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"ゲブ神"U


シーフの『骨を盗む』で花京院くんの目元の傷を治していたが、傷が塞がったところで急激に治るスピードが落ちた。どうやら私が治せるのはここまでのようだ。出血は止まったけれど、おそらく目の中までは治しきれていない。やはり病院で早く診て貰わなければ。気ばかり急ぐが、敵スタンドが地面の中に潜んでいるこの状態では、車を出す事すら出来ない。みすみす逃がしてくれる筈も無いし、まずは何とかして敵を倒さなければならない。
どうしたものかと思案していた時だ。後部座席で寝ていたイギーが徐ろに起き上がり、車の外へ降りる。敵が居るかもしれないのに、と慌てて手を伸ばした時だ。地面に水溜りのようなものが出来たかと思うと、タイヤの前輪が水に飲み込まれ、車体が大きく傾いた。

「タイヤが水の中に!や…やばい…だめだひきずり込まれる!」
「う、うおおっ!す…すべり落ちるぞッ!」
「もっと車のうしろの方へ移動しろッ!」

まるで蟻地獄のような状態で、車はどんどん水の中に飲み込まれ、殆ど垂直になってしまう。花京院くんはポルナレフさんが抱え、私も承太郎くんに助けられながら、慌てて車の後ろへ移動して掴まる。必死な私達を余所に、イギーは砂の上で呑気に昼寝の続きをしていた。
敵スタンドはこのまま車を水の中に引き摺り込んでしまうのかと思っていたが、どうやら目的はそうではなかったらしい。前輪が切断され、前が軽くなった車は、再び大きく傾いた。シーソーの要領で、全員が集まって重くなっている後部が下がり、地面に叩き付けられる。

「しっ しまったああああッ!」

車の後部が着地した反動で、私達は再び地面の上に落ちてしまった。その瞬間、車の下にあった水溜りが消え、地面にしみ込んだのが見える。敵はこれを狙っていたのだ。物音を立てれば、確実に攻撃される。全員が息を呑んだのが分かった。
何とか敵スタンドを地面から出させて、攻撃するしか無い。もう一度『黄の節制』を使って攻撃出来るだろうか。考えていると、私の横に居るアヴドゥルさんが手首に嵌めている腕輪を外し、少し離れたところに放った。一つ、二つ、一定のリズムで地面の上に腕輪が刺さる。まるで抜き足で歩いているかのように見せ掛け、敵スタンドをおびき寄せようとしているようだ。

五つ目の腕輪を投げたところで、水がじわりと現れたのが見えた。――来たッ!アヴドゥルさんが『魔術師の赤』を出し、炎を纏った拳を放つ。しかし、敵スタンドは急に方向を変え、アヴドゥルさんの方へ向かって来た。

「なにィッ!?」
「い、『黄の節制』ッ!!」

アヴドゥルさんを捉えるより先に、反射的に出した『黄の節制』が敵スタンドを包み込む。じゅうっと蒸発するような音と共に、敵スタンドが地面に落ちる。へたりと地面に座り込めば、アヴドゥルさんが「助かった…すまない」と私の肩を叩いてくれた。
地面に貼り付けるようにして敵スタンドを閉じ込めた訳だが、この後はどうしたものか。水のスタンドだから、アヴドゥルさんの『魔術師の赤』なら蒸発させる形で攻撃出来るかもしれない。そんな事を思っていると、ポルナレフさんが「おいッ!なんかおかしいぞ!」と声を上げた。

慌てて視線を敵スタンドの方に戻すと、中に閉じ込めている水の体積が明らかに減っていた。そんな馬鹿な、と目を見開き、辺りを確認する。『黄の節制』に閉じ込めていた全てが無くなった訳ではなく、少しだけ中に残っているのは何故なのだろう。そう考えたところで、私はハッと気が付いた。それと同時、『黄の節制』の前の地面に水がじわりと滲んだ。

「ま、まさか…『黄の節制』と触れている外側の部分だけ、あの中に残して…ッ!?」
「メイッ!自分を防御しろーッ!!」

敵スタンドは『黄の節制』と触れている外側だけを残し、脱皮するようにして、中の無事な部分だけ地面に逃げ込んだらしい。そうして『黄の節制』に覆われていない地面から飛び出して来たのだ。承太郎くんの言葉に咄嗟にもう一度『黄の節制』を出そうとするが、既に遅かった。
敵スタンドは目にも留まらぬ速さで私の真横をすり抜け、体制を立て直す為か再び地面に潜った。一拍置いて、私の首筋に一線が走る。血が噴き出したところで漸く切られたのだと理解し、がくりと地面に膝をついた。

「ッうう…!?」
「メイッ!」

倒れ込みそうになったところを、アヴドゥルさんが支えてくれる。地面にはぼたぼたと血が垂れ、砂の中に染みこんで行く。蹲る私にトドメを刺そうとしているのか、直ぐ目の前にもう一度現れた敵スタンドを見て、冷や汗が流れた。このままではアヴドゥルさんまで一緒に攻撃されてしまう――そう思った瞬間だった。
承太郎くんが立ち上がり、そのまま勢い良く何処かへ駆け出したのだ。敵スタンドは承太郎くんを追うようにして砂の中に潜ったので、私が攻撃される事は無かった。承太郎くんは砂の上で寝ていたイギーを掴んで立ち止まると、イギーを地面に押し付ける。イギーは先程車を攻撃された時、攻撃を察知したように車から逃げていたが、おそらく承太郎くんもそれに気が付いていたのだろう。

「さあてと 協力してもらうぜイギーよ。どこから襲ってくる…教えろ!イギー、てめーも死ぬぜ!ガムはやらねーがな」

敵スタンドが迫って来ている事に焦ったのか、イギーは『愚者』を出す。『愚者』には羽のような物が生えており、両手でイギーを掴むと、空中に浮いて逃げようとした。承太郎くんがそれを見逃す筈も無く、地面を蹴ると、『愚者』の腕にしがみついてそのまま空を進んで行く。このまま空を進めば、敵スタンドに気が付かれる事無く、本体を探す事が出来るだろう。
しかし、イギーの『愚者』は空を飛べるのではなく、紙飛行機のように空を舞っていただけらしい。段々と高度は降りて行き、承太郎くんの足が地面に擦れそうになっている。承太郎くんは仕方が無いと判断したのか、『星の白金』の足で地面を蹴り、イギーの手助けをした。

大きく前進はしたが、今の一歩で敵スタンドに位置を教えてしまったようだ。今まで大人しかった敵スタンドが、再び承太郎くん達に狙いを定め、勢い良く地面を進み始めた。

「あっ!ヤツのスタンドが承太郎を追い始めたッ!今の一歩で気づいたんだッ!ど…どうする?ジョースターさん!」
「も…もはやこの戦い承太郎にまかせるしかない」

ポルナレフさんとジョセフさんが固唾を呑んで見守る。…承太郎くん。承太郎くんの姿がすっかり遠くになって来た頃、出血の所為か目の前がちかちかとして来て、小さく呻く。承太郎くんに気を取られていて意識していなかったが、そういえば首筋を切られていたのだ。ずっと手で傷口を押さえていたが、切られたのが首という事もあってか、なかなか出血が止まってくれない。アヴドゥルさんが私に気が付いて、「メイッ、大丈夫か!」と声を上げる。その声に、ポルナレフさんとジョセフさんも此方に気が付いたらしい。

「メイ、早く『黒の泥棒猫』を出せ!自分の傷も治せるだろッ!」
「…治せ、ますけど、…意識が、…うまく、出せな…くて…」
「お、おいッ!メイ!」

意識が朦朧としている所為か、シーフが上手く呼び出せない。アヴドゥルさんの方にふらりと倒れ込んだのを最後に、私はそのまま意識を飛ばしたのだった。

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