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いざ杜王町へ

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 ――死闘を繰り広げ、まるでRPGの世界のような旅を終えてから、早くも十年が経った。そう頻繁にとは行かないものの、旅を共にした皆とは今でも連絡を取り合っている。私は数年前にめでたく承太郎くんと結婚し、今では花京院くんと共に、散々お世話になったSPW財団に勤めているところだ。
 最近の出来事で最もビッグニュースだったのは、何と言ってもジョースター家を揺るがしたジョセフさんの隠し子騒動だろう。あの時は本当に色々と大変だったものだ。承太郎くんは高齢なジョセフさんに代わり、自身の叔父に当たる東方仗助という高校生を訪ねてM県S市にある杜王町に出掛けて行った。

 それから数日経った頃、私は承太郎くんに呼ばれた。そして今日、私は彼を追う形で、この杜王町へと足を踏み入れたのである。暫くは滞在する事になるとの話だったので、引いているキャリーバッグには荷物を詰めて来ていた。その所為か、何だかちょっとした旅行気分だ。
 着く頃を見計らって近くまで迎えに来てくれるらしいのだけれど、さて、何処に居るのだろうか。キャリーバッグを引いて駅前を少し歩いたところで、前方に見慣れた姿を見付け、私は自分でもパッと表情が明るくなったのを感じた。

「承太郎くん!」
「……メイ。無事に着いたな、安心したぜ」

 学生時代の黒い学ランとは対照的な真っ白のコートは、あの頃とはまた違って人目を引く。一際大きな音を立てながらキャリーバッグを引いて駆け寄れば、承太郎くんは口元を少し緩めて出迎えてくれた。たった数日ぶりな筈なのに、何だか久しぶりに感じるのは、それだけ承太郎くんの存在が大きいからなのだろう。
 そんな事をぼんやり考えていると、承太郎くんの後ろから、ひょっこりと三つの顔が覗く。どうやら承太郎くんの背後に隠れていたらしい。びく、と肩を揺らした私を見て、承太郎くんが「彼らの話はしただろう」と声を掛けてくれる。

「……あ、あー!えっと、東方仗助くんと、広瀬康一くんと、虹村億泰くん…?」

 名前を呼ぶ度に、出席を取られる生徒よろしく手を挙げて応えてくれたのが何とも可愛かった。リーゼント頭の男の子――件の東方仗助くんは、ジョースター家の血を色濃く受け継いでいるようで、身長は高くて体格も良く、顔立ちも整っている。それに、何処となく承太郎くんと似ているのが、私にとっては何よりの証拠だと思った。
 「流石ジョースター家の血筋…」なんて呟いていると、東方くんが私と承太郎くんにちらちらと視線を行き来させながら、「あのォ〜…」と声を上げる。何か聞きたい事があるような素振りだ。何処と無くそわそわとしながら、東方くんは言葉を続けた。

「SPW財団の人…なんスよね?」
「あ、はい!えっと、空条メイです。SPW財団で働いてて、今回は承太郎くんに呼ばれたので来ました」

 どうぞよろしく、と続けて、へらりと笑う。承太郎くんの横でぎょっとしたように目を見開いた三人は、私と承太郎くんを忙しなく見比べながら、「く、空条ォ〜ッ!?」と綺麗に声を揃えた。うーん、やっぱりそういう反応になるよなあ。

「えッ、ちょ、ちょっと待って下さいよ!空条って……じゃ、じゃあまさかッ…!?」
「俺の妻だな」

 承太郎くんが私の肩に手を置いてしれっと答えれば、三人はこれまた綺麗に声を揃えて絶叫した。私は私で承太郎くんの「俺の妻」という発言に思わず顔が暑くなってしまい、気付かれないようにとこっそり顔を逸らしたのだが、承太郎くんにはバレていたらしい。「…いい加減に慣れたらどうだ」と笑いを含んだ声が降って来て、私は堪らずに顔を覆った。いつまで経っても、何だかこそばゆいんだよなあ…。
 とにかく、気持ちを切り替えよう。顔を覆っていた手を外し、ごほん、と態とらしく咳払いをする。この町には遊びに来た訳じゃあないのだ。仕事の一貫で来ているのだから、きちんと全うしなくてはならない。

 そんな事を思っていると、広瀬くんに「メイさんもスタンド使いなんですか?」と尋ねられる。頷いて『黒の泥棒猫』を出せば、シーフは挨拶代わりに宙でくるりと回って私の肩の上に着地した。それを見てから、今度は東方くんが「何でメイさんを呼んだんスか?」と承太郎くんに問う。承太郎くんはちらと私を見遣り、静かに口を開いた。

「以前話したとは思うが、メイは十年前のエジプトへの旅に同行している。スタンド使いに対しての経験は豊富だ」
「…まあ、承太郎くん達にくっついて歩いてただけだけどね…」
「確かに話には聞いてましたけど…危険な旅だったっていうから、なんつーか、こう、もっと屈強そうな女の人かと思ってたっス…」
「メイはこれでも大猿を屈服させたりしていたがな」
「えッ!?」
「な、何でわざわざそれを引っ張りだして来るのかなあ…!」

 思い出されるのは、『力』を有するオランウータンとの戦闘である。ぎょっとした表情で私を見て来る三人に慌てていると、承太郎くんは帽子のつばを指で引き落として、自分の表情を隠した。あれは絶対に笑っている。「ば、ばか…!」と承太郎くんの腕をぱしんと叩いたが、何処吹く風だった。
 しかし、承太郎くんはそれから直ぐに顔を上げて「…とりあえず、今日のところはひとまず解散だ」と声を上げた。これから頻繁に顔を合わせる事になるだろうから、とりあえず互いに紹介を済ませておきたかったのだろう。

「あ、ええと…私も暫くは杜王町でお世話になるから、これからよろしくね」

 へら、と笑えば、三人も大きく頷いて「よろしくお願いします!」と声を揃えてくれた。元々そんなに心配はしていなかったけれど、仲良くやっていけそうだ。
 暫くは滞在する事になるから、杜王町の土地勘も少しは掴めるようになると良いなあ。色々と考えていると、承太郎くんが私の横にあるキャリーバッグに手を伸ばし、ひょいと持ち上げた。

「行くぞメイ。荷物はこれだけか」
「うん。…あ、もう、自分で持てるのに…」
「長旅だったんだ、疲れているだろう。…それに、運ぶ先はどうせ俺の取っている部屋だからな」
「そ、そうだけど…」

 もごもごと言っている間に、承太郎くんはキャリーバッグを持っている手とは反対の手で、私の腰をそっと抱いて、歩みを促した。有無を言わせず、というやつである。
 そんなに甘やかしてくれなくても良いのに、なんて少し擽ったく思いながら、私は何故か目を丸くしている三人に手を振り、承太郎くんに促されるまま歩いて行くのだった。
結婚後の四部突入IF。主人公はSPW財団に身を置き、花京院と共に貴重なスタンド使いとして調査に飛び回ったりしてます。