形兆に抱き着く【形兆に抱き着くこと】 『抱き着く』だなんて、命令とはいえそう簡単に出来るものではない。形兆さんの前で固まったまま数分経った訳だが、どんどん形兆さんの機嫌が悪くなっていくのが分かった。や、ヤバい。そろそろ行動しないと形兆さんが怖い。 「…オイ。一体いつまで待たせる気だ、ああ?」 「ひいっ!ご、ごめんなさい!!で、でも、その、は、恥ずかしくて…ッ」 「背中にするとか色々あんだろ。早くしろ」 「………そ、その手があったか…!」 「テメェ馬鹿なのか」 場所は指定されていないのだから、わざわざ正面からいく必要もないのか。全く気が付かなかった。形兆さんが大きくため息をつく。私は「申し訳ないです…」と小さくなりながら、そそくさと形兆さんの背後に回った。正面からと比べれば、背中の方が幾分マシだ。 一言断って、私よりもずっと大きな形兆さんの背中に手を伸ばし、腰の辺りに抱き着く。制服を隔てているけれど、体温がじんわりと伝わって来る。 「…え、と、形兆さんの背中、大きくて暖かいです、ね」 「……そうかよ」 私の言葉に、形兆さんはフンと鼻を鳴らした。少し機嫌が良くなったように思えるのは私の気のせいだろうか。 |