「わぁーー········」

思わず見上げて声が漏れた。
ハッとして口に手を当て辺りを見渡したが、道行く人は何一つ気にせず歩いて行く。

凄く安易な反応だった。すぐに彼女がこの街の人間ではないとわかる。
気恥ずかしくなって苦笑いをした後、また上を見上げた。

世界屈指の魔晄都市ミッドガル。
八基の魔晄炉と賑やかな雑踏が彼女を迎えてくれた。

鞄から一通の手紙を取り出し中を開く。我が愛しき家族へ、と言う言葉から始まり、文字少なめにこう書いてあった。

聞いて驚け!俺はソルジャーになったんだぞ!すげぇだろ!
すぐにミッドガル中俺の噂で持ちきり!
そっちにも噂が広がるのも時間の問題だぜ!楽しみしとけよ!




殴り書きでかかれたその文字からわかる兄の嬉しそうな表情が。何度読み返しても思わず笑みが浮かんでしまう。

三年も前に家を飛び出して行った兄。唯一くれた手紙がこれだけだった。宛名もなければ住所もない。一方通行の手紙。これを手に彼女はここミッドガルへと計画もなくやってきたのだ。
親からの反対もあったが、何度もお願いをして一週間と言う約束で来ることを許された。

手掛かりはこの手紙の内容だけ。無謀ではあるが不思議と心は踊った。初めて見る都会、人、物全てが彼女の好奇心を擽った。
本当は兄に会いたいが、会えなくても家族へのお土産話は出来そうだなと思った。
横目で八番街と書かれた看板を横切り街中を弾むように歩いた。

そこで彼女はふと気付いた。母から言われた言葉、着いたらまずする事だ。ホテルを探しなさい。野宿なんて危ないからね?わかった?
そう言った両親の心配そうな顔が思い浮かんだ。

「そっか。まずホテルか」

言われた通りホテルを探そうとするが、ホテルと言われても彼女はどれがそれなのか検討もつかなかった。全てがそれに見えるし逆に全てが違うような気もする。自分の住んでいた所のホテルはもっと小さかった。それは当たり前か。こんな高い建物。あっても不自然だ。

キョロキョロと不自然に辺りを見渡して自分で探すのを諦めた彼女は人に聞くことを思い付いた。

彼女はそれほど気さくな人間では無かった。通りすぎて行く人達に話しかけようとしては無表情に自分には興味もなさそうな人達を見て言葉が詰まった。
誰か話しやすそうな人は居ないかと周りを見渡す。

すると丁度道の端に誰かを待っているのか携帯を弄りながら立っている女性が目に入った。


そこへ近付き話しかけようとした時だった。


「キャァァアアア!!!」

空気を裂くような悲鳴が響き渡り、それと同時に爆発音も轟いた。

「な!なに?!」

大きく跳ねた心臓を手で撫でながら辺りを見渡した。
爆発音が聞こえた方に目を向けると、そこには片方だけ羽を生やした人間が剣を持って街行く人達に襲いかかっている。
中には血を流して倒れてる人も居て、おそらく生きてはいないだろう。一気に血の気が引いて冷や汗が背中を伝う。心臓は落ち着く所か音が聞こえてくる位に激しく鼓動した。

そんな私を余所にいつの間に現れたのか、機銃を装備したでかいマシーン惜しみ無く弾を撃っている。

いよいよ体も震えてきて、頭が割れるように痛くなってきた彼女は痛みにその場に踞った。耳鳴りがしてもう何も考えられなくなってきた時、すぐ近くで短い悲鳴が鮮明に耳に入ってきた。
ガバりと顔を上げて見れば先程声をかけようといしていた女の人が羽の生えた人に襲われていた。
襲われて逃げようとしたが足が絡まりそのまま倒れてしまった所に敵が剣を振り下ろそうとしていた。

彼女は瞬間に駆け出した。もはや震えと頭の痛みはなくなっていた。


「ハァァァアアア!!!ヤァァアアア!!!!」

予想外の攻撃だったのか敵は避ける間もなく鳩尾にそれが直撃した。相当な強さの蹴りは相手をぶっ飛ばし壁に激突した。敵は気絶程度だがぐったりとして動かなくなった。
彼女はそれを観察して一つ息を吐いた。
そしてそのまま呆然と見つめていた女性の元へと向かって行き顔を心配そうに覗き込んだ。


「大丈夫ですか?!」

そこまで大きい声ではなかったが、女性はびくりと肩を跳ねさせて彼女を見た。
と同時に堰を切った様に泣き出してしまった。
彼女は泣き出した女性を見て慌てたが、すぐに冷静になり優しく声をかける。

「泣くのは無事に安全な所に着いた時にしましょう?今はまだ敵が居ますから。立てますか?」


私は女の人を無理やり立たせて背中を押す。
すると感じた後ろからの殺気に振り向く。

目の前に剣の先。私は冷静にそれをかわしてそのまま顔面めがけてパンチする。パンチ力は低いので怯ませる位にしかダメージを与えられない、だから次の一手、得意の回し蹴りを放つ。

壁に激突して、動かなくなった敵を一瞥し、辺りの様子を伺う

さっきの女の人はなんとか一人で逃げたみたい。

先程は居なかった神羅と書かれた制服を着た人達が懸命に戦っているのが見える。
中々にぼこぼこにされているけど。

更に辺りを見渡すと、逃げ遅れている人が多い。神羅の人達も戦闘の方に人手がいってるのか避難誘導の人数が明らかに足りてないようだ。

よし、じゃぁ私が避難誘導を手伝おうと考え、八番街を走り回った。




あらかた片付いてきて、敵の数も目に見えて減ってきた。


ふと噴水広場を見下ろと、なんだろあの人達·····。

神羅の服とは違うスーツ姿の人達が敵と戦っている。
後、その人達と話してるあの人·····ん?あれ?
え、うそ

「お兄ちゃん?!」

「·····は?···なっ!··なまえ??!!」

私の声に下に居た全員がこっちを見た。
お兄ちゃんは私の姿を見て口をあんぐりと開けて驚愕していた。

うんうん、期待した反応をありがとう。でも、今じゃないんだよなぁ。

アハハー、と手を振ってる私に、お兄ちゃんが何か言おうとしていた時だった。

ドガァアン、とデカイ音を立てて死角からあの大きなマシーンが私の後ろに現れた。

「げ、やば」

「なまえ!!!」

図体がデカイ割に俊敏な動きで腕に付いている銃口を此方に向けてそのまま撃ち込んでくる。

咄嗟に私はそれをかわし·····いや、ちょっと頬をかすった。

気にせずに足を踏ん張り低い姿勢で走りだす。

マシーンの懐に潜り込んだ私はマシーンの腕を蹴りあげる。バキッと音を立てて腕が外れた。
よし、と思った次の瞬間鳩尾に強い衝撃が加わり体が宙を舞った。

な、何が·····

激痛に耐えながら見てみればあのマシーンが回転して私の鳩尾に折れていない方の腕をぶつけてきたと理解する。

宙を舞った私の体はそのまま噴水広場の方へ落ちていく。

遠くでお兄ちゃんの声が聞こえる。·····着·····地しなくちゃ!!

綺麗に着地は無理なので致命傷を避けるために頭を守る。

しかし私の体は地面にぶつかる前に誰かに受け止められた。


「よっと·····大丈夫か、と」

「っつ·····すいません。ありがとうございます·····」

謝りながらまだ焦点の合わない目で助けてくれた
人の方へ目を向ける。
最初に見えたのは燃えるような赤髪。
次いで端正な顔立ちにアクアブルーの瞳。

瞳に私の顔が映し出されている。
ち·····近い·····!!

「ひぇ·····!!!··きゃ!!!!」

気恥ずかしさで咄嗟に仰け反った。
しかしそのせいで抱えられていた腕から滑り落ちた。

結局打ち付けた背中がとても痛い。

「あー·····わりぃわりぃ。でもいきなり仰け反ったあんたも悪いぞ、と。」

ポリポリ頭をかきながら気だるげに彼はしゃがみこんで私の頬をつついてきた。
何故つつく。
そんな中、彼越しに上の方で爆発音がなった。ちょうどお兄ちゃんがあのマシーンを倒したみたいだ。

「·····立てるか?」

赤髪の彼とは違った低い声が聞こえた。
そちらを見るとスキンヘッドにサングラスをした厳つめのお兄さんが私に手を差し伸べていた。

「ルードやっさしー」

私の隣で可笑しそうに笑う赤髪のお兄さん。それを聞いてルードと呼ばれた厳つめのお兄さんは逆の手でサングラスをあげながらふっ、と笑った。

なんか仲良いなこの人達。
私はルードさんに手を借りて立ち上がりお礼を述べた。

言われた本人はあぁ、と一言喋っただけで黙ってしまった。
無口なんかな?

「なまえ!!!!」

「あ、お兄ちゃん」

呼ばれて振り向くと凄い勢いで近付いてきたお兄ちゃんは私の前まで来ると顔を真っ青にした。

「お··ま··え·····!!!怪我してるだろ!!!」
「え?う、うん」
「くそ、可愛い顔が台無しだぞ全く。後どこだ?鳩尾やられてただろ?!痛くないか?いや痛いだろ?なんで無理するんだよ!くそ!あーー·····違う違う怒りたいんじゃないだ。·····とにかく!!!!」

マシンガンに心配されて呆然としていたら、ガシィと両肩と捕まれた。

そのまま優しく抱き締められ、耳元で無事でよかったぁぁ、と優しく言われた。

ふわり、と香ったそれがちゃんとお兄ちゃんの物で、くすぐったい気持ちになり笑みが零れた。

「ちょっと痛いけど···大丈夫だよ!ありがとうお兄ちゃん!」

「おー。本当のなまえだなぁ。」

抱き締めながらポンポン頭を撫でてくれるお兄ちゃん。凄く嬉しいけど段々恥ずかしくなってくる。

いや、ほら周り見てよ。

ルードさんとあの奥の長髪を一つで括ってる整った顔のお兄さんは目反らしてくれてるけど、茶髪の綺麗なお姉さんはくすくす笑ってるし、赤髪のお兄さんはドン引きしてるよ?
赤髪のお兄さんと思い切り目があって、気まずさで顔がひきつってしまった。

「お兄ちゃん!ちょっと恥ずかしい!」

「何でだよ!久し振りに会ったんだからいいだろーが!妹に振られるとか俺、悲しいわー」

「そーゆーのは家族水入らずですればいいでしょ!?私だってお兄ちゃんに会えて超嬉しいんだからね!」

「お、···おう!そうか。」

お兄ちゃんはまた笑って私の頭をポンポン撫でた。

すると、空気を読んでいた長髪のお兄さんがルードさんと赤髪のお兄さんに指示をする。その二人は各々返事をして一番魔晄炉駅の方へと向かう。

去り際に赤髪のお兄さんとまた目があった。お兄さんはニヤリと楽しそうに笑った。

「じゃーな。なまえちゃん」

ヒラヒラと手を振ってそのまま階段を上って行ってしまった。

不覚にもかっけぇー、と思った。

「おーい。なまえー」

「え?ん?どしたのお兄ちゃん」

なんか不機嫌そう?!

「ふーん。へー。なまえはあーゆーのが好みなのかー。ふーんふーーーーん。お兄ちゃんは許せないなー」

「はぁ?何言ってんの?」

勝手に変な方向に考えて不機嫌になってるお兄ちゃんに呆れてしまう。


「話してる所悪いがザックス任務中じゃないのか?」

「それになまえちゃん?怪我大丈夫?跡になる前に医者に見てもらった方がいいんじゃない?」

近付いて私の様子を伺うお兄さんとお姉さん。

私とお兄ちゃんは二人の正論に顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。

そしてお兄ちゃんは長髪のお兄さんに俺の目的はあんた達と同じだから、ここ手伝おうか?と聞いていたが
お兄さんは私の方を向いて妹さんはどうするんだ、と言った。

「え?あ、私?」

いきなり会話の中心になってどもってしまった。

そんな私の隣でおっと、そうだった。と声を発したお兄ちゃんは手伝う前に私を医者連れて行ってくる、と言った。

「え、いいの?」

「ったりまえだろうが。ほら行くぞ」

そう言ってお兄さんは手を出してきた。
··········は?···繋げと?!

「··············お兄ちゃん·····」

「なんだよ!昔はいつも繋いでただろーが」
「それは昔でしょ?!」
「文句言わずに行くぞ!!!」

お兄ちゃんは無理やりに私の手を引いて歩き出す。

歩きながらスーツ軍団の二人の方に顔だけを向けて話しかけた。

「すぐ手伝いに来るから!!!」

「ありがたい申し出だが·····「あら、心強いじゃない。じゃぁ、ザックス。あとでね」

「おー!!!」

お兄さんの言葉を遮った美人のお姉さんは手を振りながらウインクをくれた。
ヤバい超美しいんですけど!!!!

この黒スーツ集団は美男美女ばかりなの?!

お兄ちゃんを見れば満更じゃなさそうに鼻の下が伸びてる気がする。

じとり、と見ていたら焦ったようになんだよって言われた。
別にー。美人だもんねーあのお姉さんーねー?

お兄ちゃんは罰が悪そうに頭をかいた。

「そういえばお前、いつこっちに来たんだよ」

「今日」

「今日?!」

「ほんと凄いよね。母さんと父さんから一週間限定でミッドガルに行ってもいいって言われて。お兄ちゃんにその間に会えればいいな、って軽い気持ちで居たからまさか来てすぐに会えるなんてさ!嬉しいね!」

「お、おう。そうだな!なんだよそれなら手紙寄越してくれれば迎えでも何でもしたのに」

「宛先!書いてなかったじゃん」

「え、まじ?あー、なんかそんな気がする·····。悪い!」

「別にー。お兄ちゃんのその詰めが甘い所分かってたし。会えたからいいよ!そのかわり仕事無い日でいいからミッドガル案内して欲しいな!」

「詰めが甘いは余計だろ…。ったく、ミッドガルの案内位いつでもしてやるよ。今日は無理だけど……てかお前携帯持ってるか?」

「あるある」

「よし、じゃぁ登録するぞ」

そう言って繋いでいた手を離し、手渡した私の携帯を弄り始める。

空いた手から温もりが無くなって少しさみしい気がした。

お兄ちゃんはすぐに私の携帯に自分の番号を登録すると携帯を私に渡し、当たり前のようにまた手を繋いだ。

何かそれが可笑しくて密かに笑ってしまった。

「そういえばどこ向かってるの?」

「ん?会社の医療室だけどってあ、やっべ。会社も今襲われてんだった。」

「え、そうなの?てか、あれなんなの?神羅カンパニーも襲われてるって日常茶飯事なの?」

「いや、日常茶飯事ではない。まぁ説明してやりたいんだが·····ぶっちゃけ俺にも分からん。分かる範囲で教えてやりたいが今は無理だ。後で必ず教えるから今は聞かないでくれ!頼む」

「う·····うん。そ、そっか。分かったよ」

凄い勢いで言われた私は押し負けて頷いた。

その返事を聞いてお兄ちゃんはありがとな、とお礼を言った後どこかに電話をし始めた。

途中私が何処に泊まるのかを聞いてきたので、七番街のビジネスホテルだよ。と教えた。

するとまたしばらく喋った後電話を切り、予約を取ったホテルへ行くことになった。

ここからだと歩いて10分位で着く場所にあるので案の定すぐに目的地に到着した。

「じゃぁいいかなまえ」

「う?うん」

「今からここに医者が来るから部屋で待ってるんだぞ。」

「え、そうなの?わざわざこんな怪我の為に·····」

「バカ。医者は患者を診るのが仕事なんだよ。存分に診て貰えよ!いいな」
「う、うん。分かった。あ、お金はどうすればいいの?」

「は?そんなの俺のつけにしてるから気にすんな。いいな!」

「お兄ちゃん·····何から何までありがとう」

「おう!じゃぁ悪いが俺、任務中だから行くな?また後で絶対連絡するから!」

「わかった。待ってるね」

お兄ちゃんはもう一回大きく頷いて走って行ってしまった。

なんだかあっという間だったその時間に現実だよな?なんてどこかほわほわした気持ちになった。

でもまだじんわりと痛む鳩尾に気分が落ち込んだ。

そのまま私はホテルへと入り医者を待つことにした。

割りとすぐに先生は来て(ちゃんと女の先生だった。)診てくれた。

頬の方はほんとにただの擦り傷で薬を塗ればすぐに治る物だったけど。鳩尾の方はもしかしたらあばら骨折れてるかもしれないと言われて明日にでも精密検査を受ける事になった。

それまでは絶対安静と言われ、ポーションを渡された。

先生が帰った後は、さっとシャワーを浴びて(ちゃんと先生に許可貰った)ベットに入る。

目を閉じて今日の事を考えたらちょっと色々ありすぎてパンクしそうになった。

それに相当疲れていたのかすぐに意識が遠のいていく


明日はちゃんとお兄ちゃんとお話しできるかなぁ、と明日への期待を胸に完全に眠りについた。











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