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「#エロ」のBL小説を読む
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 委員会の仕事が長引いてしまって、辺りが暗くなり始めた頃、私は漸く帰路に着いた。仗助は待っていてくれようとしたのだけれど、私一人の為に待たせておくのも何だか悪い気がしたので、億泰くん達と先に帰っていて貰っている。一人で静かに帰るのも何だか久しぶりのような気がした。
 欠伸を零しながらのんびりと道を歩いていると、くんっと何かに背後から制服を引っ張られたような感覚がして、反射的に立ち止まる。後ろを振り向いてみても誰も居ないし、辺りには何処かに引っ掛けそうなものも無い。

 何だろうなあ、と不思議に思いつつも歩き始めたのだけれど、数秒も経たない内に、また何かに制服を引っ張られたような感覚がした。これは流石に気の所為では無いだろう。
 もしかして――と、とある事を思い浮かべた時だ。背後から足音が聞こえて来て振り向くと、見知った人物が角を曲がったところだった。何処か焦ったような表情を浮かべていたその人は、私を見るなり驚いたように目を丸くして、それから大きな息を吐いて肩を落とす。

「……やっぱり君だったか…」
「露伴先生、こんにちは。…もしかして、『ヘブンズ・ドアー』が私の制服を引っ張ってたりしますか?」
「……ああ」

 その人の名前は岸辺露伴、色々とあって知り合う事になった有名漫画家の大先生だ。彼もまた『スタンド』を有している。私の制服を引っ張っていたのは、露伴先生の『スタンド』である『ヘブンズ・ドアー』だったようだ。
 くいくいと制服の裾が何かに引っ張られるように不自然に突っ張っているのを見る限り、『ヘブンズ・ドアー』はよほど私の気を引きたいらしい。姿こそ見えないけれど、可愛らしいものだ。ふふ、と小さく笑って、おそらくこの辺りに居るのだろうなと目星をつけてそっと手を伸ばしてみる。

 「この辺りですか?」と尋ねてみれば、露伴先生は小さく息を吐き、頷いた。一瞬だけ空気とは違う何かに触れたような気がしたのだけれど、今のが『ヘブンズ・ドアー』なのだろうか。そうだと嬉しいのだけれど。密かに思っていると、露伴先生が口を開いた。

「…君が一人で帰っているのは珍しいな。いつもはあのクソッタレ仗助達と一緒に騒がしく帰っているのに」
「どうしてそんなにトゲトゲしいんですか……。今日は遅くなりそうだったので、仗助達には先に帰っていて貰ったんです」

 苦笑しながら返せば、露伴先生からは「ふうん」と素っ気ない声が返って来る。露伴先生は康一くんに対しては友好的だけれど、仗助とは色々と確執があるようで、非友好的な態度を取る事が殆どだ。とはいえ、何だかかんだ言って仗助と露伴先生も良い関係性だとは思う。もう少しお互い素直になれば言う事は無いだろう。……絶対怒られるから言わないけれども。
 肩に掛かっている鞄と、小脇に抱えているスケッチブックを見ながら、露伴先生に「スケッチしていたんですか?」と尋ねてみる。露伴先生は一度頷いて、「さっき切り上げて来たところだ」と答えた。もう辺りも薄暗くなって来たものなあ、と考えていると、露伴先生が私の名前を呼ぶ。

「なまえ、送ってやるよ」
「えっ!そんな、申し訳ないですよ」
「別に構わないさ、どうせ方向は一緒だしな。…それに、『ヘブンズ・ドアー』が君の腰に張り付いていて、当分は離れそうもないんでね」

 何となく腰の辺りに違和感があると思っていたら、どうやら『ヘブンズ・ドアー』が抱き着いていたらしい。やれやれとばかりに息を吐く露伴先生には、つい苦笑してしまう。

「…それじゃあ、お言葉に甘えて」
「ああ。…悪いな」
「とんでもないです!寧ろ私の方こそすみません…」
「こればかりはどうしようも無いさ。…まあ、多少気にはなるがね。今度、是非君の記憶を読ませて欲しいものだ」

 「その体質について何かヒントがあるかも」と付け加えた露伴先生の目は興味津々とばかりに輝いているように見えて、思わず一歩後退ってしまう。やましい事は無いつもりだけれど、事細かに自分の記憶を読まれるというのもなかなか恥ずかしいものだ。能力を使わないようにと『ヘブンズ・ドアー』にお願いしてみようかな、なんて密かに思いながら、私は露伴先生の横を歩くのだった。