×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

DIO


 目が覚めて、未だ寝ぼけている中で寝返りをうつと、顔の横に白い手紙が置いてあった。急激に頭が覚醒する。恐る恐る手を伸ばし、封筒を開けて便箋を取り出した。【六原ユメコは今日の23時59分までに吸血鬼化し、DIOを吸血すること】――その命令を読み終えた瞬間、突然、身体の奥から何か熱いものが湧き上がって来るような感覚に襲われる。
 ドクドクと激しく脈打つ胸を押さえてベッドの上で蹲っていると、暫くして、身体の火照りがすうっと引いていくのが分かった。何度か深呼吸をすれば、心臓の鼓動も幾分か落ち着いて来る。は、と小さく息を吐いて、私はある事に気が付き、舌先で歯列をなぞってみた。

「………き、牙が、ある……」

 思った通り、普段無い筈の尖った牙のような歯を見付けてしまい、息を呑む。信じ難いけれど、どうやら本当に吸血鬼になってしまったらしい。ベッドの上で頭を抱えていると、不意に部屋のドアがノックされる。ハッとした時にはもう、DIO様が部屋の中に足を踏み入れていた。
 DIO様を視界に入れた瞬間、心臓がドクンと脈打った。小さく呻いてベッドの上で再び蹲れば、私の様子に気が付いたらしいDIO様が此方に近付いて来る。慌てて白手紙を掴んで、DIO様に見えるように突き出した。

「い、いま、近づかないで下さいッ…!て、手紙のせいで、私、きゅ…吸血鬼に、なってるんです…!」
「……ほう?」

 DIO様がにいっと笑みを深めたのを見て、私は選択を誤った気がした。逆に興味を持たれた…だと…。DIO様がずんずんと大股で歩み寄って来て、私は慌てて後退るが、ベッドの上で逃げられる距離などたかが知れている。ベッドから降りようとした時には、DIO様は直ぐ目の前に迫って来ていた。

「ち、近づかな、むぐッ…!?」
「…牙があるな。成る程、本当に吸血鬼になったという事か…フフ 面白いじゃあないか」

 DIO様がベッドに腰を下ろしたかと思うと、手を伸ばして私の顎を掴んだ。更にその長い指を口の中に突っ込んで来たので、私は思わず目を見開く。確かめるように牙の先を撫でられて、ぞわりと背筋が粟立った。
 そうこうしている間にも、DIO様は私を抱き上げて、膝の上に向かい合うようにして下ろした。DIO様の胸に手をついて突っぱねるものの、腰に回っている手の所為で、逃げ出す事は出来そうにない。

 ぐぬぬ、と必死に抵抗していると、DIO様の大きな手が後頭部に回り、ぐいと強く引き寄せられる。DIO様の首筋に顔を埋めるような形になって、思わず目を見開いた。

「何を我慢する事がある…血を飲みたいのだろう?」
「ン、…ぐッ…」
「口を開けろ、ユメコ。その牙は飾りじゃあないだろう。私の首に噛み付け」

 ぐい、と更に顔を押し付けられて、声を掛けられる。息を吸い込めば、DIO様の香りが肺いっぱいに満たされるような、不思議な感覚に陥った。首筋から目が離せなくなって、心臓がドクドクと激しく脈打ち、喉が乾いて仕方がない。
 その内、熱に浮かされた時のように頭がぼうっとして来て、何も考えられなくなる。息を吐いて、そうっと口を開けた。思うままに目の前の肌に噛み付けば、DIO様が小さく笑って私の頭を撫でる。

「…良い子だな、ユメコ」
「……ん、…ッ」

 DIO様の声が頭の中に響く。牙を抜いて、赤黒い傷がついて血が滲んでいるそこに再び唇をつける。じゅっ、と水音を響かせながら傷口に吸い付けば、口の中に血の味が広がった。
 不思議な事に、嫌な味だとは思わなかった。鉄のようなあの独特な味がしない。ほのかに甘みさえ感じるようで、まるで血液とは思えなかった。吸い上げる力が弱いのか、それとも下手なのか、喉が潤うまでには量が全く足りない。

「まるで赤子のようだな。愛らしい事だ」

 必死に血を啜っている私の頭を撫でながら、DIO様が小さく喉の奥で笑う。もっと、もっと欲しい。喉が渇いて仕方がない。いつの間にか自分から縋るようにDIO様に抱き着いて、血を吸い上げていた時だった。

「………う、ッ!?」

 それは突然の事だった。口内いっぱいにぶわっと鉄の味が広がり、驚いた私は思わずDIO様の首筋から顔を離し、ピンと背筋を伸ばす。つい数秒前までは美味しい『飲み物』だったのに、今私が感じているのは、紛うことなく『血』の味だ。
 バッと口元に手を当てて、濡れている唇を拭う。手の甲にべっとりと着いた血を見ても、もう美味しそうだなんて思えなかった。おそらく王様の命令が解けたのだろう。タイミングに悪意しか感じない。

「う、うええッ…ま、不味い〜ッ……」
「何だ、もう戻ったのか…つまらんな。つい先程までは実に美味そうに飲んでいたじゃあないか」

 表情を歪めて唸る私に、DIO様がフンと鼻を鳴らす。今すぐに口を濯いで水を飲みたいところだけれど、生憎、この部屋には置いていない。DIO様にお礼だけ言って、下がらせて貰おう。そう思ったのとほぼ同時、DIO様が私の名前を呼んだ。

「ユメコよ…あの血の味も悪くは無かっただろう?」
「………ま、まあ…不思議と美味しく感じましたけど…」
「もう一度あの味を味わいたくはないか?この通り、傷も直ぐに塞がって便利だぞ。…どうだ、この際、私と同じ吸血鬼になるというのは」
「え、遠慮しますッ!!!」

 確かに吸血鬼の時に感じたあの血の味は美味しかったし、傷も直ぐに塞がるというのは魅力的ではあるけれど、だからと言って吸血鬼になりたいとは思わない。それとこれとは話は別だ。ブンブンと首を横に振って全力で拒否する意向を示す私に、DIO様はもう一度鼻を鳴らし、「つまらん奴だ」とそっぽを向いたのだった。


▼ 【DIOを吸血すること】 クリア!
「つ、つまらんってそんな…」「まあ良い。気が変わったら言え」「(絶対変わらない……)」
←back