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「#エロ」のBL小説を読む
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 帰りのHRを終えて少し経った頃、帰ろうと廊下を歩いていると、突然目の前の景色がぱっと変化した。きょろきょろと辺りを見回すと、つい先程通り過ぎた筈の教室が前方に見える。不思議に思って首を傾げながら歩き始めたのだけれど、数秒もしない内に、また景色がぱっと変化して、やはり通り過ぎた筈の教室が前方にあった。
 どう考えてもおかしい。更に首を傾げ、今度は早足で廊下を歩いたのだけれど――数秒後、やはり私は通り過ぎた筈の教室を前に見ていた。何故だ、何故前に進めないんだ…!

 何だか恐怖すら覚え始めて来た頃、私はふとある事に気が付いた。ゆっくりと顔を上げ、教室がどこのクラスかを確かめた後で、開いているドアからこっそりと顔を覗かせ、中を見る。そうして、やはりな、と密かに納得した。
 教室の中には、億泰くんと康一くんが居たのだ。机に向かっている億泰くんは一枚の紙を見下ろして険しい表情を浮かべており、その前の席で彼と向き合うように康一くんが座っている。どうやら二人で何かしているようだ。邪魔してしまうのも悪いかと思ったのだけれど、このままでは私も帰れそうにないので、「あのう…」と恐る恐る二人に声を掛けた。

「おっ、なまえじゃあねーかよぉ〜!」
「ごめんね、取り込み中かな…?」
「あ、ううん、億泰くんの課題をちょっと手伝ってるだけなんだ。宿題のプリントを忘れたせいで課題出されちゃったらしくて…」
「明日出すっつったのにダメだって言うからよぉ〜…」

 口を尖らせて拗ねたように言う億泰くんに思わず苦笑していると、康一くんに「それで、どうしたの?」と尋ねられる。帰ろうとしてこの教室の前を通ろうとしたのだけれど、何度通り過ぎても位置が戻ってしまって、何故か先に進めないのだと説明すれば、二人はきょとんと目を丸くした。しかし、すぐに二人とも何かに気が付いたように「あッ!」と声を上げる。

「『ザ・ハンド』!てめーッ、何勝手に出てんだコラァ!」
「い、いつの間に…」

 どうやら、億泰くんのスタンドである『ザ・ハンド』が私の横辺りに居るらしい。例によって私には見えないけれど、億泰くんは立ち上がってビシッと私の横を指差して怒っているし、康一くんも私の横を見ている。思った通り、あの不思議な出来事は『ザ・ハンド』の仕業だったようだ。

「わりーなぁなまえ〜…」
「ううん、全然大丈夫だよ。ちょっとびっくりしただけだから、あんまり怒らないであげてね」

 申し訳なさそうに頭を掻く億泰くんに、へらりと苦笑しながら返す。そりゃあ驚きはしたけれど、『ザ・ハンド』に悪気は無かったと思うし、私の事を呼びたかったのだとすれば可愛らしいとさえ思うのだ。「お前ほんといいヤツだなぁ〜ッ…」と何処か感心したように言う億泰くんに、思わず「大袈裟だよ…」と笑う。
 とにもかくにも、これで先に進めないという一件は解決した。これ以上億泰くんと康一くんの勉強を邪魔しては申し訳ないし、そろそろ退散するのが良いだろう。

「それじゃあ、あんまりお邪魔しちゃうと悪いから、私はこれで……」

 二人に手を振って別れようとしたのだけれど、踵を返したところで、何故か体が動かなくなる。――いや、正確に言うと、足が異常に重たくて、一歩も前へ進めないのだ。まるで、床と足裏が強力な瞬間接着剤か何かでくっつけられたかのように、動きもしない。
 どうした事だ。目を丸くしていると、背後で「ああ…」と康一くんのため息にも似た声が聞こえ、私はもしやと思い振り返る。康一くんは片手で顔を覆っていた。

「…ええと、康一くん…」
「……ごめんね、なまえさん。『エコーズACT3』がなまえさんの足を重くしているみたいで…」

 やっぱり。苦笑する私に、康一くんは自分の斜め前辺りの何も居ない空間に向き合って、「もう!早く解けってば!」と怒っている。しかし、康一くんの言葉も虚しく、私の足は一向に軽くはならなかった。
 『エコーズACT3』は仗助達のスタンドと異なり、喋る事が出来るのだという話しをふと思い出した私は、「なんて言ってるの?」と康一くんに尋ねてみた。康一くんはため息を一つついて、「…なまえさんにここに居て欲しいんだって言ってるんだ…」と困ったように言う。ううむ、なるほど。

「…それじゃあ、『エコーズ』に言って貰えないかな?椅子に座りたいから、能力を解いて欲しいって」
「えっ!?で、でも、なまえさん…」
「大丈夫だよ、この後は特に予定もないし…私も、もう少し皆と居たいから」

 皆、というのは、康一くんと億泰くんも勿論だけれど、『エコーズ』と『ザ・ハンド』の事も入っているつもりだ。そして、私の足がふっと軽くなったのは、それからすぐの事。どうやら『エコーズ』は能力を解いてくれたようだ。
 軽くなった足を床から離し、億泰くんの席の隣にあった椅子を引いて、彼の机の横に座る。目を丸くする二人を他所に、「それに、私も少しくらいなら億泰くんの力になれるかも」と話せば、億泰くんが「なまえ〜ッ…!」と声を上げる。

「お前、やっぱり本当にいいヤツだよなぁ〜ッ…!」
「…僕、相手がなまえさんで良かったってつくづく思うよ…」

 目を潤ませる億泰くんに、しみじみと話す康一くん。そんな二人を前に、私は「だ、だから、大袈裟だってば…」と思わず苦笑してしまったのだった。