×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

仗助と徐倫とお話

■ ■ ■

 吉良さんにアルバイトの話をしてから数日後、吉良さん以外からは猛反発に遭ったものの、何とか皆を説得して面接に向かったのが、今日の昼頃の事だ。多少のブランクはあるけれど、経験者であるという事が大きかったのか、その場で採用が決まった。店長さんも良い人そうで、お店の雰囲気も良さそうだし、とりあえずは安心している。
 久々な面接の緊張から解放されたのと、採用を貰えたという喜びで、ふわふわとした気持ちのまま帰路に着いていた時だった。背後から誰かに名前を呼ばれたような気がして、ふと立ち止まる。振り向いた先には、ぶんぶん手を振っている仗助くんと、その横に一人の女の子。

 ツインのお団子ヘアーは中々に目を引くけれど、その抜群のプロポーションや、やや彫りの深い整った顔立ちはまるでモデルのようだし、脳裏には何となくジョースター家一族の面々が思い浮かんでしまう。同性の私も思わず見惚れてしまうほどの、文句ナシの美人である。
 もしかしなくても、一族に関係のある人、だよね…?ぼんやり思っていると、すっかり近くに来ていた仗助くんが、いつもの人懐っこそうな笑顔で「ヒヨリさん、こんにちはっス!」と挨拶をしてくれた。

「こんにちは、仗助くん。それと…」
「あたしは空条徐倫よ。徐倫で良いわ。…あなたの事は仗助達から話は聞いていて、一度会ってみたいと思ってたのよ」

 「よろしくね」と続けた彼女は、口元に薄っすら笑みを浮かべて手を差し出してくれた。空条、と名字を聞いて一瞬体が強張ってしまったのは仕方のない事だろう。兄妹か何かなのだろうか、と密かに思いつつ、徐倫ちゃんと握手を交わす。

「ヒヨリさん、お散歩っスか?」
「うん、まあそんなところかな」
「何だか嬉しそうね。いい事でもあったの?」
「えっと、実は…」

 アルバイトの事を話すと、仗助くんも徐倫ちゃんもぱっと表情を明るくさせて、おめでとう、と口々に言ってくれた。何だか少し照れてしまう。因みに、私が今回採用されたコンビニは仗助くん達の通う高校の通り道にあるようで、良く使うお店らしい。
 格好悪い失敗はしないようにしないと。こっそりとそんな事を思っていると、徐倫ちゃんがふと「荒木荘で暮らしていて本当に大丈夫なの?」と尋ねて来る。へらと笑いながら「全然大丈夫だよ、皆優しいし」と返せば、徐倫ちゃんは少しだけ目を丸くした後で、再び口を開いた。

「それなら良いけど…何かあったらきちんと言うのよ。女同士でないと言えない事もあるでしょ?力になるわ」
「う、うん…ありがとう…!」
「そうだわ、甘いものは好き?あたし、美味しいケーキのお店知ってんのよ。色々と話したいし、今度出かけない?」
「えっ、い、良いの!?ケーキ大好きなの、すごく行きたい…!」
「決まりね!じゃあ後で連絡するから、登録だけしておくわ」

 徐倫ちゃんはにっこり笑うと、手早く私と連絡先を交換してくれた。荒木荘の住人は言わずもがなだし、出会う人も男の人ばかりだったから、こうして女の子と話が出来るだけで何だか舞い上がってしまう。やっぱり女の子と話が出来るって良いなあ…。
 携帯を片手にほくほくしていると、くい、と袖を引かれる。目を瞬きながら視線を遣ると、仗助くんが口を尖らせて此方を見ていた。

「………あのォ〜、俺の事忘れてねーっスかあ〜?」
「…わ、ご、ごめん仗助くん…!」
「何よ、ガキじゃあるまいし…」
「うっせーなァ!大体、俺の方がヒヨリさんと会うの早かったんだからなあ〜ッ!?」

 「何よ!」「何だよ!」とぎゃいぎゃい騒ぎ出した二人を見て、「ま、まあまあ…!」と慌てて宥めに入る。むすっと口を尖らせたままの仗助くんが、「俺とも出かけて下さいよォ〜…」と拗ねたように言うので、可愛いなあと口元を緩めながら頷いた。
 一転してぱあっと表情を輝かせた仗助くんは、何だか大型犬のようにも見える。「なるほど、ガキっつーか犬ね…」なんて小馬鹿にしたように呟いた徐倫ちゃんに、仗助くんが「何か言ったか!?」と再び噛み付いたので、私もまた仗助くんを宥めにかかったのだった。