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 体の輪郭が、辺りの闇に溶けていく感覚がする。私の体はまだ原型を留めているのだろうか。目も開けられないこの状態では、もはや確かめる術もない。その内強烈な睡魔がやって来て、私の意識が薄れていく。眠ってはいけないと脳が警鐘を鳴らしているが、もう駄目だった。
 氷が溶けていくように、意識がすうっと遠退いていく。私の意識を繋ぎ止めていた糸がぷつりと切れた――そう感じた直後だった。カチリ。時計の針が二つ重なったような音がして、それに応えるように、私の意識はふわりと浮上した。

「お目覚めか。今回は時間が掛かったから、遂に死ぬかと期待していたのだがな」

 目を開けた瞬間、降って来たのは氷よりも冷たく鋭い辛辣な言葉だった。むっとして起き上がれば、私を見下ろしているカーズがフンッと鼻を鳴らした。この男は食物連鎖の頂点に立つ柱の一族の生き残りであり、現在は更に上を行く究極生物になるべく仲間と共に行動をしている。
 かたや私は未来からやって来たごく平凡な女子高生。あ、これ何だか凄く痛い子みたいな紹介だな。訂正しよう、自らのスタンドでタイムスリップしてしまった平凡(自称)な女子高生である。これならまだマシかな?

 私のスタンド『バック・トゥ・ディセンバー』は時間を巻き戻す能力を有するスタンドで、うっかり暴走してこの時代にタイムスリップしてしまったところを目の前のカーズ一味に拾われてしまったのである。
 どうにか能力を操作して、暴走する前に時間を戻せればおそらく帰る事が出来るのだが、それには膨大な力が必要だ。だから私は力を蓄える時間が欲しいのだが――

「あの、ほんといい加減にして貰えません?私このままじゃあ力を消費する一方で、全然帰れないんですけどッ!?」

 私がいつまで経っても帰れないのは、このカーズ一味のせいだ。というか九割カーズのせいだ。私のスタンドには自我があり、本体である私が瀕死の状態になると自動的に瀕死になる前の状態に時間を戻してくれる為、私は必然的に不死身のような形になっている。しかしチートな能力がゆえに、体力の消耗もそりゃあもう激しい。力を蓄えたい私にとっては一番避けたいものなのだ。
 だというのに、私が不死身だと知ったカーズは私を実験材料にしたり暇つぶしに殺してみたり小腹が空いたと言って吸収したり――そのせいで、毎回生き返っている私は力を蓄えるどころか消費していく一方。最悪だ。まさに最悪の状態。カーズに直談判したって軽くあしらわれる始末で、このままでは本当に帰れない。

 ちょっと、いやかなり美形だからって調子に乗りやがって!スタンド使えない癖に!!いや、スタンドを持っていないカーズに一度も勝てた試しがない私も私だけど!!

「私は貴様が帰れまいがどうでも良いのだ」
「ぶっ殺しますよ」
「そう言って数十分前に挑んで来て見事に返り討ちに遭ったのは貴様じゃあなかったか?ン?」
「くそおおおおおほんとにムカつくうううううう」

 絶叫していると、騒ぎを聞きつけたらしいエシディシとワムウさんがやって来た。どうしてワムウさんだけ敬称が付いているかというと、唯一私を人間として扱ってくれるからである。エシディシはカーズに比べればまだマシだが、それでも苛めてくるので嫌だ。
 私のオアシスであるワムウさんに泣きつけば、ちょっと嫌そうな顔をされた。しかしいつも振り解く事はしないのだ。ツンデレなんですかね。…いや、きっと憐れまれているだけなのだろうな。

「お前も毎回懲りないなァ。最近お前が自殺志願者に思えて来たぞ」
「言って分からないなら強行手段に訴えるしかないじゃあないですか」
「訴えきれていないが?」
「カーズさんは私のお腹だけじゃあなくて心まで抉りやがるんですね」
「貴様の厚い腹を抉るのもそろそろ飽きてきたところでな」
「キイイイイイイほんとムカつくんですけどおおおお」

 堪らず再び絶叫すれば、ワムウさんに顔を顰められてしまった。カーズはつまらなそうに爪を眺めているし、エシディシは何が面白かったのかひたすら笑っている。ツボが分かんねえよ。あれか、ジェネレーションギャップか?
 ――聞くところによれば、この柱の一族を倒す為の波紋戦士とやらがいるらしい。早いところこいつらを倒してくれないかな。なんて考えながら、私は早くもカーズを倒すための作戦を講じるのだった。




「打倒カーズ!!」「様を付けろ下等生物が」「ねえ待って何でそんなに冷たく出来るんですか?」