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「#エロ」のBL小説を読む
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 ダンダンダン、と誰かが足踏みをしているような音が聞こえたような気がして、反射的に足を止める。普通に歩いたんじゃあ鳴らない音だ。振り向いてすぐ、近くの角から足音と共に、足跡が近付いて来るのが見えた。
 地面に刻まれる足跡。その足跡はのっぺりしていて、指の跡まで残っている。靴底の跡ではなくて、素足で地面を踏み締めたような跡だ。ただし、その足の持ち主は辺りには見えない。足跡だけが見えるのと、その足跡が不思議な事に消えたり現れたりしているところを見るに、これはやはり。

「…『ハイウェイ・スター』?」

 声が聞こえたのか、私から少し離れた場所で、ぴた、と足跡が止まる。じっとその足跡を見ていると、少しの間の後で、ぐるぐるとその場をうろつくように地面に足跡が着いた。何やら戸惑っているようだ。
 小さく笑って、「おいで」と声を掛ける。『ハイウェイ・スター』の足跡は迷うように二三歩その場で歩いてから、距離を詰めるように歩いて来た。

「今日は噴上くんはいないの?」

 尋ねてみるも、当たり前ながら答えは聞こえて来ない。本当は答えてくれているのかもしれないけれど、分からないのでこればかりは仕方がないだろう。
 噴上くんとは仗助を通じて知り合ったのだけれど、学校が違う事もあって、交流はそう深くない。それでも『ハイウェイ・スター』は私の事を好いてくれているようで、噴上くんの姿を見掛ける度に追い掛けて来てくれるのだ。

 確か、『ハイウェイ・スター』は本体である噴上くんから距離が離れていても動ける、遠距離型という括りに入るのだったか。だとしたら、噴上くんは近くには居ないかもしれない。
 私がこのまま歩けば、『ハイウェイ・スター』も着いて来るだろう。これ以上噴上くんから離れても大丈夫なものなのかなあ、と疑問に思った時だった。

「やっと見付けたぜ……やっぱりなまえンとこだったみてェだなァ〜…」
「わッ!?……あ、ふ、噴上くん!」

 聞き覚えのある声が背後から聞こえ、反射的に飛び上がる。振り向いた先には、噴上くんが立っていた。「えっと、お久しぶりです…」と言葉を掛ければ、「おお」と短く声が返ってくる。どうやら、『ハイウェイ・スター』を追って来たらしい。

「……急に『ハイウェイ・スター』が出たと思ったら、そのままどっか行っちまうからよぉ〜ッ、驚いたぜ」
「そ、そうなんだ…」
「覚えのある匂いがしたから追ってみたら、案の定お前がいたっつーワケよ。…自分のスタンドながら本能がスゲーっつーかよォ〜…」

 『ハイウェイ・スター』の追跡能力もそうだけれど、噴上くんの鼻の良さは凄いと思う。私ってどんな匂いがするのだろう、なんて密かに考えていると、噴上くんが「ほら、もう戻れ」と『ハイウェイ・スター』が居るであろう方向に声を掛けた。
 しかし、足跡は私の横から動かないままだ。噴上くんは少し驚いたように目を丸くしてから、ため息を吐き、「…戻る気がねーってか…」と頬を掻いた。

「…仕方ねーなァ…なまえ、時間あんならよぉ〜、このままちょっと散歩でもしてくれねーか?」
「う、うん、それは勿論構わないけど…」
「それじゃあ行こうぜ。…正直言うとよぉ、お前とはゆっくり話してみたいと思ってたんだよなァ」

 「いつも仗助達と居るから話し掛けづらくてよぉ〜」と笑った噴上くんは、私の横に来ると、ごく自然に私の腰元に手を回した。近さに思わずぎょっとしてしまうが、当の噴上くんは「どうかしたか?」と不思議そうにしている。
 いつも女の子と親しく接しているからか、やたらと距離が近い。嫌じゃあないんだけど、何というか、恥ずかしいなあ…。何となく気恥ずかしくて、密かに頬を掻いた時だった。

 ダンダンッ、と特徴的な音がしたかと思うと、噴上くんが「うわッ!?」と声を上げる。驚いて横を見れば、噴上くんがぎょっとしたように目を丸くして、私から距離を取っていた。私と噴上くんの間には、まるで割り入るように、いつの間にか足跡が付いている。どうやら、『ハイウェイ・スター』が間に居るらしい。

「こ、こら、『ハイウェイ・スター』ッ!てめーッ、邪魔すんじゃあねーッ!」
「……は、はは……」

 『ハイウェイ・スター』に向かって怒る噴上くんに、私は小さく苦笑を漏らす。正直助かった――なんて思ったのは秘密だ。心の中で『ハイウェイ・スター』にお礼を言いつつ、私は密かに胸を撫で下ろしたのだった。