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カーズに看病される

■ ■ ■

 熱を出してぶっ倒れました。確かに体は怠いし頭痛もするとは思っていたけれど、ただの気疲れというか、まさか倒れるまで悪化するなんて思ってもみなかった。はふ、と熱い息を吐きながら脇に挟んでいた体温計を見てみると、何という事か、39度を超えている。どうりでぶっ倒れる訳だ。高熱だと再確認して余計に具合が悪くなった気がする。うう…頭痛がするぞ…吐き気もだ…。
 DIOさんやディアボロさんのようなニート勢はともかく、会社勤めの吉良さんや選手のディエゴくん達に風邪を移してはいけないと思い、独断で『ブラック・ボックス』で作った箱の中に入り、隔離部屋のようにして一人で寝ている訳だけれど、非常に心細かった。箱を幾分透過させて部屋の様子を見えるようにし、声や物音も聞こえるようにしているとはいえ、壁があるのは大きい。ただでさえ熱で弱っていて人恋しいので、自分でやっているとはいえ、なかなかに苦行だ。

 じわ、と涙の滲む目元を拭っていると、こん、と箱を叩かれた音がした。視線を遣ると、カーズさんが此方を覗き込んでいる。掠れた声で名前を呼べば、「大丈夫か?」と声が返って来た。全然大丈夫です、と言おうとしたのだけれど、それより先に涙がぼろぼろ溢れて来てしまった。

「…泣いているのか?」
「…う、うう、…ごめんなさい…ちょっとさみしくて…」
「一人でそんな箱に閉じ籠もっているからいけないんだろう。早く出てこい」
「で、でも…わたし、風邪…みなさんに移したく、ないです…」
「例え移ったとしても、移された方が悪いのだ。いいから、早くこの蓋を開けろヒヨリ」

 カーズさんがこんこんと天井に当たる蓋を指先でノックする。私は少し考えてから、蓋を開けた。カーズさんが箱に手を掛け、まるで紙の包装を剥がすかのように、べりべりと箱を壊していく。ああ…こんなあっさり…。すっかり無残な姿になってしまった箱の欠片が、すう、と空気に消えていく。それを横になったままでぼんやり眺めていると、漸く箱を壊し終えたカーズさんが手を伸ばし、私の頬を撫でた。
 ぼろ、と収まった筈の涙が再び溢れ、カーズさんが僅かに目を丸くした。「泣くんじゃあない」という言葉と共に指先で涙を拭われるが、安心感からか、涙は止まりそうにない。参ったなあ、わたし、こんなに弱かったかなあ。

「カーズさん、…かーず、さん…」
「そんなに呼ばなくてもここに居るだろう。…泣くな、ヒヨリ。ほら」

 ひくひくと子供のようにしゃくり上げながらカーズさんに手を伸ばすと、カーズさんは小さく息を吐き、私の体を抱き起こしてくれた。とん、とん、と背中を軽く叩かれて、すっかりあやされている状態だ。それでも悪い気はしない。
 暫くして私が落ち着いたのを見て、カーズさんは私を胡座をかいた上に降ろし、そのまま横抱きにした。殆ど裸に近いカーズさんなので、至るところが彼の肌と密着してしまっているが、離れようとする力も無い。私の体温が高いせいもあるだろうが、カーズさんの体温は冷たく感じるくらいで、触れているところから熱を吸収されているようで心地が良かった。

「……カーズさん、ひんやりして、気持ちがいいです…」
「お前の体温が高いのだ。…おいディアボロ、水を持って来い」
「お、俺は今忙しい」
「今日の晩飯にされたくなければさっさと動くんだな」
「仕方がないな」

 押入れがすぱんっと開き、ディアボロさんが台所へ向かったのが見えた。ディアボロさんはそれからすぐにコップに水を入れて持って来てくれて、カーズさんがそれを受け取る。「飲めるか」と聞かれたので小さく頷けば、背中を支えられながら、コップの縁を唇に当てられた。流石に自分で飲めるけどなあ、と密かに思ったけれど、嫌な気はしないので、甘んじて受け入れる事にする。
 からからになっていた喉に水が染み渡るようで、気持ちがいい。はふ、と息をつけば、カーズさんは空になったコップを、いつの間にかすぐ横に座っていたディアボロさんに押し付けた。ディアボロさんの忙しいという言葉は嘘だったのだろうか。

「…カーズさん、ありがとうございます。ディアボロさんも…」

 へら、と二人に笑いかければ、ディアボロさんが手を伸ばして頭を撫でてくれた。まあ、何だかんだ優しいんだよなあ。「飯はどうするんだ」、「吉良が何か作っていた」なんて二人の会話を聞いている内に、人が居るという安心感からか、眠くなって来てしまった。やっぱり弱っている時は一人で居るもんじゃあないな、と密かに思う。
 うとうととしていると、漸く二人が私の様子に気が付いたのか、「眠いのか」と尋ねて来る。今の声は二人のどちらだったかな。瞼を下ろしたまま、こく、と小さく頷けば、大きな手に撫でられる。気持ちがいい。このまま眠ってしまおう。

 段々と遠くなっていく意識の中で、ディアボロさんが「吉良が早退するそうだ」と言ったのが聞こえた。「プッチもディエゴも今日は早く帰ると言っていたな」とカーズさんも付け加える。…どう考えても私のせいだよなあ。私の為にそんなにしなくても良いのに、と思うけれど、同時に嬉しくて堪らない。私は頬が緩むのを感じながら眠りに落ちていった。