あいつにとって人間が興味の全てであるように、私は誠二が興味の全て。
たとえ狂っていると言われようと、誠二がいれば何もいらない。ずっとそう思ってきた。
新宿のとあるビルの一室。
いつものように仕事を片付けていると、鼻歌を歌いながらこの部屋の主が帰ってきた。
「えらく機嫌がいいのね。またいつもの彼をからかってきたの?」
にやにやと気持ちの悪い笑みを浮かべて、椅子をくるくると回しているこいつにそう尋ねれば、椅子を止めてこっちを見た。
「やだなー。オレだって暇じゃないんだから、いつもいつもシズちゃんと遊んでるわけじゃないよ」
にやっと笑ってこっちを見るこいつに冷ややかな目を向ける。
が、目に飛び込んできたものに思わず目をみはる。
黒いシャツの首筋からのぞく赤いマーク。
予想外の不意打ちに油断した。
普段はクールにきめているのに、つい素の表情が出てしまった。
そう気づいてももう遅い。
いつの間に移動したのか、気づけば目の前には、さっきより気持ちの悪い笑みを浮かべているこいつがいて。
突然のことに動けなくなった自分が悔しくて、屈もうとしているこいつのシャツを掴んで乱暴に距離を縮める。
「やられっぱなしは好きじゃないの」
シャツを離してそう呟けば、珍しく驚いた顔をしていたこいつが大声で笑い出す。
「ハハッ!いいね。まさか波江からされるとは思わなかったよ。これだから人間ってのは面白い!」
相変わらずオーバーアクションで笑うこいつを冷ややかに見つめる。
今でも私の行動理由は誠二が全て。それは昔から変わらない。
でも、偶には悪くない、と思う。
偶には素顔で
(ところで、そのキスマークは誰のなの?)
(えっ?いやっ、ほら、オレって人気者だしいちいち覚えてな)
(で?)
(………)