形兆に壁ドンする【形兆に壁ドンする】 形兆さんが壁に寄りかかって本を読んでいるのを見付け、私は悩むより先に行動を起こした。ゆっくりと形兆さんに近付き、彼が此方を見上げたところで、私は思いきって距離を詰める。 両脇の壁に腕をつくと、形兆さんが驚いたように僅かに目を見開く。しかしそれも直ぐに険しい表情に変わり、鋭く睨まれた。あっ、私ちょっと泣きそう…。 「…おい。一体何の真似…」 ポンッ、と、命令クリアの証拠でもある音が聞こえ、私は瞬間的に飛び退いた。それから形兆さんの前で綺麗に土下座し、「すっ、すみませんでしたあっ!」と半ば叫ぶようにして謝罪する。 「これは命令で、あのっ、決してふざけていたとかそういう訳ではなくてですねっ…!」 「………」 顔を上げ、わたわたと慌てながら必死に弁解していると、形兆さんが無言のままで此方に手を伸ばして来た。まさか殴られる!?そう思って反射的に縮こまって目を瞑ったのだが、いつまで経っても衝撃は来ない。 恐る恐る目を開くと、思いのほか形兆さんが近くに迫っていて、私は思わず肩を飛び上がらせる。彼の名前を呼ぼうとしたのだが、それより早く、とんっと肩を押されて簡単に床に転がってしまった。 形兆さんは腰を上げ、私の上に覆い被さるような形になりながら、腕を私の顔の両脇につく。ぐっと距離が縮まり、私は慌てて悲鳴を飲み込んだ。 「けっ、形兆さ…っ」 「…迫り方が甘いんだよ、ガキが」 そんな言葉と共に目を細められ、私は顔を真っ赤に染め上げたまま、はくはくと口を開閉させるしかなかった。 |