ヘッポコ丸とビュティ






少し前に、小さな物音がしたような気がする





「ん………、」



瞼を持ち上げると、少しだけ視界が明るくなった。

まだ、月しかない深夜だった。


部屋の空気はしんとしていて、私の息だけが耳に木霊した。

また寝ようと思ったそのとき、


ド、バタ…ン


何かがぶつかって、倒れたような
そんな音が、ベッドの向こうに聞こえた。


一瞬で目が覚めた。


マルガリータ帝国の刺客…?


少しの恐怖に震えながら、ゆっくりと身体を起こす。


そこに倒れていたのは、


「………!!へっくん!!」


隣で寝ていたはずの彼。


厚手のブランケットをはね除けて、床に倒れている彼に駆け寄った。



息が荒い。
頬に触れてみると、私の手とそんなに変わらない。
それでも、頬はじっとり汗で湿っている。


ひとつの予想が、口からこぼれた。


「修行、してきたの…?」

荒い呼吸も疲労のそれで、
強く握られた拳には、新しい傷。


ちくしょう……っ!!


軍艦に負けてしまった時の、彼の顔がはっきりと浮かんできた。


まだ、戦いの傷も癒えてないのに、



彼を何とかベッドに横たえさせて、ブランケットを掛けた。

少しでも冷やさないように、タオルで額の汗を拭う。


「う……」



薄い唇から、低い声が聞こえた。


うっすらと覗いた紅い瞳。


「へっくん…!起こしちゃってごめんね」



返事はなくて、顔だけをこっちに向けている。
目は遠くを見つめているようで。
まだ、寝ぼけてるみたい。

「無理しないでへっくん、今日はもう休もう?」

「ビュティ」

さっきとは違う凛とした声が、妙に耳にはっきりと届いた。
思わず彼の顔を、見つめてしまう。




「俺…、強く、なるから」




小さく呟いたあとに、再び彼の瞼は落ちてしまったけれど




その瞳は、強く私を捉えていた。





2012/03/26




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