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 超能力だとか、幽霊だとか、目に見えない非科学的なものというのは、人によって持論が異なる。私はどちらも目の当たりにした事が無いので信じてはいないけれど、一つだけ――目には見えなくても信じているものがあった。
 それは『スタンド』と呼ばれる存在。それは超能力の一種や幽霊のようでいて、少し性質が異なるもの。『スタンド』を持つ人間は『スタンド使い』と呼ばれ、この杜王町にも十数人居る。『スタンド』は『スタンド使い』同士でしか認識出来ないので、『スタンド使い』でない私は目にする事こそ出来ないけれど、それでもその存在を何となく感じる事はあるのだ。

 例えば、私がその『スタンド』という存在を知るきっかけともなった、幼馴染みの東方仗助と、彼の『スタンド』である『クレイジー・ダイヤモンド』。教室で斜め前の机に座る仗助は、先程からちらちらと何かを気にするように此方を見て来る。仗助が此方を見ていない時も、何となく誰かから視線を感じるような気がするので、おそらく、『クレイジー・ダイヤモンド』が私の事をじっと見ているのだろう。因みに昨日も一昨日もそうだったらしい。
 仗助曰く、何故かは分からないけれど、私はやたらと『スタンド』に好かれているらしい。視線を感じると思うと仗助の『クレイジー・ダイヤモンド』が私を見ているらしいし、体が重いと思うと康一くんの『エコーズ』が私にべったりくっついているらしいし、いつの間にか足が進んでいると思うと億泰くんの『ザ・ハンド』がその能力で私との距離を詰めているらしいのだ。…まあ、私は見えないので「らしい」としか言えないのだけれど。

 最初は少し怖いと思った事もあったけれど、すっかり慣れてしまった今は、彼らの姿が見えない事が残念で仕方がない。私も『スタンド使い』になれたらなあ、と思う日々だ。そう言うと、仗助は「見えない方が幸せって事もあるかもしれねーぜ…」と苦笑するのだけれど。

「………あっ」

 ぼんやり考えていた所為か、手が当たって机から消しゴムが落ちてしまった。てん、と床の上を一度跳ねて、消しゴムは少し離れたところへ転がって行ってしまう。椅子を引いて手を伸ばせばぎりぎり届くだろうか。ふう、と小さく息を吐いた時だった。
 床に転がっていた消しゴムが、ふっと数センチほど浮いたのが見えた。ぎょっとしている私を他所に、消しゴムは磁石か何かに引かれるように、まっすぐに私の方へ寄って来る。慌てて辺りを見回すも、周りが寝ているのと、一番後ろ端の席だったお陰で、誰も此方に気が付いてはいないようだ。

 すいっと私の目の前まで戻って来た消しゴムを見て、私はそっと手を伸ばす。着地するように静かに手の平に収まった消しゴムに、思わず笑みが浮かんでしまった。きっと、『クレイジー・ダイヤモンド』が消しゴムを取って渡してくれたのだろう。

「………ありがとうね、『クレイジー・ダイヤモンド』」

 どんな表情をしているのか、そもそも聞こえているのか、それすら分からないけれど、届いてくれていれば嬉しい。おそらくまだ目の前に居るであろう『クレイジー・ダイヤモンド』にお礼を言えば、いつの間にか此方を見ていた仗助が、ぎょっとしたように目を見開いていて、私は小さくふき出してしまったのだった。