡した。



「…えーと、俺、寝てた?」

「それはもう間抜けな顔でね」



電光石火の返答に苦笑しながら、臨也は些か時間感覚のズレた頭のままにこりと笑う。いつの間にか鼻孔の違和感は消えていて、残るのは頭の下の温もりだけだった。



「波江さんの太股があんまり気持ちいーからさ」

「貴方に言われても何の感動もないわ」

「酷いなぁ」



静かな事務所には時計の音だけが響いていた。まだ寝転んだ体勢のまま、臨也は視界の端で時間を確認する。意外にも長い間うたた寝していたようだ。疲れていたのだろうか。



「休むのなら部屋で休んで、迷惑だわ」

「その割には随分大人しく膝を貸してくれてたみたいだけど?」

「重いのよ、貴方は」



ふい、とこちらから視線を逸らした波江の、投げ出された手を取って、ちゅ、と軽く爪に口づけた。そのままちゅ、ちゅ、と何度もキスを落とせば、いつしかこちらを向いた波江が反対の手の平で臨也の頬をそっと撫でる。いつも口うるさいこの男が目を細めてされるがままになっている姿が珍しかった。



「手、あったまった?」

「貴方の頬よりは」

「それは良かった」



今度は彼女の髪に口づけを始めた臨也に、半ば呆れたように波江は息を吐く。ギ、と高級家具が小さく鳴いて、身を屈めた波江が臨也の口端にキスを落とした。瞳の温度もそのままに、流れるような動きだった。



「きざなのは結構だけど、血がついたままよ」

「取ってくれたんだ?」

「こっちにも残ってるけど」

「それも取ってくれる?」



返事はない。臨也はそれでも落ち着いた様子で目を閉じ、あまつさえ薄く微笑むだけであった。

波江の溜息が頭上から聞こえる。またギ、と家具の鳴く音がして、次に自分があの艶やかな髪に包まれるような感覚を覚える。

そのまま彼女の首に腕を回してホールドしてやれば、血なんてどこにもついていない自分の唇に温もりが降った。


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