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暗殺チーム


頭上から降ってきたのは、いつもの見慣れた黒い手紙ではなく、白い手紙。今度は何がどうなるのだろうかと恐る恐る封を切り、中の手紙に目を通した――その直後だった。ボンッと爆発音のようなものと共に真っ白な煙に覆われ、私は思わず手紙を取り落とす。
濃い割に煙はサッと消えたので、慌てて鏡の前に駆け寄った。そこに映っていたのは、だぼだぼのワンピースを纏った三歳ほどの子供――もとい、手紙の効果で若返ってしまった私だった。ぺたぺたと体を触ってみるけれど、やっぱり私だった。な、なんてこった!!

「ユメコ、何かおかしな音がしたが一体――」
「り…リゾットさああん…!!」
「……………」

わなわなと震えていると、先程の音を聞きつけたらしいリゾットさんが部屋を訪ねて来た。その姿を見た瞬間、何故か涙が溢れて来る。何だか精神も少し幼くなってしまったようだ。ぼろぼろ涙を零す私を見て暫く固まっていたが、漸く私だと分かってくれたらしい。
纏わり付くワンピースに苦戦しながら彼の元に駆け寄り、長い足に縋り付く。リゾットさん身長高すぎィ!いや、私が小さいのか…。リゾットさんは困惑した表情を浮かべつつもそっと抱き上げてくれたので、私は手紙を見せながら必死に説明した。

【六原ユメコは今日の23時59分まで幼児化したまま暗殺チームと過ごすこと】――白い手紙に書かれた内容は実際に作用するので、私がこんな姿になってしまったという訳である。リゾットさんは慰めるように私の頭を撫でながら、部屋を出た。


***


「ベネッ!!ディ・モールトベネッ!!!」
「ヒイッ…!?」
「おいメローネ気持ち悪いぞ。ユメコに近付くな」

息荒く私に近付いてきたメローネさんの首根っこを掴み、容赦無く放り投げたのはプロシュートさんだ。私を抱っこしてくれているリゾットさんも若干引いていたくらいだから、今のメローネさんは私にも相当怖かった。うう、やっぱり自室に閉じこもっているべきだった気がする…。
リゾットさんの首筋に縋るように抱き着いていると、プロシュートさんが私の頭を撫で、手を此方に向けて広げた。これは、一体?じっと見詰めていると、リゾットさんがため息をついて私をプロシュートさんの方へと差し出した。お?おおお??

「また可愛くなったモンだなァ、ユメコ?」
「ぷ、プロシュートさんっ!わたし、小さくても中身はいつもとおなじなんですよ!」

プロシュートさんに笑いながら頬をぷにぷにと触られて、私はむくれながら「子供あつかいしないで下さい!」と続ける。するとそれを見ていたギアッチョさんとホルマジオさんが揃って噴き出した。
きょとんとして辺りを見渡せば、皆肩を震わせている。な、なんという事だ…!?確かに、見た目は子供、頭脳は大人ってそれなんて名探偵?とか思うけど、何も笑う事はないじゃあないか!!じたじたと暴れてプロシュートさんの腕の中から抜け出し、フンッと鼻を鳴らす。私だってなりたくてこんな姿になった訳ではないのだ。

ぷんすか怒りながら部屋に戻ろうとリビングのドアに手をかけようとした――のだが、あと僅かに身長が足りない。そんな馬鹿な。思わず呆然としていると、再び誰かが噴き出す音がした。…う、うう、なんか泣きそうだ。
恥ずかしいし悔しいし情けないし、ぐるぐると色々な感情が渦を巻いて何が何だか分からないまま涙がじわりと滲んできた。「う…ふええ…」とまさに子供そのものな泣き声を漏らすと、私の様子に気が付いたらしいペッシさんがギョッとしたように私の名前を呼んだ。

「ユメコ、な、泣かないで!ね!?」
「ふぇ…」
「ど、どうしましょう兄貴ィ!宥め方なんて知らないよ俺!!」
「落ち着けペッシ!お前も落ち着くんだユメコ、中身は大人だろ?ほーら落ち着け、落ち着くんだユメコ」
「びええええええええ!!!!」
「ちょ、おい!?」

今更中身の話をしたってもう遅い!!泣くぞ!思いっきり泣いてやるんだから!!私が大声で泣き出せば、皆が目に見えて慌てだした。大の大人がおろおろとしている様子――しかもあの暗殺チームの面々が――はとても面白い。いつも散々からかわれているのだから、こんな時くらいは仕返ししたって良いじゃない!
全力で泣いていると、誰かが私を抱き上げた。そして宥めるように私の背中をぽんぽんと叩き、「よしよし」と優しい声で私を落ち着かせる。やけに子供の扱いに慣れているその人は、なんとあのメローネさんだった。

「ほら、泣かないのユメコ。可愛いお顔が台無しだよ」
「だ、だって…みんなが…ふええ…」

一番に駆け寄ってきたあの時のメローネさんはどこ行った?にっこり笑って私の頭を撫でるメローネさんに、密かにそんな事を思ってしまう。というか何でこんなに子供の扱いに慣れているのだろう。もしかしてスタンドの関係だろうか。
ぐすぐすと鼻を鳴らしてはいるが、先程に比べれば大分落ち着いた。よくよく考えれば、子供だからってちょっと意地の悪い事をしてしまったかな。反省。「泣いてごめんなさい…」と小さく謝れば、皆がほっとした表情を浮かべたのが見て取れた。

「うん、いい子だねユメコ。皆はね、ユメコがあんまりにも可愛いから困ってるだけなんだよ。ねー、ギアッチョ?」
「はあ!?な、何で俺がッ」
「ほんとは抱っこしたくて堪らないくせに。ほら、ユメコ、行ってあげてくれるかい?」

にやにやと笑うメローネさんにゆっくりと下ろされ、私はソファーに座るギアッチョさんの元に駆け寄る。眉間に皺を寄せて何やら険しい表情を浮かべている彼にへらりと笑いかければ、大きくため息をつかれてしまった。
けれど直ぐに腕が伸びてきて、私はギアッチョさんの膝の上に乗せられていた。ギアッチョさんを見上げると、「こっち見んじゃあねェ!」と何故か怒られたが、おそらく照れ隠しなのだろう。そんな事を考えていると、隣に座るホルマジオさんが私の頭をぐりぐりと撫でた。

「ごめんな、笑っちまって。メローネの言う通り、あんまりお前が可愛かったから、ついな」
「もういいんです。それに、わたしもごめんなさい」
「やっぱり中身は大人だな。いい子だ」

ホルマジオさんが笑いながら再び私の頭を撫でる。何というか、お兄ちゃんっぽい。中身は大人だと言ってくれた割には未だに子供扱いされている事が気になるが、それでも嫌な気がしないのは彼だからだろう。
にぱっと笑い返すと、ホルマジオさんの肩越しに此方を見ていたイルーゾォさんと目が合った。ギアッチョさんが首を傾げる私と、思いっきり目を逸らしたイルーゾォさんに気が付いて、ニヤリと悪戯っ子のような笑みを浮かべる。…あ、何か企んでいるな。そう思ったのとほぼ同時の事だ。私の体が浮いて、瞬きを一つした頃にはもう私はイルーゾォさんの膝の上に居た。

「!!?」
「あれ…?」
「…イルーゾォ、顔真っ赤だぞ。お前まさかロリコンか」
「ち、ちがッ、俺は別に…!!」

ホルマジオさんの指摘に、ギアッチョさんがげらげらと笑う。振り返ってちらりと見上げると、私と目が合ったイルーゾォさんは確かに顔が真っ赤だった。そ、そんなに緊張しなくても…。何だか心配になって名前を呼べば、ぎこちなく頭を撫でられて、私も思わずはにかんでしまった。
すると「ベネ!可愛いッ!!」と声が聞こえて、メローネさんが一瞬で駆け寄ってきた訳だが、さっきのいいお兄さんっぷりはどこ行った。吃驚してイルーゾォさんに抱き着けば石のように固まってしまうし、一体どうしろと。

メローネさんの勢いに怯えていると、背後からやって来たプロシュートさんがメローネさんの首根っこを掴んで部屋の隅に放り投げた。あれ、デジャブ…。プロシュートさんにお説教されているメローネさんを横目に、ふと自分がうとうととしている事に気がついた。そりゃああれだけ思いっきり泣けば疲れるだろう。馬鹿か私は…。眠たい目をこすって大きな欠伸を溢せば、ホルマジオさんが小さく笑う。

「はは、おねむか?」
「…だいじょうぶ、です…」
「そうは見えねえけどな」

こくこくと舟を漕いでいると、不意に小さなため息と共に誰かに抱き上げられた。ぼんやりとした視界に捉えたのは、リゾットさんだ。眠気と戦っている私を見て僅かに笑みを溢すと、リゾットさんはゆっくりと私の頭を撫でた。うわあ、そんな事されたら寝ちゃうよ…。じんわり伝わる体温に、眠気がぐんっと増す。

「起きる頃にはきっと戻っているだろう。…おやすみ、ユメコ」

薄れていく意識の中でも、皆が「おやすみ」と口々に言ってくれているのが聞こえた。なんて穏やかな空気なんだろう。私も最後の力を振り絞って「おやすみなさい」と呟いたけれど、届いただろうか。リゾットさんのぬくもりを感じながら、私は幸せな気持ちのまま眠りに落ちていったのだった。


▼【一日幼児化して暗殺チームと過ごす】 クリア!

「確かに起きたら姿は元に戻ったし、それは良い。良いんだけど――なんで皆で添い寝してるんですかね!!!」


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