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高校生組


黒い手紙と共に落ちて来たのは、おどろおどろしい女性が描かれたパッケージのゲームである。ホラーの類いを苦手中の苦手とする私が、思わず意識を飛ばし掛けたのは言うまでもない。
【六原ユメコは今日の23時59分までに高校生組とホラーゲームをプレイする事】という、普段なら100%確実にやらないであろう命令が下っているという事を高校生組――つまり仗助くん達に説明すると、皆は快く協力してくれた。これほど心強く思った事は無いかもしれない。

部屋に仗助くん、億泰くん、康一くん、それから由花子ちゃんを招き入れ、手紙と共に落ちて来た例のゲームを恐る恐る取り出す。それを見た仗助くんが表情を引き攣らせながら口を開いた。

「お、おいおい、これって大の大人も半泣きになると巷で噂のホラーゲームじゃあねェか…!」
「ええええ!?そ、そうなの…!?」
「…ぼ、僕、流石に自信ないなぁ…」
「大丈夫よ康一くん。康一くんには私が着いてるわ」
「由花子はホラー平気だもんなァ〜…。俺も流石にこれはちょっと怖ェ…」

苦笑した康一くんに由花子ちゃんがぴたりと寄り添えば、億泰くんが口を尖らせる。私もどさくさに紛れて由花子ちゃんに引っ付いちゃおうかな…。そんな事を考えていると、察したらしい由花子ちゃんが「ユメコはそっちの二人で我慢しなさい」と言いながら仗助くんと億泰くんを指差した。いやいや、我慢って。ちら、と両隣の二人を盗み見れば、二人とも表情を僅かに引き攣らせていた。

「…ま、まァ、とにかくやらなきゃ始まらねェからやるか…」

仗助くんがゲームを起動させる。そうして始まったのは、ゲームのオープニングだ。不気味なBGMと悲鳴で彩られ、ホラー映画の一番盛り上がる場面を切り取ったような映像が流れている。…まあ、何が言いたいかと言うと。

「むむむ無理だよおおお!何これ怖い!!オープニングから怖い!!」
「ッちょ、そ、そんなに引っ付くなってユメコ…!」
「ごッ、ごめ、…だって怖いからッ…!」

反射的に仗助くんに引っ付いてしまい、慌てて謝る。オープニングからして既に無理なのだがどうしよう。おどろおどろしいゲーム画面に真っ赤なSTARTの文字が点滅し、私達は黙り込んだ。ここまで来て漸く気が付いたのだが、根本的な疑問が一つ。
――これは、誰が操作するのだろうか。命令には指定が無いので誰でも構わないのだろうが、勿論、自主的に名乗り出る人は居ない。となるとやはり、此処はじゃんけんで決める事になる訳で。

「…よ、よし、恨みっこナシだぜェ〜!ほい、最初はグー!」
「ううう…!」

億泰くんの掛け声で、じゃんけんが始まる。そして、じゃんけんで負けてしまったのは――

「……………」
「…え、ええと、その、頑張って…」
「………おう…」

負けたのは、なんと仗助くんでした。今日ほどじゃんけんに真剣になった日は無かったかもしれない。自分の出した手を見て凹んでいる仗助くんに慌てて声を掛けていると、端に居る由花子ちゃんが「大袈裟なのよね」と冷たく呟いた。
とにもかくにも、プレイヤーも決まり、後はゲームをプレイするだけである。コントローラーを握った仗助くんが「よ、よし、やるぜ…」と声を上げ、周りに居る私達もごくりと息を飲んだ。

最近のゲームは画質も良いし、リアルだし、凝っているので余計に怖い。不安を煽るようなBGMやSEにビクビクしながら、ゲームの舞台である廃病院の中を歩いて行く主人公の背中を目で追う。そろそろ何か出そうだ。絶対出るよこれ…。
いかにも何か飛び出して来そうな長い廊下を、主人公がそろそろと歩いて行く。前方にはドアが半開きの病室があって、仗助くんが思わずコントローラーを操作する手を止めた。気持ちはとても分かります。

「……くっそォ〜、絶対こっから何か飛び出して来んだろこれ…!」
「た、確かに、完全に怪しい…」
「バッと行けよ仗助ェ〜!こう、バッと!」
「言うならお前がやれよ億泰!!」

ぎゃあぎゃあと言い合いしだした仗助くんと億泰くんを「ま、まあまあ…」と康一くんが苦笑しながら宥め、一旦小休止する。それから少しして、仗助くんがコントローラーを握り直した。「っしゃあ、行くぞ!」と半ばやけくそ気味にスティックを思い切り前に倒し、ドアの前を駆け抜ける。
しかし、予想に反し、中からは何も飛び出しては来なかった。警戒していただけに拍子抜けだ。ほっと息をついて仗助くんが再び操作し始めた――その時である。突然女性の悲鳴が聞こえ、画面が切り替わる。背後から、パッケージにも描かれているおどろおどろしい女性の幽霊が追いかけて来ていた。

「「「ぎゃあああああ!!!」」」
「うわあああ怖いいいいいい!!!!」

由花子ちゃんを除いて全員が絶叫する。反射的にスタートボタンを押してポーズした仗助くんは、半泣きになりながらコントローラーを放り投げた。それを億泰くんがキャッチしてしまい、慌てて隣に居た康一くんに押し付ける。

「ええええ!?何で僕ゥ!?」
「俺には無理だ!!」
「じゃんけんの意味は!?」
「…仕方ないわね。康一くん、私に任せて」

うろたえる康一くんを見兼ねたらしい由花子ちゃんが、彼の手からそっとコントローラーを取り上げた。何の躊躇も無くポーズを解き、幽霊やら悲鳴やらギミックやらはものともせず、淡々とゲームを進めていく。
当人である由花子ちゃんはちっとも動じていないのに、そのプレイを見ている私達の方がぎゃあぎゃあと怯えているのはどういう事なのだろうか。由花子ちゃん頼もし過ぎるよ…。

ゲームの一章をクリアしたところで手紙は消えたのだが、最後までプレイしたのは、結局由花子ちゃんだった。面目ない…。


▼【高校生組とホラーゲームをプレイ】 クリア!

「別に騒ぐほどの事じゃなかったわ」「いやいや騒ぐほどの事だったっつーの!」「鉄の精神力かお前…」「はは…」「私、由花子ちゃんに惚れそう…」


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