ヘッポコ丸とビュティ



「キ――――ッ!!!何よ、ヒロインの私を差し置いてぇぇええ!!!!」

パチ美こと首領パッチが、風船片手に空に舞い上がる。
真っ黒に塗ったくられたマスカラの目が、木の上の人物を映す。
その木の上には寄り添い合う、銀と桃。

ハンカチを半ばちぎるような勢いで噛み締める首領パッチ。


背後には、奇妙な…鳥?


頭は黄色いアフロ。
目には、三角サングラス。

明らかに怪しい…


サングラスが一瞬輝く刹那、首領パッチの風船に嘴が食い込んだ。



ひゅるるる〜とオレンジの物体が落ちていく。


「なぬ!!!!?ならばお前も道連れだぁあああ!!!」

がしりと掴んだのは、ヘッポコ丸の足。

「な、っ!!!」

ヘッポコ丸はいきなりの事態に対応しきれず、枝から引きずり下ろされてしまった。


「ん……へ、へっくん!!?」

眠りの世界から一気に現実に引き戻されたビュティ。

「ハッハハー!!ざまーみろ!!!」

「首領パッチてめーっ!!!」


空中でいがみ合う二人。

地面に激突するかと思われた、その時。


「人の恋を邪魔する奴は、恋に蹴られて死ねーッ!!!」


「ボーボボさんんん!!!!!?」


瞬時に顔が爆発しかける純情少年。


「鼻毛真拳奥義、『鯉の滝登り!!!』」

「そっちの鯉――!!!!!?」

ボーボボの鼻毛とともに、地面から大量の鯉と水流が暴発し、首領パッチに直撃する。


あーれー、となんとも情けない声を上げ、首領パッチは空のお星さまとなりました。


「逃げるのかぁ!!!首領パッチィイッ!!!!」



誰が飛ばしたのなぞ忘れたとでもいうように、ボーボボは走り去っていく。
その速さは神の域に踏み込まんばかりである。

道連れにされたヘッポコ丸も、吹き飛ぶまでは至らなかった。
が、水流だけは避けきれず、全身水を被ってしまっていた。



「ちっ、あんの野郎……」

びしょ濡れの髪を掻き上げ、首領パッチの消えた方角を睨んだ。


「へっく……きゃっ!」


慌てて木から下りてきたビュティは、足を躓かせる。

「ビュティ!!」
咄嗟に腕を伸ばし、落ちてくる体を受け止めた。

「っ…大丈夫か?」

「うん大丈夫、ごめ…」


ビュティの言葉が途切れる。


普段は刺を思わせる髪が、水の重みで下へと流れて。
白銀は、艶やかに光を吸収している。
紅く切れ長な瞳が、濡れた髪から覗く。


いつもと違う雰囲気が漂う彼。


頬が、身体中が、熱い。




紅い瞳が、徐々に近づく。

不思議と逸らす事が出来なくて、気がついたら唇に柔らかいものが触れていた。
それは、少し冷たくて濡れていた。


少しして、唇が涼しく感じられたその時。

ようやく状況を飲み込む。


「〜〜〜〜っ!!!」



声にならない叫びを上げて、思わず立ち上がる。
そして、走った。


まだ、頬の熱は冷めないままに。






一人残されたヘッポコ丸は濡れたままの髪を手で鷲掴み、息を一つつく。



あんなに、真っ赤な顔で見られたら――…


可愛すぎて、せずにはいられなかったんだ…


そう心で言い訳する彼もまた、頬を真っ赤に染め上げていた。







追記。

その後、ソフトンにばっちり見られていたヘッポコ丸は、バビロン神の裁きを数十回にわたって喰らったらしい……合掌。



2012/03/26




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