last one to lose





 上陸した途端、町のメインストリートから砂ぼこりを巻き上げて突進してきた。その先頭を走る青年は、シャンクスのよく知った顔だ。

「よう、エース。にぎやかだな……」
「シャンクス! ありがてぇ!」

 埃まみれのエースの顔がぱっと輝く。しかし彼の声をかき消すように、追いかける一団が叫んだ。

「食い逃げだ! 捕まえてくれ!」
「食い逃げか」

 シャンクスが呟いた。しかしエースはのんびり構えるシャンクスを軽々と飛び越し、彼の後ろに佇むベックマンの隣に着地した。

「ん?」

 シャンクスが首を傾げ、ベックマンは腕にしがみつく青年をまじまじと見下ろした。

「へへ、……助けて」

 ちょっと情けない笑顔で、エースは身を竦めた。ベックマンは口元を上げ、子供にするように彼の帽子に片手を乗せた。呆気にとられて佇む追手を親指で差し、クルーに合図する。

「……払ってやれ」

 あわてて財布の紐をほどくクルーの傍ら、エースがぺこっとお辞儀をした。

「ご馳走になります」
「お前、何でおれんとこ来ねェんだよ!」

 エースの背中に向かってシャンクスが叫んだ。エースが思い出したように振り向き、気軽に答えた。

「ああ、だってあんたか副船長かって言ったら、副船長だろ」
「!」

 エースはなんの気なしに返したが、思いがけず難しい顔をしたままシャンクスが黙りこんだ。もしかしたら傷ついたのかもしれない。
 しかしエースとしてはさっきは本当に、本能的に副船長のところに駆け込んでしまっただけなのだ。

 シャンクスの顔を見たエースは少しあわてて、無意識に帽子に手をあてた。

「いやぁ、悪気はねえけどよ。……あ、悪ィ」
「……」

 シャンクスは無言のまま、しかめっ面で踵を返した。『頭はすごく怒っているぞ』というオーラが彼の背中から発散されている。
 通行人は道を空けて路地裏に引っ込み、若いクルーは腰を抜かしてその場にへたりこんだ。

「……拗ねたか」
「!」

 ベックマンの呟きに、エースはびっくりして彼を見上げた。

「……」
「……」
「……ちっと、行ってきます」

 エースは駆け出し、シャンクスの肩を掴んで立ち止まらせた。驚いて目を丸くするのを無視して、彼にキスをする。

「……悪かったよ」

 少し顔を赤くして、怒ったような声でエースが言った。

 彼の顔を見つめたまま、シャンクスが彼の腰に腕を回した。エースがあわてて彼の肩を抑える。しかしシャンクスが強引に引き寄せ、もう一度深くキスをした。
 エースの目を覗きこみ、にやりと笑った。

「……おう、許してやる」
「!!」

 真っ赤になって絶句するエースを拘束したまま、シャンクスはベックマンを振り向いた。

「悪い、おれ用事が出来たから、ちょっと消える」

 ベックマンは腕組みをしてため息をついた。恨めしそうに自分を見つめるエースを見て、シャンクスがちょっと眉を上げる。

「文句あるか?」
「ねぇよ!」

 舌打ちでもしそうな低い声で、エースが返事をした。綺麗な赤い髪の下の飄々とした顔は、いたずらを成功させた少年のように笑いをこらえているようにも見える。

「嵌められた気がする……」

 おとなしくシャンクスについて行きながら、エースが呟いた。












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