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ジョルノ


今朝現れた黒い手紙の行方が分からなくなって、私は非常に焦っていた。【六原ユメコは今日の23時59分までにジョルノ・ジョバァーナと結婚衣装を着て記念撮影すること】――これはもはや相談する事すら躊躇うほどだ。
結婚衣装って。記念撮影って。なんかもう泣きそう…。だからこそ、誰かの目に触れる前に見つけなくてはならない――そう思っていたのに。

「衣装もカメラマンも用意させました。さあ、準備して下さい」

この目の前に広がっている光景は、夢以外に何があり得るのか。にこにことしているジョルノくんの後ろでスタンバイしているのは、カメラを持ったカメラマンさんと、女の子なら誰もが憧れるであろうウェディングドレス。
純白のウェディングドレスは光に当たってきらきらと輝いていて、感動するほど美しい。思わず見惚れる私に、ジョルノくんが小さく笑った。――だけど違う。何がって、何もかも違う。一体どうしてこんなに準備が良いのだろう。

いや、というかそれ以前に、何故ジョルノくんは既に命令の内容を知っているのだろうか。呆然としている私に、ジョルノくんが見覚えのある手紙を差し出して来た。行方の分からなくなっていた手紙である。

「廊下に落ちていたのを見付けたんです。ユメコの事だから相談さえ躊躇うだろうと思って、先に用意したんですよ」
「ウッ…!?」
「こんな美味しい話、僕が断る筈ないじゃありませんか。喜んで協力します」

そう言ったジョルノくんはにこやかに笑いながら、私をドレスの方へ押しやった。やはり見れば見るほど美しい。…着てみたい。そう考えてしまうのは、女の子として仕方がないと思う。ちらりとジョルノくんに視線を遣れば、「きっと似合いますよ」と背中を押された。


***


ドレスを着て、ベールを被り、手にはブーケを持つ。確かに命令とはいえ、ここまで忠実にしなくても良いんじゃあなかろうか。特にベール。誓いのキスをする訳でもないんだから…。そう思いながら鏡に映る自分を見るが、気分は悪くなかった。
背後でドアの開く音がして、反射的に振り返る。そこにいたのは新郎姿のジョルノくんだった。上品なシルバーのタキシードをびしっと着こなしている姿は、誰がどう見たって格好良い。ずるいなあ。何だか直視出来なくて俯いていると、ジョルノくんが私の前までゆっくりと歩みを進めた。

「…やはり僕の思った通りでしたね。とても似合っていますよ、ユメコ。綺麗だ」
「あ、ありがとう…。ジョルノくんも、あの、すごくかっこいいよ。ほんと、直視出来ないくらい…」
「ふふ、グラッツェ。でも駄目ですよ。顔を上げて、僕にもっと良く見せて」

頬を包まれ、やんわりと上を向かされる。ジョルノくんの瞳と視線がかち合って、堪らなく恥ずかしくなった。ううう、なにこれ、死ぬほど恥ずかしいよう…。あまりにも顔が真っ赤だったのか、ジョルノくんは小さくふき出した。

「全く、何処までも可愛らしいんですから…」
「ど、どこが…」
「全部に決まっているじゃあないですか」

言い切られてしまった。ジョルノくんって真顔でさらっとこういう事を言ってしまうから非常に困る。言われる身にもなって欲しいところだ。居た堪れなくなって視線を下に落とすと、ジョルノくんがベールに手をかけたのが視界の端に映った。
ベールが捲くられて、視界がクリアになる。反射的に顔を上げれば思ったよりも近い位置にジョルノくんの顔があって、思わず固まってしまった。ち、ち、近い!!しかし後退りするよりも早く腰に手を回されてしまって逃げられない。

あわあわしている内に手が伸びてきて、長い指が私の頬を撫でる。ジョルノくんは口元に緩く笑みを浮かべ、ゆっくりと近づいて来た。ちょっと待て、まさかこれは…!!?

「ま、待ってジョルノくんッ…!!な、なに、何しようとしてるの…!?」
「何って、誓いのキ――」
「あああああそれ以上言わなくていいからッ!!」
「聞いたのはユメコじゃあないですか。どうしたんです、そんなに真っ赤な顔をして…」
「ジョルノくん、しゃ、写真を撮らないと!命令だから!!ねッ!?」

目の前の胸を押しながらそう訴えると、渋々といった表情ながら離れてくれた。今度はカメラマンさんと何やら話している。ところでジョルノくんは何でキスする気満々だったんだろう…。煩いくらい音を立てている胸を押さえながら、手招きしているジョルノくんの方へ向かう。
「失礼しますね」と声を掛けられた直後、私の体が抱き上げられた。お、お姫様抱っこ!?何故!!?地面に足がついていないという不安から無意識にジョルノくんの首に腕を回していたようで、ジョルノくんは目を細めてくすくすと笑った。

「大丈夫です、落としたりしませんよ。ユメコは僕の大事な人なんですから」
「だ…ッ!?…じょ、ジョルノくん、あんまりそういう事言わないで…!」
「事実ですよ」

ジョルノくんはそう言って、宥めるように私の額に唇を落とした。びくっと肩を震わせれば、ジョルノくんは再び笑う。これじゃあどっちが年上か分からない。
首に回していた手を外して、すっかり真っ赤に染まってしまった顔を覆う。すると、それに気が付いたジョルノくんが「こら」と声をあげた。

「ユメコ、顔が見えないじゃあないですか。ほら、手を外して」
「うう…で、でも恥ずかしいよこれ…」
「恥らう姿もとても可愛らしいですが、今は我慢して下さい。いつまで経っても写真が撮れませんよ」

…ジョルノくんって会話の中に一つは甘い言葉を入れないと話せないのだろうか。お蔭で顔がまた熱くなった。小さく唸りながらゆっくり手を離す。それからジョルノくんに促されて、再び首に腕を回した。これで顔を隠す事が出来なくなってしまった。
暫くカメラのシャッター音が響いていたが、おそらく撮れた写真の中の私はどれも真っ赤な顔でがちがちに固まっているのだろう。想像しただけで恥ずかしいったらない。そして漸く写真も撮れたようで手紙も消え、カメラマンさんは機材を片付けてそそくさと去っていった。

――残されたのは、私とジョルノくんだけ。まだお姫様抱っこされたままなので何だか妙に気まずい。「あ、あの…」と私が切り出すよりも早く、ジョルノくんが口を開いた。

「どうします?このまま、いっそ本当に結婚しちゃいましょうか」
「!!?な、な、何言って…ッ!?」
「僕は覚悟ならとっくに出来ています。後はユメコ、貴女の返事次第だ」

話が凄く飛躍しているが、ジョルノくんは至って真面目なようだ。綺麗な瞳で真っ直ぐに見つめられて、どうしたら良いのか分からない。言葉の発し方を忘れたように喉が上手く動かなくて、体温が急上昇していくのがはっきりと分かる。ダメ押しと言わんばかりに耳元で名前を囁かれて、私は思わずきゅっと目を閉じた。ジョルノくんが小さく笑い、私の耳を甘く噛んだ。

「ひゃッ、…じょ、るのくん…ッ」
「…ベネ。とても可愛いですよ」
「〜ッ…!!」
「…まあ、この話はまた今度にしましょうか。これ以上は貴女がもたないでしょうし」

もたないって何だろう。物凄く怖い。しかしこの状態から解放されるのは喜ばしい事だ。漸く下ろして貰い、緊張していたからかよろけたところをジョルノくんに支えられる。そのまま左手を取られ、顔を上げたところで薬指にキスをされた。目を瞬かせていると、ジョルノくんは口元に弧を描く。

「左手の薬指――予約しておきましたから、覚悟して下さいね」

思わず固まってしまった私にぱちんとウインクをして、ジョルノくんは満足そうな表情を浮かべた。


▼ 【ジョルノ・ジョバァーナと結婚衣装を着て記念撮影】 クリア!

「写真を現像したら廊下にでも飾りましょうか」「!?そ、それじゃあ皆に見られちゃうよ…!!」「ええ、見せびらかすに決まっているじゃあないですか」「!!?」


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