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兄はダービー兄弟

 私には二人の兄が居る。三人兄妹で、私は末っ子だ。一番上はダニエル、私よりも十以上歳が離れていて、両親とは疎遠になっている事もあってか、兄というよりは父に感覚が近い。二番目はテレンス。私より五、六歳ほど上で、多少変わった趣味はあるものの、基本的には優しくて面倒見の良い兄だ。
 兄達はそのスタンド能力を買われ、DIO様に雇われるようになり、私もそれに着いて行く形でDIO様にお世話になっている。私も一応スタンド使いではあるものの、戦闘向きではないし、何より兄達が私が戦闘する事を良しとしないので、今は屋敷でDIO様の身の周りのお世話をしていた。

「…ナマエ。やはりお前は私と一緒に来なさい。こんな暗い屋敷に篭っていては健康にも悪いぞ。私と共に来るなら、お前の好きなところへ連れて行ってあげるよ」
「駄目ですよ、ナマエ。定住せずにふらふらとするような男に着いて行くのは危険ですからね。この屋敷で私のそばに居なさい」
「……あ、あの、…えーと……」

 右手をテレンスが、左手をダニエルが握り、私を挟んだ形のままで、二人は睨み合っていた。間に挟まれる私の身にもなって欲しいものだ。はあ、とため息をつくも、二人には聞こえていないらしい。
 屋敷を出て外で暮らしているダニエルは、時折私達の様子を見に来るのだけれど、その度に私を外へ連れ出そうとする。そして、それを決して許可しないテレンスと喧嘩するところまでがテンプレートなのだ。本当に学習しないんだから…。

 近くを通り掛かったヴァニラさんは呆れたように視線を投げ掛けて来たし、たまたま屋敷に来ていたホル・ホースさんは「仲の良いこったなァ〜」と笑っていた。決して助けてはくれないというのも、またテンプレートである。

「貴方もいい加減に諦めたらどうなんです?ナマエがこの屋敷で私と共に住み込みで働くというのは、既に決まっている事でしょう」
「諦めるだと?大体、私はナマエをこの屋敷に住み込みで働かせる事自体反対していた筈だぞ。こんな日の光の入らない暗い屋敷にナマエを閉じ込めておく方がおかしいと思わんかね?」

 ――まあ、もうお分かりの事とは思うけれど、私が末っ子で、かつ女だからか、二人の兄はどちらも過保護だ。ダニエルとテレンスは昔から何かと衝突する事が多かったのだけれど、私に対してはそういう事もなく、寧ろひたすらに甘やかされていた。
 ダニエルが私にお洒落な鞄をくれれば、テレンスは私に可愛い服をくれた。テレンスが私にテレビゲームのコツを教えてくれれば、ダニエルは私にポーカーのやり方を教えてくれた。二人はまるで競い合うように、私には常に優しく接し、そして甘やかしてくれたのだ。

 甘やかしてくれるのが良い事か悪い事かは置いておくとして、私はそんな優しい兄達が大好きだ。気恥ずかしいから言った事はないのだけれど、私はダニエルとテレンスさえ居れば、他には何も求めないというくらいには二人が大好きだし、大事に思っている。
 だからこそ、二人には仲良くして貰いたいのだ。昔に比べれば手が出る事はなくなったけれど、それでも顔を合わせれば口喧嘩が多くて、困ってしまう。何も手を繋いで四六時中一緒に居ろと言っている訳ではないのだし、たまに顔を合わせた時くらい、仲良くしてくれれば良いのに。

「ナマエ!ナマエも、このまま私と一緒に暮らしている方が良いでしょう!?」
「何を言う!ナマエ、私と一緒に外で暮らしたいだろう!?」

 …ああ、頭が痛い。未だに手を握ったままで、ずずい、と身を乗り出して来た二人の兄に、思わずため息を吐きたくなる。事を荒立てたくないので、いつもは曖昧に笑って誤魔化しているのだけれど、それももう止める事にした。

「……そうだね。私、ダニエルと暮らしたい」
「なッ…!?ナマエッ…!」
「ほら見たまえ!ナマエは私と一緒に居る方が幸せだという事だよ」

 ぎょっと目を見開くテレンスに、ダニエルが得意げにふふんと鼻を鳴らす。ショックからか、私の右手を握るテレンスの手から力が抜けた。手が離れて行くのより先に、私はテレンスの手をぎゅっと握り返す。

「…でもね、テレンスとも暮らしたい」
「………は?」
「…私は、ダニエルとテレンスと、三人で一緒に暮らしたいの」

 今度は、ダニエルも目を見開いた。目を瞬いたテレンスが、「……三人で…?」と驚いたように尋ねて来たので、私は大きく頷いてみせる。いつか三人で暮したいというのは、昔からずっと願っていた事だったし、今もそれは変わっていない。
 私はダニエルとテレンス、二人の兄が居てくれればそれで良いのだ。他には何も要らない。贅沢したいとも思わない。ただ三人で暮らせれば十分だし、実現するのなら、それはとても幸せな事だと思うのだ。

「三人で暮らして、テレビゲームしたり、ポーカーしたりしたいんだ。お休みの日は三人で一緒にお出かけしたいし、出来る限り一緒にご飯を食べたいし、夜は一緒に寝たいの」

 最初にダニエルの顔を、次にテレンスの顔を見て、懇願するように言う。私の言葉に、二人はすっかり押し黙っていた。都合がいいとばかりに、私は畳み掛けるようにして口を開く。

「…だから、ね。この大きな仕事が終わった時は、三人で一緒に暮らして欲しいの。お願い」

 私もちょっぴりずるいところがある。ダニエルとテレンスが、昔から私の『お願い』には弱いという事を知っていて、わざと言っているのだから。――それでも、このお願いだけはずるかろうが何だろうが叶えたい事だから、私も手段は選んでいられない。
 口を噤んで、静かに二人の言葉を待つ。珍しい静寂の後で、はあ、と深く息を吐いたのは、テレンスの方だった。

「……私達は昔から、ナマエには敵いませんね」
「…ああ。他でもない可愛い妹のお願いだ。叶えん訳にはいかないか…」

 顔を見合わせたテレンスとダニエルは、やれやれとばかりに息を吐いた。困ったように、けれど、何処か嬉しそうに。それが何だか嬉しくて、私は小さく笑い声を立てながら、未だ二人に握られている手に力を込め、握り返してみせるのだった。