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"ザ・ロック"

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 承太郎さんと相談した結果、虹村の身柄は、SPW財団という機関に預けられる事になったらしい。虹村形兆は『弓と矢』で数人殺害してしまっているものの、経緯が経緯だったのと、既に事故死として片が付いていた為、今後はSPW財団への協力を義務付けられる事と引き換えに、処罰は無いらしい。
 それから、『弓と矢』を実際に利用していたのは虹村形兆だった為、弟の虹村億泰の方は、父親と共にあの家に留まっている事となった。虹村形兆も暫くはSPW財団の元で色々と尋問を受けるだろうが、その後は家に帰して貰える事になっているようだ。SPW財団は同時進行として父親の件も治す方法を探ってくれるようだし、とりあえずは良い方向に進んで行ってくれているのではないだろうか。

 私も仗助くんも億泰くん――最初は『虹村くん』だったのだけれど、「かたっ苦しいの好きじゃあねーんだよな〜ッ」と言われた――も家が近所だという事で、登下校が一緒になるのはごく自然の事だった。仗助くんは最初こそ「グレートにヘビーだな」なんて複雑そうなコメントをしていたけれど、億泰くんも根は優しいしフレンドリーな人なので、溶けこむのにそう時間は掛からなかったように思える。
 今日も今日とて、仗助くんと億泰くんと合流し、学校までの道のりを他愛無い会話と共に進んで行く。のんびりと歩いていると、前方に見知った姿を見付けた。道端に設置されたベンチに座っている、何ともガラの悪そうな男と喋っているのは、広瀬くんじゃあなかろうか。

「……ね、ねえ、あそこに居るのって広瀬くんじゃあないかな…?」
「え?…おー、ほんとだぜ 康一のやつじゃあねーかよーっ」
「ああ ありゃたしかに康一だなァ〜 あいつ人づきあいいいけどよ〜 けっこうガラの悪そうなヤツとつきあい多いよなー」

 微妙にコメントに困る発言である。三人で近付いて行くと、広瀬くんの様子が明らかにおかしい事に気が付いた。何かを抱えるようにしてその場に座り、その前にはガラの悪そうな男がしゃがみ込んで、財布からお金を抜き取っている。その様子からは、カツアゲ、という単語が頭の中に浮かんで来た。
 よくよく見てみれば、広瀬くんの胸からは大きな錠前のような物が飛び出していて、彼はそれを抱えているようだ。胸から錠前が生えているだなんて、どう考えても普通じゃあない。おそらく男はスタンド使いで、広瀬くんはスタンド攻撃を受けているのだろう。

 仗助くんが「なにやってんスか?あんた?」と背後から声をかけると、広瀬くんと男が此方を向く。広瀬くんは助かったとばかりに、パッとその表情を明るくさせた。

「じょっ!仗助くんに億泰くんーッ それに二星さんまでッ」
「ひ、広瀬くん、大丈夫ッ…!?」
「今…康一のサイフから盗ったもん元に戻してくださいよ 社会人が高校生に タカリかけてんスか?働いてカセいでくださいよ」
「あのねーっ ボウヤたちはひっ込んでなよ〜っ これは2人の問題つーもんでしてねーっ」

 見ていれば見ているほど胡散臭そうな人だ。億泰くんと共に広瀬くんに近寄り、その胸から生えている錠前に触れてみるけれど、まるで身体の一部かのようにくっついていて、取る事が出来ない。
 仗助くんが錠前を外すように言うと、男は此方を鋭く睨み付けながら、「『罪を犯したモンにゃあつぐないを支払ってもらう』それが社会のルールってモンだァ〜っ」と怒鳴った。男の話によると、広瀬くんは自転車で登校途中、袋に入れられた子猫を轢き殺してしまったのだという。その償いとして、先ほど盗られたという七千円の他に、50万円を要求されているようだ。

 高校生に50万円なんて大金が用意出来る筈も無いし、大前提であるその子猫の件も怪しいものだ。そう思っていると、億泰くんが男に歩み寄り、顔を殴った。思わずビクッと肩を揺らしてしまう。億泰くんは鋭い眼光で男を射抜きつつ、「ウダウダ言ってんじゃあねーぞこのタコ!」と怒鳴った。

「おれはスっとろいことは嫌えなんだからよッ!さっさと七千円返せっつったら返せよボケがッ!」
「お、億泰くん…!」

 殴られた男はよろよろとふらつき、すいっと不自然に足を上げると、そのまま地面に転ぶ。その拍子に段差にぶつかって前歯を折ったようで、男は「イイイイイデェェ〜ッ」と大袈裟なくらいに悲鳴を上げた。
 どう見ても不可解なふらつきだったのだけれど、血を流しながら泣いている姿を見ると何だか少し可哀想にも思える。億泰くんも同じだったのか、「お…おい待てよ だ…大丈夫か…」と声を掛けた。しかし、それこそが男の狙いだったらしい。

「億泰くんッ!そいつに対して『罪の意識』を感じちゃあだめだッ!」

 広瀬くんが叫んだのとほぼ同時、ガシャンッという音と共に、億泰くんの胸にも錠前が出現した。男のスタンドは、対象が抱いた『罪の意識』に反応して錠前を出現させる能力を持つようだ。広瀬くんの様子を見るに、その『意識』が大きければ大きいほど、錠前の重量も増すらしい。
 更に、錠前が付いている者が本体である男に攻撃すると、ダメージは跳ね返ると言う。つまり、広瀬くんも億泰くんも男には手出しが出来ないという事。何とかしなくては、とおろおろとしていると、仗助くんがいつの間にか離れたところにある袋を持ち上げていた。あれは、男が言っていた子猫だろうか。

「おい…康一がひき殺したネコってのはこいつのことかい?」
「あっ!ぬ…ぬいぐるみと……ち…血袋〜?」
「どれ…口の中もみせてみろよ 折れた前歯ひろってきた?」

 広瀬くんが轢いたという袋を開けると、中には微かに鳴き声を上げる猫のぬいぐるみと、血袋が入っていた。つまり、男はやはり広瀬くんを騙してお金を巻き上げようとしていたのだ。
 それから、仗助くんは男の元へ歩み寄り、『クレイジー・ダイヤモンド』で男の怪我を治した。これによって、広瀬くんも億泰くんも『罪の意識』が消え、胸に付いていた錠前も綺麗に消える。

「じょ…錠が…消えた やったぁ!心が軽くなった感じだよ!」
「な…なんだ…てめーは?なんだ?てめーのその『能力』はッ!お…おれのそばに よ…寄るな〜っ」
「おい 七千円を忘れてやしねーか…?」
「わ…わかったよ…返すよ ち…近づくな〜っ」
「金をおいたらさっさと消えうせろボケーッ!」

 錠前が消えて一気に不利になったと察したのか、男は広瀬くんから奪った財布を地面に置くと、呆気無く逃げて行った。随分とあっさり引いたものだな、と不思議に思っていると、財布から覗いていた紙幣が破られている事に気が付いた。
 端の方だけ三角に破られているそれは、銀行に持って行っても取り替えては貰えないだろう。つまり、男はどさくさに紛れ、ちゃっかりお金を奪って行ったのである。

 朝一番から、なんという不運な出来事に見舞われたのだろう。これではあまりにも可哀想だ。しょんぼりとしてしまった広瀬くんに、私達はどうしたものかと顔を見合わせたのだった。


***


 ――そして、その翌日。登校途中に広瀬くんと合流した私達は、目の前の光景に、ぎょっと目を見開いた。

「康一どの!学校までカバン持たせていただきますッ!」
「ねえ〜やめてくれよ ほ…本当に持つ気?」
「モチロンですッ!いよ!康一どの!きまってますよ!男の中の男!」
「え…ええ〜ッ…?ど、どういう状況…?」
「お…おい?いったい?どーなってんだ?こいつはよおーっ!?おい億泰〜ヒナ〜っ」
「おれに聞くなあ〜 おれ頭悪いんだからよ〜っ」

 男はまるで別人のような態度で、広瀬くんの鞄を手にへこへことしている。まるで舎弟だ。広瀬くんも広瀬くんで満更でもなさそうだし、話が全く読めない。昨日の今日で一体何があったというのか。
 昨日、あの一件の後に家まで押し掛けて強請に来たという男――小林玉美を、自身のスタンド『エコーズ』で返り討ちにしたのだという話を聞いたのは、学校に着いてからだった。私達の中で、広瀬くんのイメージが少し変わったのは言うまでもないだろう。