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荒木荘と女の子の話

■ ■ ■

※月のものネタ注意


 月に一度の、あの日が来た。女子なら一度は悩んだ事のあるであろう、アレである。私は基本そこまで酷い方では無いのだけれど、それでも体調はあまり芳しくない。お腹や腰は痛いし、何だか怠くて、動くのも億劫だ。
 生理現象とはいえ、こればかりは大っぴらに言う事でも無いし、出来れば隠しておきたい事だ。男所帯なら尚更の事である。だからこそ、男所帯の荒木荘にはある筈の無いナプキンやら何やらは、近くのスーパーでこっそり買って来て使用していた。

 体調が悪いのも悟られない為に、普段と変わらないよう振る舞っていた。私としては完璧に隠し通しているつもり――だったのに。

「何だ、血の匂いがするな。……ああ、ヒヨリか」
「………………えッ」

 DIOさんが起き掛けに発した言葉に、思わず体が硬直した。欠伸混じりに「月のものだろう」なんて言い当てられて、変な汗が滲んだ。待って、何でだ、何でバレたんだ…!?
 動揺していると、近くで爪を切っていた吉良さんが「…おい、DIO。君にはデリカシーというものが無いのか」と眉間に皺を寄せて言った。ディアボロさんも「気付かない振りをしてやればいいのに…」と息を吐いている。

 口ぶりから察するに、DIOさんだけではなく、吉良さんやディアボロさんも知っていたようにしか思えない。更には話を聞いていたドッピオくんやカーズさんもうんうん頷いているところを見ると、どうやら彼らも気が付いていたらしい。

「………き、…気付いてたんですか…?」
「……まあ、そりゃあね」

 吉良さんだけでなく他の皆も頷くものだから、私は自分の表情がひくりと引き攣ったのが分かった。曰く、血の匂いには人一倍敏感なのだそうだ。よくよく考えれば皆血なまぐさい環境に慣れている人達だった。更には、私の顔色の悪さだとか、普段よりも動きが緩慢だからだとか、時折お腹をさすっていたからだとか、次々とバレる要素が挙げられて行く。
 はああ、と深い溜息をつきながら顔を覆う。決して悪い事をしている訳じゃあないのに、今直ぐにこの家から逃げ出したくて堪らない。何だろう、この気恥ずかしさというか、気まずさというか、居心地の悪さは…。

「…しかし、随分と腹の減る匂いだなァ…」
「ッひい!?」

 突然背後から耳元で囁かれ、びくりと飛び上がる。慌てて逃げ出そうとしたところを、DIOさんの腕に捕まり、抱き込まれてしまった。ドッドッと忙しなく心臓が脈打っているのは、その距離の近さだけでは無いだろう。
 お腹の辺りをぐるりと大きな手の平で撫でられる。一方で、首筋ですんすんと鼻を鳴らされて、ぞわっと背筋が粟立った。「ヒヨリの血は実に美味そうな香りじゃあないか…」なんて囁かれたところで、DIOさんが吸血鬼であると改めて思い出す。

 指一本動かないほど硬直した体とは裏腹に、頭の中では激しく警鐘が鳴らされている。お腹じゃあなくて、胃の方が痛くなって来た。冷や汗を流していると、カーズさんが「…おい、DIO」と声を上げる。

「ヒヨリの血を一滴でも飲んでみろ、その時は私が貴様を食ってやるぞ」
「か、カーズさんッ…!」

 カーズさんはそう言うと、DIOさんの腕を掴んで指先を肌の奥に食い込ませる。DIOさんはそれをちらと見てから、フンと鼻を鳴らした後で、私から体を離した。ささっとカーズさんの後ろに隠れると、カーズさんは私の体を抱き上げる。

「わッ、か、カーズさん…!?」
「体調が良くないのだろう。暫くは大人しくしていればよかろうなのだ」

 つまらなそうに棺桶の上に腰を下ろしたDIOさんを横目に、カーズさんは私を壁により掛からせるようにして床の上に下ろした。思わずきょとんとしていた時だ。

「ヒヨリさん、これ、背中に挟んで下さい!」
「ほら、毛布を使え。体を冷やすといけないからな」
「え、あ、…ありがとうございます…」

 ドッピオくんがクッションを貸してくれて、ディアボロさんがブランケットを私の体に掛けてくれた。それから、ドッピオくんには「無理しないで下さいね」と心配そうに微笑まれ、ディアボロさんには「我慢はするものじゃあないぞ」と頭を撫でられる。
 何だかこそばゆいな、なんて思っていると、いつの間にかリビングから姿を消していた吉良さんが此方に歩いて来る。どうやらキッチンの方で何かしていたらしい。私の横にしゃがみ込んだ吉良さんは、手にしていたマグカップを私に差し出した。

「温かいココアだよ、飲みなさい。甘いのは好きだろう?」
「わ…!ありがとうございます!」

 ぱっと表情を明るくした私に、吉良さんは「少しは痛みが和らぐと良いんだが…」と小さく笑う。熱すぎず温すぎず、しかも甘さも丁度良いココアは、私の好みにしっかり合わせて作ってくれたのだとすぐに分かった。
 ココアを飲んでほっと息をつきながら、ちら、と横目でDIOさんを見遣る。DIOさんは既に本を読んでいて、此方を向いてはいなかった。ずず、とココアを啜りながら、少し痛むお腹に手を当てる。

 先程は本能的に危機を感じ取ってはいたけれど、DIOさんがお腹に触れたあれは、労るような撫で方だったようにも思える。もしかすると、DIOさんなりに心配はしてくれていたのかもしれない。そう思うと、何だかくすぐったかった。マグカップから口を離して、両手で包み込んだまま、顔を上げる。

「……ええと、あの、…心配かけてごめんなさい。それから…色々してくれて、ありがとうございます」

 皆の視線が此方に集まったのが何だか気恥ずかしくなって、へにゃりと眉を下げて笑う。女の子特有のものだから知られるのはやはり何処か恥ずかしいものではあるけれど、こうして心配して貰えるのは、悪い気はしない。とはいえ、今度はもっと上手くやらないとな――なんて思いながら、私はまたココアに口を付けたのだった。