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拗ねる荒木荘組

■ ■ ■

「最近、やたらとジョースター共と仲が良いようだな」
「………は、はい…?」

 何処かムッスリと機嫌の悪そうなDIOさんが、何の脈絡もなくそう言ったものだから、私は思わず聞き返してしまった。ジョースター共、とは、まあ普通に考えてジョースター家一族の事だろう。確かに、最近はジョセフさんや徐倫ちゃんとも初対面を果たしたし、仗助くん達とも仲良くさせて貰ってはいる。
 私としては交流関係が広まって嬉しい事なのだけれど、私なんかよりももっと因縁の深いDIOさん達にとっては、あまり面白くないのかもしれない。「す、すみません…」ととりあえず謝罪の言葉を口にすれば、「分かっていないだろう」と
睨まれてしまった。

「…だ、だって、どうしろって言うんですか…」
「出掛けるのを控えたらどうだ。そうすれば関わる事も無かろう」

 話を聞いていたらしいカーズさんがそう言うので、私は「え、ええ…」と思わず声を漏らす。根本を絶つというのか。私は困ったように頬を掻きながら口を開く。

「ディアボロさんじゃああるまいし、引きこもりはちょっと…」
「おい」
「それに買い物とかもありますし、…あ、まあ、誰かが代わりに献立を考えて家計の事も頭に入れつつ買い物をしてくれるなら良いんですけど」

 反応したディアボロさんをスルーしつつ窺うように言えば、途端に室内が静まり返った。そら見たことか。すっと静かになった住人達に、吉良さんが「お前らな…」と呆れたように息を吐く。自ら進んで買い物に行ってくれるのはドッピオくんくらいのものだ。

「……全く。そう躍起になるんじゃあないよ、大の大人が揃ってみっともないぞ。ヒヨリが何処に行こうが、誰と会おうが、ヒヨリの勝手じゃあないか」
「き、吉良さん…!」
「吉良!お前がそうやってヒヨリを甘やかすからこういう事になるんだろう!アルバイトの件だってそうだ!」
「私は、ヒヨリを君達のワガママでこの家に縛り付けるべきじゃあないと言っているんだよ。…というか、前々から思っていたが、お前達はヒヨリに甘え過ぎだぞ!」
「お前は逆に甘やかし過ぎなんだ!」

 DIOさん達と吉良さんの口喧嘩が始まってしまい、思わずおろおろとしてしまう。というか、傍から見ると完全に子供の事で喧嘩をする母親と父親のようだ。何この対立。
 どうしたものかと悩んでいると、後ろからちょいちょいと肩をつつかれる。振り向くと、ドッピオくんが「少し放っておきましょう」とにこやかに笑った。あ、止めないのね…。

 ドッピオくんに腕を引かれ、少しだけ心配しつつも、リビングの方へ向かう。声は小さくなったものの、言い争い自体は続いているようだ。よくもまあそんなに言い争うネタがあるものである。

「……前々から思ってはいたけど、皆、過保護過ぎるんじゃあないかな… 私、もう成人してるし、一応子供じゃあないつもりなんだけど…」

 そりゃあDIOさんやカーズさんからすれば赤ん坊のようなものかもしれないけれど、世間一般で言えば私は既に大人の部類に入っている。そりゃあ歳が若いだとか、唯一の女だからだとか、彼らと比べて格段に力が弱いだとか、色々と考えられる要因はあるけれど、それにしたって過保護が過ぎるのでは無かろうか。
 頬杖をつきながら言えば、テーブルの向かい側に座ったドッピオくんが小さく笑う。過保護だとは思うし、やはり改善はして欲しいけれど、それでも嫌な気がしないのは何故なのだろう。私はぼんやりとテーブルの木目を見ながら、独り言のように小さく声を上げた。

「……何でだろうなあ。…なんていうか、嫌じゃあないんだよね。…寧ろ、ちょっと嬉しかったりもするというか…」
「…そうなんですか?」
「うーん…そりゃあ色々と心配し過ぎだとは思うよ。そこまで考えなくても良いのにって。…でも、逆に考えると、それだけ私の事を気に掛けてくれてるって事だろうし、…そう思うと、ちょっと嬉しいかなって。私も、ちゃんと荒木荘の一員になれてるのかもって思えるから」
「そりゃあ、ヒヨリさんはもう立派な家族みたいなものですよ!ヒヨリさんが居ないなんて考えられないです!」

 ドッピオくんが立ち上がりそうな勢いでそう言うものだから、私は思わず目を丸くしてしまった。自分で言っておいて何だけど、面と向かって言われると少し照れ臭いものがある。頬を掻きながら「へへ…ありがとう…」とへらりと笑うと、ドッピオくんもにっこりと笑い返してくれた。

 ――この荒木荘に来た時は、衣食住の保障こそ手に入れたけれど、その後どうなるかなんて全く想像も付かなかった。簡単に言えば、不安で仕方が無かったのだ。知っているようで知らない世界に突然放り出されて、周りは男の人――というか人間でない人すら居るし――ばかりだし、こんな所で生活なんてしていけるのかと、不安で堪らなかった。
 だけど、その不安が無くなって、寧ろ安心を与えてくれる場になったのは、いつからだったろう。家を出る時には「行ってらっしゃい」と送って貰えて、帰って来れば「おかえり」と迎えて貰える。私が帰って来る場所はこの家なのだと、すっかり頭と体に刻み込まれている。私にとってこの荒木荘は、もう立派な『我が家』なのだ。

「…私が、何があっても帰って来たいって思うのは荒木荘だし、一番安心するのも荒木荘だよ。出て行こうとか、皆と離れようとか、そんな事全然思ってない。…面と向かって言った事なんてないけど、私、住んでる皆ひっくるめて、この家が一番好きだから」
「ヒヨリさん……」

 そりゃあ苦労する事もあるけれど、それでも、他でもないこの荒木荘で暮らす事が出来て、本当に良かったと思う。こんな事、恥ずかしいから絶対に皆には言わないけれど。ドッピオくんがにこにことしているのを見てハッとした私は、眉を下げながら「な、なーんてね」と慌てたように付け加えた。
 そういえば、いつの間にかリビングの方が静かになっている。やっと言い争いが収まったのか、それとも死人でも――ディアボロさん一択だけれど――出たのだろうか。もう戻っても大丈夫かなあ。そっとリビングの方へ顔を出してみて、私はきょとんとした。

 言い争いはすっかり収まっていたし、勿論死人なんて出ていない。不思議なのは、皆が揃って口元を押さえていたり明後日の方向を向いていたりしている事だ。何かを堪えているようにも見える。

「……どうしたんですか?あの、言い争いしてたのは…」
「……いや、もう良いんだ…」

 一番近くに居た吉良さんに尋ねれば、吉良さんは口元を押さえて俯いたままそう答えた。何だか良く分からないけれど、まあもう良いというなら良いか。「色々と分かったんだと思いますよ」なんて言いながら、何やら意味有りげににまにまとしているドッピオくんに、私は「…色々と?」と首を傾げるしかなかったのだった。