声が出ない主人公
疲労を溜め込んで風邪を引いてしまったらしい私は、すっかり喉をやられて、声が出なくなってしまっていた。熱が出なくて良かったものの、声が出ないというのもなかなか厄介なものだ。
ジョセフさんは一日町に滞在して療養しようと言ってくれたけれど、私の為に旅が遅れるのは申し訳がない。身振り手振りで必死に説得して、出発する事になった――のだけれど。
「お、そうじゃ!メイ、誰かに手でも繋いでおいて貰うか」
「………!?」
ぎょっとした私に、「逸れてしまっては大変じゃからのう」とジョセフさんが付け加える。確かに声が出ない今、皆と逸れてしまっては面倒な事になるだろう。良く人混みに流され、逸れそうになる私を知っているからこその提案だとは思うのだけれど――だからといって手を繋ぐだなんて!
ぶんぶんと首を横に振る私を他所に、「確かにその方が安心だな」だの「誰が繋ぐかな」だのと、話はどんどん進んで行ってしまっている。本人を置いてけぼりにしないで!!心の中で叫ぶけれど、声にはならないのでもどかしい。
「…で、誰と繋ぎたいんだい?」
「……〜〜っ!」
花京院くんに尋ねられて、頭を抱えたくなる。もう手を繋ぐ事が前提になっているなんて、絶対におかしい。そう思うものの、全員が私の反応を待つようにじっと此方を見ているので、逃げられない事を悟ってしまった。
私はうろうろと視線を彷徨わせた後で、おずおずと手を伸ばす。私に服の裾を掴まれたその人は、小さく笑って私の手を握ってくれたのだった。
16.12.24
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