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承太郎


 私の元に『王様』と名乗る不審極まりない謎の人物から手紙が送られてくるようになったのは、つい一週間ほど前の事だったろうか。差出不明の――いや、まあ『王様』と名乗ってはいるけれど――その手紙は黒一色という珍しい封筒に赤いシールで封をしてあり、中にはこれまた黒一色の便箋が入っている。
 便箋には白い文字で『命令』と大きく書かれており、その下には確かに命令らしきものが書かれていた。【六原ユメコは今日の23時59分までに一万歩歩くこと】。どうもそれが命令らしい。その下には、【尚、命令を遂行出来なかった場合は翌日に不幸が訪れる】なんて事も書かれていた。

 初めて見た時は、これはまた面白い話のネタが舞い降りてきたものだと思っていたし、勿論命令なんてものは無視した。不幸が訪れるだなんてそんな、チェーンメールじゃあるまいし。生憎その日は土曜日だったので、月曜日にでも学校で存分にネタにしようじゃあないかと鞄にしまい込んだ、その翌日。私の身に不幸が訪れたのである。
 死にはしなかった。死にはしなかったけれど、もう死ぬんじゃあないかってくらい次々と不幸な目に遭った。そうして私は『王様』のこの手紙が本物の効力を持つらしいのだと理解し、次々と送られてくる命令をクリアしていかなければならなくなったのである。


 幾つか命令をこなしていく内に、このゲームのルールのようなものが見えてきた。まずこの手紙は不定期に送られてきて、書かれた時間までに命令をクリアしなければ翌日一日はどうしたって不幸な目に遭う。命令がクリアされた場合は手紙が煙になって消えるので分かり易い。
 そしてこの手紙を送ってくる『王様』はゲームとして楽しんでいるらしく、生死に関わるような事や今後の人生に大きく関わるような事は命令しない。こんなところだろうか。最初は一人でこなせるようなちょっとした命令だったのだが、最近になって周りの協力が必要な命令が増えてきた。何だよステージが変わったってか。

「――と言うことで、その、ご協力をお願いしたいんですけど…」
「……何で俺なんだ」

 ぷかぷかとタバコをふかしながら、空条くんはそう呟いた。私だって誰でも良かったのなら家族に協力して貰っていた。そう、誰でも良かったのなら。私は無言で鞄からあの手紙を取り出して彼の目の前で広げ、ある一文を指した。
 【六原ユメコと空条承太郎は今日の23時59分までに手を繋ぐこと】。これはあれか、コミュ障な私へのあてつけか。手を!繋ぐとか!あてつけか!!空条くんはちらりと手紙に目を遣ると、「やれやれだぜ」とお決まりの台詞を吐いて帽子を深く被り直した。

「…妙な事に巻き込まれやがって」
「…め、面目ないです…」

 まあ強制するつもりはないから、「めんどくせえ」とぴしゃりと言われてしまった場合は潔く諦めるつもりだ。明日は学校を休んで引きこもる事にはなるだろうが、まあ自分の問題なのだから仕方が無い。空条くんはタバコを長い指で掬い、路肩に放った。
 大きな靴の底で火をもみ消した空条くんは、「手」と短く言葉を発した。意味を理解するより早く、彼は眉間の皺を深くして「出せっつってんだ」と付け加える。情けない声を上げた私は、まるで飼い犬が飼い主にお手をするように、半ば反射的に手を前方に出した。

 そして、その手を空条くんが掴む。ぐっと引っ張られて、手のひらが合わさった。空条くんの大きな手のひらにすっぽり包み込まれ、更に、その長い指がしっかりと私の指を絡め取る。一センチの隙間すらないその様子は、まるで編みこまれた毛糸のようだ。

「あ、ああああの…」
「…ああ?」

 …こ、これは、俗に言う『恋人繋ぎ』とかいうものではなかろうか…。合わさった手のひらからダイレクトに空条くんの体温が伝わってきて、嫌でも意識せざるを得ない。
 もう一方の手の中に握られていた手紙が、ポンッと小さな爆発音をあげて煙になった。つまり命令はクリアしたという事だ。しかし空条くんはそれを気に留める様子もなく、手を離すどころか歩き始めた。

「く、空条くん…?あの、もう命令クリアして――」
「腹減った。何か食いに行くぜ」
「エッ、いや、あの、」

 空条くんはそう言っている間にもぐいぐいと繋いだ手を引っ張るものだから、私は戸惑いながらも着いて行くしかない。まあもうお昼時だからお腹が減るのは仕方のない事だろう。実際、私自身もお腹が減っているので外食は大歓迎だ。だけど、手を繋いだこのままの状態で歩いていくのは、とても、とても恥ずかしいんですけども…!!
 ――なんて、基本ヘタレの私が、しかも協力してくれた彼には余計に言える筈もなく。赤くなっているであろう顔を俯くことで必死に隠しながら、私は空条くんに連れられるまま歩いていくのだった。


▼【空条承太郎と手を繋ぐ】 クリア!

「…あ、あの、ところで何処に行く予定でしょうか…」「さあな。特に決めてねえ」「えっ」「暫くふらふらしとくか」「!!!」

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