カシスと女主






今日は校長のとってもありがたい講義ですの!!


と、ペシュが大騒ぎしていたのは数時間前の事。




まぁ俺がそんな面倒かつ退屈極まりないものに出席なんてする訳もなく、校舎から少し離れた木の枝で昼寝を決め込んだ。その間にありがたい講義とやらはとっくに終わっているだろう。



強い日差しで赤く染まった視界に慣れ始めて、眠気に意識を委ねようとした、が。


がさり、と頭上から顔に落ちてきた葉と物音が邪魔に入った。

落ちてきた葉の端が頬にひっかかって不快だ。

睡眠妨害の原因は鳥かリスか何かか、とりあえず見上げる。


俺から見てちょうど右上の枝にしがみついていたのは鳥でもリスでもなく


一人の少女。



姿や顔は逆光でほとんどわからないが、肩ぐらいまでの金髪がロールを作っているのが陽光に透けて見えた。


学校では見たことのない少女だった。(目に入った女子は片っ端から声を掛けたから間違いない)


「……何してんだ?」


眠りかけだったせいか、いつも口説き文句は出てこない。

俺より幾分小さい体を一瞬びくつかせて少女は硬直した。その拍子に枝へ伸ばしていた少女の手は空を掴み、体がバランスを失った。


「!!」


突然の落下に少女はもちろん、俺も驚いた。
俺が寝ていた枝は割と高い。さらに上の枝に登っていた少女は当然ながら更に高かった。



咄嗟に伸ばした手は届くはずもなく、少女は地面に体をぶつけてしまった。


急いで枝から飛び降りて駆け寄る。骨がどうかしていたら不味いから、出来るだけそっと肩に手を掛けた。



「大丈夫か!?」


意識はあるらしく必死な形相で痛みを堪えていた。

まるで、泣くのを我慢しているかのように。



ゆっくりと、痛々しく瞑った瞼が開く。


「…っ……!!」



俺と同じ色の紫が見えた瞬間、俺のより大きな瞳は更に大きく見開かれた。跳ね上がるように立ち上がった少女はまだ落ちた衝撃が残っているらしく、ふらついた。

「おい、無理すんなよ」


俺が止めるのも聞かずに少女はふらふらとしながら、結構な速さで走っていった。あの様子なら骨が折れた訳でもないだろうから、特に追いかけはしなかった。


にしても、この俺が声を掛けてない女子がまだいたとは。



「なんだ、カシスじゃないか」
背後から聞こえた声は俺より少し幼いが、聞き慣れたもの。


「なんだってどういう意味だよシードル、お前もサボりか?」

「特に意味はないしサボってもいない。君と一緒にするなよ、僕はただ作品が佳境に入ってて本鈴が聞こえなかっただけなんだから」

「絵完成したって単位落としたら元も子もねぇよなー」

「君にだけは言われたくないね」


ため息を吐きながら首を振る仕草は生意気にも様になっている。

「そんな事よりさっきの子、転校生だよね?」

「どうりで見たことないと思った、どこのクラス?」

「はぁ?」

今度デートにでも、と続けようとした言葉は呆れた声で遮られた。


「うちのクラスだよ。先週マドレーヌ先生がHRで紹介してたじゃないか」

「あぁ、多分サボったわ」

二つ年下のガキに本気で呆れられた。今日一番の冷たい視線を感じる。

「まぁ、だったら知らないのも当然かもね」


珍しく早めに視線は外された。



「あの子、初日のHR以外授業出てないから」


君より重度のサボり癖だね、と続けるシードル。



突然現れてその場からすぐさま去っていった彼女が、脳裏からは全く離れない。

突拍子もない行動もそうだが、

今にも泣きそうなのに泣こうとしないあの顔。


女っていうのはすぐ泣くもんなんだと泣かせる度に面倒に思っていた。泣かせた理由と女はざっと20ほどいるが、今はどうでもいい。

とにかく、


「名前は聞かないと何にも始まらねぇよなぁ」

「……一体何を始める気か知らないけど、僕の制作の邪魔だけはしないでよね」





2012/04/08




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