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 雲一つない快晴。風は強いものの、ぽかぽかとした陽気は散歩していて気持ちが良い。小さく鼻歌を歌いながら、のんびりと外を歩いていた時だ。とん、と背後から誰かに肩を叩かれて、足を止めた。

「はい?……ん?」

 振り向いた先、此方に向かって歩いて来ている承太郎さんの姿を見付けた。承太郎さんは両手をポケットに突っ込んでいるし、そもそも距離があるので手を伸ばしたところで私の肩には届かないだろう。
 ――と、すると?密かに思いながら、目の前までやって来た承太郎さんに小さく笑いかける。

「承太郎さん、こんにちは」
「ああ。…すまない、驚かせたか」
「ちょっとだけ……ええと、『スタープラチナ』さんですか?」

 承太郎さんは「ああ」と短く答えると、困ったように息を吐いた。私の肩を叩いて足を止めさせたのは、やはり承太郎さんではなく、『スタープラチナ』さんだったらしい。まあ、予想はしていたけれども。
 小さく笑いながら、「『スタープラチナ』さんもこんにちは」と挨拶をしてみれば、一瞬だったけれど、ふわりと頭を何かに触られたような感触がした。承太郎さんが何とも言えない表情を浮かべている辺り、おそらく、『スタープラチナ』さんが挨拶代わりに私の頭を撫でてくれたのだろう。

 何だか擽ったくて、へら、と笑えば、承太郎さんは「…やれやれ」と指で帽子のつばを引き下げる。承太郎さんはホテルに帰っている途中だったようで、途中まで一緒に歩かせて貰う事になった。
 他愛ない話をしながら歩いていると、時たま承太郎さんが何かを気に掛けるように此方を見ているのに気が付いた。…いや、私というか、私の横、と言った方が正しいかもしれない。私越しに何かを見ているようだ。…と、いう事は。

「……もしかして、『スタープラチナ』さん、出てます?」
「……ああ。君の横に居る」

 やっぱり。「どうも言う事を聞かなくてな」と苦々しく言う承太郎さんに、思わず苦笑してしまった。承太郎さんの隣を歩く私の、そのまた隣に『スタープラチナ』さんが並ぶように浮かんでいるようだ。見えないのが残念である。

 承太郎さんの『スタンド』、『スタープラチナ』さんについては、以前、仗助から少し聞いた事がある。仗助の『クレイジー・ダイヤモンド』や億泰くんの『ザ・ハンド』のように人型で、まるで西洋の彫刻のような造形をしていて、とにかく格好良いのだと聞いた。
 『スタープラチナ』さんはどんな姿なのだろう。何度も想像してみようとしたけれど、私の乏しい想像力ではなかなか上手く描き出せない。一度だけ、いや、一瞬だけでも良いから、姿を見てみたいものだ。

「……きっと、ものすごくカッコイイんだろうなぁ……」
「……何がだ?」
「えッ!?…あ、ええと、いやぁ〜……」

 ぼんやり考えていた所為で、うっかり口に出してしまっていたらしい。視線を泳がせた私に、承太郎さんが不思議そうな表情を浮かべる。「承太郎さんが格好良いので、『スタープラチナ』さんも格好良いんだろうなって思っただけです!」なんて流石に言えない。呆れられてしまいそうだ。

「…あ、あーっと、…そうだ、『スタープラチナ』さんって、どんな事が出来るんですか?」

 思い切り話を逸らしてしまったので、承太郎さんは訝しげな視線を私に送って来た。冷汗が流れるも、笑顔で何とか乗り切ろうとしてみる。折れたのは承太郎さんの方で、「……まあ、色々と出来るな」と答えを返してくれた。優しい。
 『スタープラチナ』さんの能力についても少しだけ聞いた覚えがある。とても速いスピードで動けて、尚且つ正確で緻密な動きが出来、その上、時を止める事が出来るのだとか。時を止められるなんてまるで魔法か何かのようで、純粋に感動した覚えがある。

「あの、時を止められるって本当なんですか?」
「…まあ、ほんの一瞬ではあるがな」
「す、すごい…!!」

 一瞬でも何でも、時を止められるというだけで感動ものだ。仗助は何度か体験した事があるらしいのだけれど、何だか羨ましい。

「掛け声とかあるんですか?」
「…掛け声」
「こう、例えば、…あー、時よ止まれ!とか、」

 そう声を上げた、次の瞬間。何故か言葉が詰まり、不思議な感覚に襲われる。上手く説明出来ないけれど、何というか、違和感があるというか…?「……んん?あれ、今何か……?」と呟きながら目をぱちぱち瞬いていると、承太郎さんが静かに口を開く。

「………止まってたぞ、なまえくん」
「えッ?」
「今、『スタープラチナ』が一瞬時を止めたんでな」
「……え〜ッ!?と、時止まったんですか!?ウソ!?」

 どうやら、『スタープラチナ』さんがこっそり協力してくれたらしい。体験した仗助を羨ましく思っていた事がバレたのだろうか。感動のあまり言葉に詰まり、バッと反対隣を向くも、『スタープラチナ』さんの姿は私には見えない。この喜びを伝えたいのに!
 腕をバタバタと振っていると、分かった分かったとばかりに承太郎さんに頭を撫でられる。それから、「感想でも聞いておこうか」と小さく笑われ、私は興奮が冷めやらないまま、承太郎さんを見上げて口を開く。

「何だか魔法使いにでもなった気分ですッ…!」
「……やれやれ。そんな可愛いモンじゃあないんだがな…」

 ちら、と私越しに『スタープラチナ』に視線を遣ったらしい承太郎さんは、ほんの一瞬だけフッと口元を緩める。そして、お決まりの台詞と共に、帽子のつばを引き下げたのだった。