×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

承太郎&典明


 ホテルの空き部屋の関係で、私は空条くんと花京院くんと相部屋となった。珍しいよなあ、なんて考えながらベッドでまどろんでいた時だ。突然額に鋭い痛みが走り、私は短い悲鳴と共に跳ね起きた。膝の上に落ちたのは見覚えのある黒い手紙で、どうやらこれが仰向けで寝ていた私の額に突き刺さったらしい。そりゃあ痛い。
 額を押さえつつ手紙に恨めしい視線を送っていると、私の悲鳴を聞いたらしく花京院くんが慌てて駆け寄って来てくれる。しかし私の様子を見て何となく状況を察したらしく、彼はほっと息をついた。

「ご、ごめんね…。手紙がいきなり降ってきたものだからつい…」
「いや、構わないよ。それよりおでこに当たったのかい?赤くなってるけど…」
「…かどが突き刺さったらしくて…」

 手紙を摘み上げながらそう説明すれば、花京院くんは目を丸くした後に小さくふき出した。自分のせいではないとはいえ、恥ずかしい。「と、とにかく手紙を開けないと!」なんてわざとらしく話題を変え、私は手紙の封を切った。
 中には便箋が二枚。思わず顔をしかめながら二枚の便箋を開くと、命令が一つずつ書いてあった。【六原ユメコは今日の23時59分までに花京院典明の物真似をすること】、そしてもう一つは【六原ユメコは今日の23時59分までに空条承太郎の物真似をすること】――全くなんという二本立てだろうか。

「物真似って…いったい何を…」
「ユメコが僕と承太郎の物真似か…何だか楽しみだな」
「た、楽しみって…花京院くん…!」

 とはいえ命令に関係する二人は相部屋だし、お誂え向きというか何というか。これって本人に目の前で披露しないといけないのかな、なんて根本的な疑問がわいてきたが、花京院くんはどうも見る気満々のようなので、流れ的に披露する事になっている気がする。
 物真似なんて出来ないんだけどなあ…。すっかり困ってしまって考えていると、花京院くんが何か思い出したように、「ちょっと待ってて」と言い残して隣の部屋に消えていった。あそこは確かシャワールームのある部屋だったろうか。それから直ぐに帰ってきた花京院くんだったが、その手に何故か空条くんの学ランを抱えていた。

「…あの…花京院くん…?」
「物真似なら形から入るべきかなって思って借りて来ちゃった。承太郎はシャワー浴びてるし、借りるくらい構わないよ」
「えええ…」

 もう花京院くんったら素敵な笑顔!でも借りるって言っても許可とってないよねそれ!!渋ってみたけれど、手渡され、しかもきらきらとした視線を向けられてはもう逃げられなかった。小声で謝りながら、そっと学ランの袖に手を通す。私よりずっと背も高くて体も大きな空条くんだから、学ランもかなり大きいだろうと思ってはいたが、着てみれば予想よりもぶかぶかだった。
 腕も足もすっかり学ランに飲み込まれてしまっている。裾なんてもはやウエディングドレス並みに床に引き摺っているというこの有様に、私も勿論だが花京院くんも驚いていた。大きいし重たいし、何より動きにくい。早いところ命令をクリアしてしまおうと思った直後だった。がちゃり、部屋のドアが開く音がした。

「おい、俺の学ランそっちに――」

 ウワアアアアお約束ううううう!!!思わず叫びそうになった代わりにピシッと固まる。お風呂あがりスタイルな空条くんが私を凝視して同じように固まっていて、花京院くんだけがへらりと笑って「あ、これ借りてるよ」とのほほんと声を発していた。

「あ、ああああの!こ、これには深い訳がありまして――ッうわあ!?」
「ユメコ!?」

 もういたたまれなくなって慌てて空条くんの方に駆け寄って説明しようとしたのがいけなかった。学ランの動きにくさをすっかり失念していたのである。急に動いたせいで学ランの裾が足に絡まって前につんのめり――後はお分かりだろう、私は見事にすっ転んだ。

「…おい、無事か」
「大丈夫かい!?」

 上から声が降ってくるけれど、正直顔を上げたくない。色々と恥ずかしすぎて死にそうだ。それでもこのままとはいかないのでゆっくり立ち上がると、泣きそうな私の代わりに花京院くんが経緯を説明してくれた。空条くんは納得してくれたようだけど、とりあえず学ランは返す事にしよう。
 そう思って「ごめんね、今脱ぐから」と声をかけた時だった。ふと頭に何か乗せられて、ずり下がったそれは私の視界を黒く塗りつぶす。わたわた慌てながら手探りでそれを取り上げてみると、見慣れた学生帽だった。

「こ、これ…」
「こういうのは形から入らねーとな」
「どうやら承太郎も楽しみみたいだね」
「ええ!?そ、そんなあッ!」

 ハードル上げられても困るよ!そう訴えてみても、二人はこちらをじっと見ている。こ…これは…なんというプレッシャー!!私は半ば諦めに近い思いを抱き、空条くんの学生帽を被り直してから一つ咳払いをした。やるよ!やれば良いんでしょう!!

「い、いきます…。『やかましい!うっとおしいぞ』ッ!!」
「………」
「………」

 ウワアアアア無言やめてえええええ!!!反射的に両手で顔を覆って蹲ったと同時、遠くからポンッと手紙の消える音がして、ハッとしたように花京院くんが「ごめん泣かないで!!」と私の背中をさすった。泣いてない…全然泣いてないよ…!!目から流れているのは汗だよ…!!

「いや、随分可愛い物真似だったからつい…。ていうかどうしてそのチョイス…」
「だ、だって昨日空条くんがそうやって怒ってたからッ…!」
「やれやれだぜ…。なにも泣くことはねーだろう」
「な、泣いてないッ!!」

 そうか…考えれば『やれやれだぜ』とかもっと他にあったじゃないか…。ぐすりと鼻を鳴らしながら、学生帽と学ランを空条くんに返す。色々と貴重な体験をさせて貰ったので、丁重にお礼を述べました。しかしこれで終わりではない。そう、花京院くんの物真似が待っているのだ。私もう死にたい。
 花京院くんは空条くん同様に学ランを貸してくれた訳だが、やはりこちらもかなり大きい。ずり落ちてくる袖に悪戦苦闘していると、小さく笑われてしまった。こっちは必死なのに!

「ごめんごめん。でも君が僕の学ランを着ている姿ってこう…なんというか…うん…」
「おいやめろ花京院」

 空条くんが花京院くんに鋭い視線を送って強制的に黙らせたが、一体何を言おうとしたのだろう。頭上にハテナを浮かべながらも、私は物真似に集中することにした。花京院くんの物真似は何をすればいいのだろう。少し考えた結果、たどり着いたのはいつかに見た、少々衝撃的な花京院くんのあの『癖』だった。

「いッ、いきます!『レロレロレロレロ』…」
「!?」
「………」

 これならどうだと思いチョイスしたのだが、何故か花京院くんが固まってしまった。しかも何やら顔が赤い。空条くんは帽子のつばに手をかけて小刻みに震えているし――ハッ!もしかして似てなさ過ぎて怒ってる!?
 慌てて花京院くんの名前を呼ぶが、反応はない。そんなに怒っているのかと必死に呼びかけたところで漸く花京院くんがピクリと反応してくれた。涙目になりながら「ごめんね!!」と謝り倒せば、彼は顔を赤くしたままで口を開いた。

「い、いや、別に怒ってる訳じゃあないんだ…」
「ほ、ほんと…?」
「良く見ろ、寧ろ喜んでるじゃあねーか」
「承太郎!!」
「喜ん…?ま、まあとにかく怒ってないなら良かった…。それと、学ランありがとう」

 とんだ羞恥プレイを味わったけど、まあ手紙も消えたから良いとしよう。学ランを花京院くんに返し、おそらく黒歴史になるであろう先程の物真似を記憶から抹消するように自分に言い聞かせながら、私は手紙が消えている事を確認しに向かうのだった。


▼ 【空条承太郎と花京院典明の物真似をする】 クリア!

「…承太郎、あれは反則だと思わないか」「…俺に聞くな」

←back