私の元恋人は元プロスノーボーダーで現パルデア最強と言われるナッペ山のジムリーダーだ。
 私と彼が付き合っていたのはプロのスノーボーダーだった時代で、ありきたりだけれど出会いは学校。たまたま隣の席になって仲良くなった。その頃の彼は夢に向かって一直線の熱血漢で、色彩とは正反対の人だった。
 そして別れたきっかけは彼の大怪我。夢を奪われた彼はまるで別人のように冷たい色彩通りの人になってしまった。
 私はそれでもよかった。プロスノーボーダーでもないただの彼が好きだったから。
 でも彼との未来を諦めてしまった。……顔も見たくない、あの頃を思い出すから一緒にいることが苦痛だととても辛そうな顔で言われたから。彼を苦しめているのが自分自身だなんて気付かず私が支えないと、だなんて思っていた自分が滑稽だった。


 それからすぐ私はパルデアを離れた。
 私の職業は香水の調合師。
 本場のカロスへと修行に行くのはずっと希望していたことで、けれども彼をあの状態で放っておくことができずに保留にしていた。
 小さな頃から母親の持っている香水に興味を惹かれ、きらきらな小瓶、繊細な装飾、そのなかに入っている個性豊かな香り……。その人の持つ体臭と合わさるとその人ただ一つだけの香りになる。それってとても素敵だなと子供心に思ったことをとてもよく覚えている。

 カロスでは厳しくも真っ直ぐに導いてくれる師匠に出会い、一人前と認められてからようやくパルデアへ戻る頃にはあれから数年が経過していた。

 そのカロスでの数年の間にも彼のことはずっと忘れられずにいた。ふと何かあるたびに思い出すし、こっぴどく振られたというのにまだ心の大半を占めていて、カロスでアプローチかけてくる男性もそれなりにいたけれど私の心が動くことはなかった。
 そんな中パルデアのニュースを読んでいると、彼がジムリーダーになったことを知った。前に進んでいるんだなと嬉しくなった反面、その隣にいるのが自分じゃないんだとちくりと胸が痛んでその晩は涙を止めることができなかった。
 おめでとうの一言を伝えようにも、カロスに来た当初に携帯を落としてパルデアにいれば同じ番号で復旧できたけれどカロスでは難しく端末全て変えてしまった私にはそれすらできない。
 私と彼を繋ぐものはその時に無くなった。

 パルデアへと帰った私は実家のあるボウルタウンに小さな香水店を開いた。
 本当に小さなお店だけれど、木目調のナチュラルな雰囲気が私好みで胸が躍る。一階は店舗スペースと小さいけれど調合部屋があり、二階は住居スペースだ。
 課外授業の学生さんも多く訪れるので学生さんでも手を出せるような安価なものから、恋人へのプレゼントにおすすめな香りが混ざっても不快にならないペアの香水、もちろん希望があればオーダーメイドも対応している。
 初めはどの程度お客様が来てくださるのかわからなかったのでひとりでやっていたものの、ありがたいことに従業員をひとり雇えるくらいになった。師匠のお店に香水を下ろすこともあるので目が回るほどではないにしても想像よりも忙しい毎日を送っていた。

 週に一度ある定休日。お店の在庫がなければ補充のために使うこともあるけれど、最近はナッペ山のジムへ向かうことが多い。
 未練がましい自覚はあるものの、一度だけと、そう思っていたのに何度も何度も通ってしまっていた。私がいると苦痛……そう言っていた彼の前に姿を見せることは二度としたくないと思っていたのに。あの頃の熱を彷彿とさせる目をした彼をずっと見ていたい、だなんて。なんて自分勝手なんだろうと見に行った日には自己嫌悪することも少なくない。
 ジム戦が始まってから観はじめて終る前に帰るようにしているため今はまだ彼にはバレていないと思う。けれど彼のアルクジラにはバレてしまったためもう潮時だろう。

 ……あの頃の彼はポケモン勝負に興味はなさそうだったが今は違うようで、表情は冷たいもののあの頃の熱がちらついている。その姿が好きだった。彼も前を向いている。私もこの気持ちをそろそろ清算する時間が来ているのかもしれない。


 今日もきてしまった、ナッペ山。懐かしい思い出がたくさんあるこの山を訪れるたびにその時の思い出がよぎって苦しくなる。
 私は決めていた。今日でここへくるのはおしまいにすると。遠くで陰ながら応援するのがお互いに一番いい形だと思うから。

 今日はジム戦ではなく、新しく誕生した若きチャンピオンが視察にきている……らしい。周りの人がそう話しているのが聞こえた。
 パルデアの新チャンピオンといえば確か若くて可愛い女の子だったと思う。ネットニュースでみた満面の笑みはとても魅力的だった。
 いつもの遠く離れた場所から人混みの合間を縫って覗き込む。そして驚きに目を見開く。

 なんて楽しそうな顔をしているんだろう。

 そして込み上げたのは喜びより先に嫉妬だった。どろりと黒いモヤがお腹の底から込み上げて今にも掃き出しそうで、マフラーを引き上げて口を押さえ込む。
 なんでその顔をさせているのが私じゃないの? どうして私じゃだめだったの? ずっと隣にいたかったのに───。
 そして自己嫌悪。彼の未来が明るいことを喜べない私が隣にいられないのは当たり前だ。彼に私は相応しくない。それに今日で終わりにするって決めたから。
 今日も試合の終わりを見届けることなくボウルタウンへ帰る。最後だからと、思い出の多いナッペ山を目に焼き付けるつもりが視界が歪んで何も見えず仕舞いだった。


Side:G
 学生時代に付き合っていた彼女がいた。大切で大切で仕方なかったのに、自分から手放した。それもとてもひどい言葉を投げかけて。
 その時はそれが本心だった。彼女といると怪我をする前のことを嫌でも思い出すし、何より彼女を大切にできなくなったぼくと一緒にいるのは彼女のためにならないと思ったから。
 真っ青な顔をして泣くまいと顔を歪ませた彼女を思い出すたびに胸が締め付けられて、手放せば楽になると思っていたのにそれは余計に僕を苦しめることになった。
 それから一ヶ月経った頃、自分勝手にも程があるがぼくは彼女の声が聞きたくてしょうがなくて震える手で通話ボタンを押した。けれど返ってきたのはこの番号は現在使われておりません、という無機質な声。もう彼女はぼくの元へ戻ってこないのだと、深い後悔に襲われたのは完全に自業自得だった。

 それでも時はぼくを置いて行ってはくれない。

 時間はぼくを強制的に立ち直らせ、夢を失ったぼくに新しい道を開いた。
 それは昔は全く興味のなかったポケモントレーナーとしての道。
 幸いにもぼくにはその才能が他の人よりも有ったらしく、それに必死にしがみつく。今度これを取り上げられてしまったらぼくには何が残るのだろう、という焦燥感に駆られながらもがむしゃらに進み続けていつしかナッペ山のジムリーダーへたどり着いていた。
 パルデア最強のジムリーダーといつからか呼ばれるようになったものの、心の大半はぽっかりとあいたまま埋まらずにいる。

 ナッペ山は嫌でもいろんなことを思い出させる。彼女のこと、スノーボードのことが大半ではあるが、それがぼくの全てだった。
 今でも『パルデア最高峰』を眺めながら彼女は今どうしているのだろうと思うことがある。ぼくがジムリーダーになったこと知ってるのかな、いつか気になって観に来てくれたらいいのにとそんなサムいことが脳裏によぎることもままあった。
 ……彼女に会いたい。自分から手放した彼女が恋しくて胸が痛んだ。

 ある日からボールからだして一緒にすごすことの多いアルクジラの様子のおかしいことが増えた。もしかして体調が悪いのかと思って病院に連れて行けば異常はなし。どうしたのかと尋ねても言葉の話せないアルクジラは困ったように声を漏らすだけ。ぼくは手をこまねていた。
 それを繰り返すことひと月。アルクジラの様子がおかしくなる日は決まった曜日であることがわかった。それもジム戦が終わったあとに元気がなくなる。
 今日もジム戦後にアルクジラの元気がなくなった。いつもはそのままジムは戻るのだが、突然アルクジラが別方向に走って何かを拾っている。拾い食いでもしたら危ないと慌てて近寄ればそれは食べ物ではなく、若草色のハンカチ。誰かの落とし物だろうか、とそれをアルクジラが差し出してくる。

「……これ」

 手にとった瞬間広がった懐かしい香り。彼女の、彼女だけの香りだ。
 彼女は香水の調合師でこれは自分専用の大切な香りだから売り出すことはないと言っていたのを覚えている。恋しくて似た匂いの香水を買ったこともあるけれどやはり違う物。でもこれはその香りそのもので……。

「アルクジラ、これって」

「ホエー!」

「そうか、そうだったんだ」

「ホエー! ホエー!」

 気づいてもらえたと言わんばかりにアルクジラは嬉しそうにステップを踏む。彼女がいることに気付いたアルクジラはぼくにうまく知らせることが出来なくて落ち込んでいたのだ。
 ……彼女がぼくを観に来ている。そのことに喜びが湧き上がる。若草色のハンカチをぎゅっと握りしめた。

 それからぼくはジム戦の前と後、観客の中に彼女を探すようになった。けれど決まって彼女の姿を見つけることが出来ずに終わる。今日はいたかとアルクジラに尋ねればいたと教えてくれた。
 昔彼女を傷つけた言葉を彼女は覚えていて、それを守っていることが窺える。何度ぼくは間違えればいいのだろう。匂いの消えた若草色のハンカチが視界に入るたびに後悔する。そしてその次の週も彼女を探そうと視界を動かせど、見つかることはなかった。

 そしてある日から。正確には新チャンピオンがトップの代理に視察にきたあの日を境に彼女の気配が消えた。
 その次の週はなにか予定が入ってしまったのかもと思った。でもその次の週もアルクジラはいなかったという。そしてその次の週も───。
 そして振り出しに戻った。



 あの日からナッペ山に行くことはなくなった。
 彼の姿を思い出さない日はないし、ネットニュースで名前をみれば記事を見てしまうし、未だに吹っ切れずにいる。
 空いた休みの日は新しい調合をいろいろと試すようになり、小さな小瓶で少量ずつ売り出すようになった。その中から人気の出たものを定番に追加する予定だ。師匠にも感想を聞こうとサンプルを送れば概ね好評そうだったものの、とある一種類をさしてなんだか切なくなると返された。
 それはあの日に勢いで作ったもので師匠の鋭さにヒヤッとさせられた。

 今日は従業員さんがお休みの日で私がひとり店頭にいた。平日の昼下がり、特に忙しいこともないので座って紅茶を飲んだり今の売れ筋商品や在庫の確認をして過ごす。あ、ラッピング用の箱の在庫が少なさそう。
 そんなふうに帳簿を見ていればドアベルがカランカランと軽い音を立ててお客様が入ってきた。

「いらっしゃいま、せ」

 顔を上げてお客様へ声かけをすれば視界に飛び込んできたのは水色。大好きで大好きで仕方のなかった彼の持つ色。見間違えることのない、大切な色。
 急激に上がる心拍数が警告にも似た音をたてて胸を叩く。
 ここはボウルタウン。いつも雪山でつけている防寒具は着けていない、身軽な彼がそこにいた。

「なん、で」

 思いがけない再会に喉がヒュッと情けない音を立てた。
 とにかく私の姿をみせてはいけないと立ち上がってバックヤードに下がろうとすれば彼の大きな手が引き留める。

「お願い、待って」

 あの頃より落ち着いた声が二人の間に落ちる。
 私は彼に背を向けたまま動けずにいた。引き留めるために掴まれた腕は強くなく、おそらく振り解ける。けれどもその手は震えているように思えてそうすることを躊躇わさせた。

「会いたかった、なまえ。今更だけどあんなひどいこといって本当にごめん」

「……っ」

「傷つけたのはぼくなのに、なまえがいなくなってから死ぬほど後悔した。謝ろうにも携帯は繋がんないし……。ボウルタウンに新しく評判のいい香水店が出来たって聞いて、きっとなまえの店だと思って、居ても立っても居られなくなって……押しかけてごめん……」

 するりと掴まれていた腕が離される。ゆっくりと振り返れば泣きそうな顔をした彼がいた。きっと私も似たような顔をしていると思う。

「グルー、シャ」

「なまえ、ごめん、本当にごめん。ずっと会いたかった」

「っ、グルーシャ」

 グルーシャの言葉に答えるよりも先に涙が溢れ出て止まらない。情けなくボロボロと涙をこぼすだけの私をグルーシャは優しく抱きしめた。

「嫌だったら突き飛ばして」

 優しく抱きすくめられ、懐かしい彼の体温に包まれる。鼻先は彼を香りを拾って意識しなくとも胸いっぱいに広がっていく。溢れる涙で服が濡れることを気にすることなく、彼は両腕を私の背中に回した。

「……ねぇ、突き飛ばさないってことは期待してもいいの?」

 ひっくひっくとしゃくりあげることしかできない私はあいている両腕をその言葉に返すように背中へと回す。

「なまえ……っ!」

 グルーシャの腕が先ほどよりも強く私を締め付ける。でも全然苦しくなくて私も少し強く抱きしめ返せば、私の頭に頬擦りする様にグルーシャが頬を擦り付けた。懐かしいその仕草にまた胸がいっぱいになってボロボロと泣き始めた私を、グルーシャは抱きしめたまま待っていてくれてた。

 落ち着いて話そうと今日はcloseの看板を出してシャッターを下ろす。きてくれた人がいた場合に、せめてものお詫びにと新作サンプルを店先に置いておいた。お店のSNSにも急遽早く閉じることになったとお知らせを載せておく。
 二階の住居スペースへとあがるとそこにはずっと恋しかったグルーシャがいて、まるで夢のような光景だった。

「ごめん、お待たせ」

「いや、むしろ閉めさせてごめん。時間作ってくれてありがとう」

「ううん、私も話したかったから」

 二人がけのソファに並んで座る。目の前にグルーシャの好きだった銘柄のインスタントコーヒーを置く。我ながら気持ち悪いのだけれど、自分は飲まないのに買ってしまっていたものだった。最悪来客用として使えると自分に言い訳をして。

「これ……ありがとう、美味しい」

「……うん」

 そこからお互いに会えなかった間に何があったのかぽつぽつと報告し合う。
 私はパルデアにおらずカロスへ行っていたこと、その際携帯を落として復旧出来なかったことを伝えた。

「それで繋がらなかったんだ……」

「ごめん、それがなければこんなことにならなかったかも」

「いや、なまえはなにも悪くない。それにあの頃のぼくだと同じこと繰り返したかもしれないし」

「グルーシャ……」

「もう二度と手放さない」

 その熱のこもった瞳に頬が熱くなる。照れて思わず目を逸らせばグルーシャからくつりと笑い声が聞こえた。

「それで師匠に一人前だって認められて戻ってきたのが一年前で、ここをオープンさせてから半年たったかな? 私はそんな感じ」

「そう。おかえり、なまえ」

「! ただいま」

 カロスに残ることも考えなかったことじゃない。香水の調合師にとって最先端であるカロスで仕事ができるということはとても誇りになることだから。
 悩みながらも長年の夢であった故郷ボウルタウンでの開業を決めた。それをこうして一番おかえりを言って欲しかったグルーシャが言ってくれていることが嬉しい。

「……向こうで恋人とか作らなかったの? カロスの人ってそういうのすごいって聞いたけど」

 少し間を開けてグルーシャが難しそうな顔をして言った。思い当たることに内心どきりとしながらもそれが表に出ないよう気をつけながら私は答える。

「……いなかったよ」

「む、その間は言い寄られてはいた感じだ」

「なんで分か……!? でもグルーシャが忘れられなくてダメだったから、付き合ったりとかはない」

 グルーシャの鋭さは健在なようであっさりと黙っていたことを見抜いてジト目で見られる。慌てて弁解すれば嬉しそうに目を細めるから恥ずかしいことを口走ってもまあいいかと思わされる、ずるい人だ。

「……ぼくはあれからなまえのことをずっと後悔してた。どうして手放したんだろうって。離れてから気付くなんてサムすぎるし、最低で自分勝手だった」

「グルーシャ……」

「ポケモントレーナーの才能が人よりもあるって気づいてからはそれにしがみついて必死だった。……でも今はもう少しぼくらしく強くなれそうな気がするんだ」

「……それって、新チャンピオンの彼女のおかげ?」

 そっと頭を俯ければ、あの時の苦い記憶が蘇る。あの時のグルーシャはとてもいい顔をしていた。それを素直に喜べなかった自分を思い出して、今まで浮かれていた熱がサッと冷える。

「まあ確かに彼女はいい刺激になったよ。でも今はなまえが隣にいてくれて、一緒に歩いてくれるから。アルクジラがなまえが観に来てくれてるって教えてくれて、そこから変わった気がする」

 後ろめたい気持ちを抑えて恐る恐る顔を上げればグルーシャの双眸が優しく細められていた。きゅっと胸が苦しくなる。

「……私、すごい最低なこと思ったの。新チャンピオンと戦ってるグルーシャ、すごくいい顔をしていて、喜ぶべきところなのに、何で私がその顔にしてあげられなかったんだろうって、なんで隣にいないんだろうって……! そんなことばっかり思っちゃって……」

「……それってすごい口説き文句だけど気づいてる?」

「え? そうじゃなくて、私グルーシャに相応しくないって……」

「ダメ、なまえがそう思ってもぼくにはもうあんたしかいない。それにそう思うってことはぼくのことすごい好きってことでしょ?」

 そう言って笑ったグルーシャの瞳に熱と甘さを感じて頬が熱くなる。
 嫉妬の塊の言葉を肯定し嬉しそうにする姿に私の負い目はあっさりと消え去っていった。

「ねぇ、なまえ。もう二度と傷つけないし絶対泣かせないから、ずっとそばにいて」

「……うん。もう離さないでね?」

「もう二度とあんなのはごめんだ」
 
 そう言ってグルーシャは私の存在を確かめるように私を抱きしめた。私も両腕を彼の背中に回して胸に顔を押し付ける。少し早い心音に彼もドキドキしていることがわかって嬉しい。
 そしてどちらとともなく唇を合わせる。久しぶりのキスはグルーシャとコーヒーの香りがした。
 唇を離したグルーシャはポケットから何かを取り出して私に差し出す。

「このハンカチ、なまえのでしょ? アルクジラが拾ってくれた」

「あ、これ、なくしたと思ってたハンカチ……」

 差し出されたのは若草色のハンカチ。鞄に入れていたはずなのに見つからずに諦めていたものだった。やはりどこかに落としていたらしい。

「なまえの香水の香りがしてすぐにわかったよ。今度からはこっそりじゃなくて一番近くで応援してほしい。……あの頃みたいに」

 どこか懇願するような表情に私はグルーシャの手をとって頷く。

「うん。ずっとずっと、応援させてね」

 そう言えば彼はあの頃と同じ顔で破面した。その表情に私も嬉しくなってグルーシャの頬に口付ける。

「大好きだよ!」

「うん、ぼくも。……愛してるよ」

 本当に嬉しそう、愛しそうに笑ってそういうから。私はお腹の奥底から込み上げる大きな感情にたまらなくなって赤い顔を隠すように彼に抱きついた。

 これからは二人で一緒にいこうね、グルーシャ。

 世界が鮮やかに煌めきはじめた。



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