ヴァニラの髪を梳かす
2014/09/20 02:51
【ヴァニラの髪を梳かす】
「…あの。ヴァニラさんの髪って、綺麗ですよね。な、何か手入れとか…されてるんですか…?」
「何もしていない」
勇気を出して美容師さんの言いそうな台詞を喋ってみたが、あえなく撃沈した。そりゃあそうですよね…。内心めそめそしながら、私は手元の櫛でひたすらヴァニラさんの髪を梳かす。
もう早いところ手紙が消えるのを祈るしかない。そうは思っても、やはりこの重たい沈黙は痛い。意を決し、私は再び口を開いた。
「…そういえばヴァニラさん、髪をアレンジした事無いですよね。三つ編みとかしないんですか?」
「…俺の三つ編みを見たいのかお前は」
「………、で、でも、ほら、デーボさんとか三つ編みですし…すっきりはするんじゃないですかね…?」
「知るか」
またもやぴしゃりと返されてしまった。エジプトは蒸し暑いし、髪を纏めると結構違うと思うんだけどなあ。そんな事を思いながら髪を梳かしていると、漸く手紙の消えた音がした。
「もう良いんだな」と声を上げたヴァニラさんに「は、はい」と返しつつ、私は密かに手首のヘアゴムと櫛を見遣る。三つ編み、なあ。
「………あの、三つ編みしてみても…」
「手を消されても良いのなら、やってみろ」
「嘘です冗談ですすみませんでした」
スッと真横にスタンドのクリームを出され、私は慌てて手を引っ込めた。三つ編みが原因でガオンされるなんて、代償が大き過ぎるだろう。顔を真っ青にしながら「ご、ご協力ありがとうございました…」と頭を下げれば、ふん、と鼻を鳴らされたのだった。
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