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 そこに居る、見える、触れられる。それがこんなにも素晴らしい事だなんて、思わなかった。私が『スタンド』を発現してから早一週間。皆の『スタンド』と交流出来るようになって、私は幸せを噛み締めていた。
 今、私の目の前には、『クレイジー・ダイヤモンド』が佇んでいる。綺麗な色をしている目は私をしっかり捉えていて、思わず魅入ってしまう。吸い込まれてしまいそうだな、なんて考えながらも、じいっと見つめ返した。

「……お前よ〜ッ、楽しいか?」
「仗助いたの?」
「よーし、良い度胸してんじゃあねーかなまえ…」
「うそうそ!冗談だって!」

 読んでいた漫画を置き、ゆっくり腰を上げようとした仗助に、慌てて返す。仗助が居るが、此処は私の部屋だ。『クレイジー・ダイヤモンド』を眺めさせて貰おうと思ったのだけれど、外だと不審がられるので、半ば強引に部屋へ連れて来たのである。『クレイジー・ダイヤモンド』の前に正座している私を見て、仗助は呆れたように息を吐いた。

「つーかよぉ〜ッ、なまえ、お前いつまでそうしてんだよ…」
「……飽きるまで?」
「……飽きんのか?」
「当分飽きない」

 めっちゃ嫌そうな顔された。そんなあからさまに表情に出さなくても、と思いながら、私は慌てて口を開く。

「だ、だって、やっと見えるようになったんだよ?嬉しくてつい…」
「………もうちょっとだけだからな」

 はあ、と深い溜息をつきながらも、仗助は『クレイジー・ダイヤモンド』を出したまま、再び漫画を読み始めた。今まで私が『スタンド』を見えない事を残念がっていたのを知っているからこそだとは思うけれど、もう少しだけと時間をくれる仗助は本当に優しい奴だ。
 密かに笑いながら、私は『クレイジー・ダイヤモンド』に視線を戻す。彼は変わらず私をじっと見つめたまま微動だにしない。あまりにも動かないものだから何だか心配になって、目の前でひらひらと手を振ってみる。

「……わ、」

 驚いたのは、『クレイジー・ダイヤモンド』が私の手にそっと自分のそれを重ねて来たからだ。感触はあるのに体温が感じられなくて、何だか不思議な感じがする。『クレイジー・ダイヤモンド』と感覚を共有しているからか、仗助がちらと私の方を見て来たので、とりあえず笑って誤魔化してみると、仗助はまた溜息をついて視線を戻した。
 この手が怪我や壊れた物を直しているのか、なんてぼんやり考えながら、『クレイジー・ダイヤモンド』の手をまじまじと見つめる。暖さこそないけれど、優しい手だという事だけは分かる気がした。

「……優しい手。仗助とそっくりだね」

 へら、と笑いかけると、『クレイジー・ダイヤモンド』はぱちりと瞬きをした。珍しい反応だな、と思った次の瞬間、『クレイジー・ダイヤモンド』が動く。距離を詰められたと分かった時にはもう、ぎゅうと力強く抱き締められていた。

「んわ、…な、なになに?どうしたの?」
「ッこ、コラ!てめー、『クレイジー・ダイヤモンド』!戻れ〜ッ!!」

 ぐりぐりと肩口に額の辺りを埋められてぎょっとしている私に、仗助が慌てたように立ち上がって叫ぶ。嫌だとばかりに私を抱きしめる腕に更に力を込めた『クレイジー・ダイヤモンド』に、仗助の表情がひくりと引き攣る。
 仗助がプッツンする前にと何とか宥めすかして渋々ながら離れて貰ったが、それから暫くの間、『クレイジー・ダイヤモンド』は私を抱き締めたままだった。物凄く焦っていた仗助には悪いけれど、何だか可愛らしくて、私の口元は緩みきってしまっていたのだった。