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真っ直ぐなんて見られない

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 恒例となった刺客との戦闘を終え、すっかり気疲れしてしまった私達は、少し移動した所にあった近くのホテルで一泊する事となった。ジョセフさん達は車の調達に向かったようだ。
 人数と部屋数の関係で、今回は承太郎くんと花京院くんとの三人部屋になっていた。何だか久しぶりだ。部屋の中に入って、ソファーに腰を下ろす。そのままずりずりと体をずらし、ソファーの上で横になった。

「…おい。寝転がるならベッドにしたらどうだ」
「…うん……」
「もう半分寝てるみたいだね」

 承太郎くんの言葉にぽわぽわとした気分で答えれば、花京院くんが苦笑したのが聞こえた。何だかお母さんみたいだなあ、なんてぼんやりとした頭の中で考えて、くふ、と一人で笑う。承太郎くんと花京院くんと同じ部屋割りだからか、何だか気が楽だ。二人が居れば、例え敵が襲って来ても怖くない。すっかり気が抜けてしまったようで、私は目を閉じ、うつらうつらとし始めた。
 遠くで承太郎くんと花京院くんの話し声が聞こえる。何だか私の名前が出て来たような気がして、何の話だろう、と考えるが、話の輪に加わる気力もない。私の意識は、そのままゆっくりと沈んでいった。


***


 もぞ、と寝返りをうつ。その拍子に、体の上から何かがずれ落ち、ぱさ、と落ちる音がした。…なんだろう。重たい瞼をこじ開けて、きょろ、とまず辺りを見回す。部屋の中は静まり返っていた。私はベッドの上に横になっていて、先程落ちたのはシーツだったらしい。誰かが運んでくれたのだろうか、と考えながらもそりと緩慢な動きで起き上がり、体を伸ばす。
 私が横になっていた筈のソファーには、承太郎くんが足を組んで座っていた。俯いているので分からないが、時折船を漕いでいるところを見ると、どうやら居眠りしているらしい。花京院くんの姿は無く、部屋に居るのは私と承太郎くんだけだった。何かと気を遣ってくれる花京院くんの事だから、寝ている私達を起こさないように、外へ出たのかもしれない。

 くあ、と欠伸を一つ溢し、音を立てないようにベッドからそうっと降りる。ギシ、と僅かに鳴ったスプリング音にひやりとしつつ、承太郎くんを見遣るが、幸い起きてはいなかった。
 ほっと密かに息をついてから、シーツを手に承太郎くんへ近付いて行く。承太郎くんが風邪を引くところなんて、何だか想像が出来ないけれど、一応何か体に掛けてあげたい。

「(……これでいい、かな…)」

 ベッドに畳んでおいてあったシーツを承太郎くんの体にそっと掛ける。起きてしまわないかひやひやしたけれど、承太郎くんもかなり疲れているのか、少し身じろぎしたくらいで瞼は閉ざされたままだった。
 好奇心で承太郎くんの目の前にゆるゆるとしゃがみ込み、静かに彼を見上げる。睫毛が長いなあ、だとか、やっぱり整った顔立ちだよなあ、だとか、そんな取り留めのない事をぼんやりと思う。承太郎くんが起きている時は恥ずかしくて真正面からじっくりと彼を見る事なんて出来ないから、何だか新鮮な気分だ。

 一人の人間を見ているというよりかは、まるで完成された一幅の絵画か何かを眺めている気分だ。だけど、瞬きの動きに合わせて睫毛が揺れるところだとか、重たげな瞼の下から覗く吸い込まれるようなエメラルドグリーンの瞳だとか、そういうところはやはり絵画ではなくて生身の人間であるという事を改めて思い知らされる。
 ――ん?ちょっと待てよ…瞼の下から覗く、エメラルドグリーンの瞳……?

「………おい…何してんだ」
「……………お…ッ、お、おはようございますッ…!!?」

 承太郎くんが起きている事に気が付いた私は、しゅばっと立ち上がってそのまま勢い良く後退りした。あまりにぼんやりとし過ぎて、気が付かなかったッ…!!怪訝そうに視線を向けられて、心臓が爆発しそうなくらいに忙しなく脈打っている。
 寝顔を眺めていたのを見られてしまっただなんて、恥ずかしくて堪らない。というか、変態くさくて言い訳のしようもない。あああどうしよう、と思い切り目を逸らしながらぐるぐると考えていると、承太郎くんが私を呼んだ。

「……これはお前が掛けてくれたのか?」
「え、…あ、う、うん…あの、か、風邪引いちゃうといけないと思って……」
「そうか、悪いな」

 シーツを軽く持ち上げて言う承太郎くんに、私は慌てて首を横に振る。部屋を見回して花京院くんの姿がない事に気が付いたらしい承太郎くんに、「…えっと、花京院くん、気を遣ってくれたみたいで…」と声を掛ければ、彼は「…そうか」と一つ頷いてゆっくりと体を起こした。
 どうも、このまま上手く話が流れてくれそうだ。承太郎くんに背を向け、ほ、と密かに息をついていた時だった。ふっと自分の上に影がかかったのに気が付いて、反射的に振り向く。

 思わず息を呑んだのは、承太郎くんが私の直ぐ真後ろに立っていたからだ。ぎょっとして後退りをしようとしたのだけれど、それよりも早く、承太郎くんに腕を掴まれてしまう。そして彼の指先で顎を掬われるように上を向かせられて、承太郎くんとまっすぐに視線が絡み合った。
 じいっと見つめられて、目が逸らせない。どんどん顔に熱が集まっていくのが分かり、言葉らしい言葉すら発せない私に、承太郎くんは口を開いた。

「…真正面から顔を見るなら、起きている時にして貰いてーもんだな」
「…ッ…!?あ、…う、……!?」

 や、やっぱり見ていたのがバレていたのか…!!はくはくと口を動かすしかない私に、承太郎くんは何処か悪戯っぽく目を細めたのだった。