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姉はマライア

 朝なのか夜なのかも分からないような、薄暗い室内。少し埃っぽくて不気味なお屋敷ではあるけれど、何処となく安心してしまうのは何故だろう。いつものように偵察を終えて、DIO様が居るお屋敷へと戻った私は、真っ赤なフードを脱いで息を吐いた。
 DIO様のお部屋へ報告しに行く前に、何か飲み物を貰おう。今日は天気が良くて暑かったから、喉がカラカラだ。テレンスさんは居るだろうか、ときょろきょろしながらお屋敷の中を歩いていた時だった。

「おっ、妹ちゃんじゃあねーか!」
「ヒエッ…!?」

 背後から突然声を掛けられ、思わず飛び跳ねてしまう。弾かれたように振り向いた先には、カウボーイハットを被った男の人。煙草をぷかぷかと吹かしながら歩いて来るのは、ホル・ホースさんだ。私と同様にDIO様に雇われているスタンド使いの一人だけれど、私は彼がどうも苦手だった。
 ひくりと表情が引き攣るのを感じつつ、「こ、こんにちは…」と挨拶だけ返す。ホル・ホースさんは私の様子に気が付いているのかいないのか、ずんずんと歩み寄って来た。

 さり気なく距離を取ろうとするも、ホル・ホースさんは私の横までやって来て、ごく自然に腰元へ腕を回して来た。彼の何が苦手って、こうやってぐいぐい来るところだ。世の女性がどうかは知らないけれど、私からすれば怖くて仕方ない。

「あ、あの、…ほ、ホル・ホースさん、近い……」
「まァ、そう固いこと言うなって!お前さんの姉さんがいねー間に、たまにゃあ俺と話でもしようぜ」

 是非遠慮させて頂きたいところだけれど、ホル・ホースさんは私を離す気は無いらしい。きょろ、と辺りを見回すも、助けてくれそうな人は居ない。どうしたものかと困っていた時だった。

「女以外のものを引っ付けたくなかったら、今すぐにナマエから離れなさい、ホル・ホース」
「うげッ!?」

 聞き慣れた声に、ホル・ホースさんの背筋がピンと伸びる。ホル・ホースさんの腕からするりと抜けたところで、彼は「お早いご帰還だこって…」と頬を掻いた。姉――マライアに手招きされ、パタパタと駆けて行けば、マライアは私を匿うように背中へ隠す。

「…ナマエに何もしてないでしょうね」
「してねーっての!」

 マライアにキッと鋭く睨み付けられたホル・ホースさんは、焦ったように答えた。しかしその答えを信用していないのか、「何もされてない?」とマライアが改めて聞いて来たので、私は苦笑しながら頷く。…因みに、「おいッ!ちったあ信用しろよなッ!」と声を荒げるホル・ホースさんは無視していた。
 しっしっとまるで犬を追い払うように手を振られたホル・ホースさんは、「はいはい、邪魔したなァ」と口を尖らせて何処かへ行ってしまった。ごめんなさい、と心の中で謝る私の横で、マライアはふんと鼻を鳴らして口を開く。

「…全く嫌になるわ。ナマエに変な虫が付くのが嫌だから一緒に連れて来たっていうのに、これじゃあ意味ないもの」
「へ、変な虫ってそんな…。寧ろ、私はマライアの方が心配だけど…」
「私?…どうして?」
「だって、マライアは美人だもの。妹の私からしても、何処からどう見たって美人だし…マライアこそ変な虫が付かないか心配だよ」

 家族だからという贔屓目を差し引いたって、マライアは美人だ。顔は言うまでもないし、スタイルだって抜群。私と違って、男の扱いも上手い。マライアは私の事をとても大事にしてくれるし、過保護なくらい心配してくれるけれど、マライアは私と違って――彼女が私をあまり外に出したがらないというのもあるけれど――良く外にでるので、私からしたらマライアの方がよほど心配なのだ。
 最近のマライアは諜報活動でもしているのか、外に出る頻度も多くなって来た。ちゃんと用心してねと言いたかったのだけれど、それより早く、伸びて来た腕にぎゅうと抱き締められる。豊満な胸に押し潰される形になり、「うぶっ」と情けない声が漏れた。背丈もバストも、何だってこう違うのか…。

「く、くるしい…」
「あら、ごめんなさいね。でも、ナマエったら可愛いんだもの」

 マライアは私から離れた代わりに、そっと私の手を取る。手を握られて目をぱちくりしていると、マライアは私と目を合わせ、ふふ、と小さく笑った。

「ねえ、ナマエ。たまには二人で外に出掛けましょうか。さっき、町でナマエに似合いそうな洋服を見つけたのよ。着てみせてちょうだい」
「うん!」

 久しぶりのマライアとのお出かけに、自然と笑みが溢れる。そんな私を見て、マライアも目を細めて笑い返してくれたのだった。