レノが帰ってきたのは、もう結構な遅い時間だった。
その姿を見たルードは驚いた。

「どうした…」
「聞くな相棒。俺はもう疲れた。」

あまり汚すことの無いスーツはボロボロで、そしていつも以上にくたびれた顔をしたレノは真っすぐにソファーへと向かいそのまま倒れこんでしまった。
微かにかおったアルコールの匂いに今日の任務の内容的におかしいと感じたが、当の本人は倒れこんだまま動かない。本格的にどうしたんだあいつは。
黙って様子を見ていたらソファーにうつ伏せたまま、くぐもった声でレノは言った。

「仕事がしづれぇぞ、と」
「····監視に徹底するんじゃなかったのか」
「あいつ、よく今まで生きてこれたな」
「····言いたい事はなんとなくわかるぞ」
「ツォンさんの気持ちがほんの少しだけわかったぞ、と」
「······それは大変だな。明日代わってやろうか」
「·········いらねぇよ。つーか、明日おまえかよ。·······ったく、仕事してから行く」
「なんだ、結局行くのか。会いに」
「······もう喋んな」
「お前から喋っただろ」

ルードが言った言葉には返さずにレノはもう黙ってしまった。
その後に来たツォンやシスネにもつっこまれたが、無視を貫いたのであった。










時は戻って朝。
スラム街の外れ、ごみ捨て場に指定されたそこから更に奥へ行った所。彼、レノは何度目かの溜め息を吐き、コンテナの隙間から様子を伺った。




昨日の朝早くに上から下された命令。ザックスの妹でもあるなまえ・フェアの監視。及びソルジャーへの勧誘。
神羅ビルで採った精密検査の結果に上が目をつけたのである。
しかし、ソルジャーとして、大いに活躍をしているザックスが居る手前。強行は難しく、あくまで勧誘に留まっている。
昨日の段階でシスネが勧誘をしてみたが、ザックスもなまえも受ける気はない事が報告されている。
心配していた事が現実になり、監視対象となった以上、出来るだけ接触は避けようと考えたレノは一先ず監視に徹底しようとシスネから引き継ぎ、一人朝から張り込んだ。

しばらくするとホテルから出てきたなまえはそそくさと電車に乗り込みスラム街へと向かう。

ワクワクと言う効果音が付きそうな位に足取りの軽い彼女はスラム街の住人に片っ端から声を掛けていたのだが、全然相手にされていなかった。
やっと、相手にしてくれた男から何か依頼を受けていたのだが。それもからかわれているものだと遠目で見て分かるものだった。しかし、なまえはそれを快諾し、早速向かおうとした。
その途中で子供に持ち物を盗まれたり、買物は売って貰えても2倍以上の価格にされたりとスラムの洗礼を受けていた。
しかし、彼女は特に気にすることは無く、買い物も盗られた物も取り返すことも諦めたのであった。

たまたまなまえから奪った物を店に売り付けている子供を目撃したレノは子供が去った後、その物を確認して呆れた。
店主を脅してそれを取り返し、どのタイミングで渡そうか考えながらなまえの監視を続ける。


スラムのごみ捨て場は誰も近寄らない分、奥の方はモンスターがうようよといる。
意気揚々と進むなまえはそれを片ずけながら奥へ奥へと進んでいるのだが、レノは気が気ではなかった。
ザックスの妹で、戦闘のセンスがあると言っても所詮実践馴れしていない一般人である。
モンスターの攻撃は食らうし、苦戦はしている。更に言えばなまえはスラム街でアイテムを買っていない。つまり回復アイテムもほぼない。
かいふくマテリアも持っていない。
至る所傷だらけになっていくのを見ると思わず手を貸したくなるがタイミングがいまいち掴めない。下手に手助けをして監視を悟られるのは避けたい。なまえ位なら上手く言い訳を作って誤魔化せそうだが念には念をと言う事だ。
こんな事ならはじめの内に偶然装って付いていきゃぁ良かったな、と後悔はしていた。


目的の場所に付いた時にはなまえはボロボロで、完全に帰りの事を考えていないな、と思いまた溜め息が出た。


目的の場所には不自然に出来た洞穴があり、なまえはその中の様子を伺いながら頭を抱えた。
しばらく考えた後、ポケットから携帯を取り出しまた頭を抱えた。

ようやく誰かに助けを求めるのかと思い、一先ず安心した矢先だった。
レノのポケットの携帯が震えたのだ。
咄嗟に彼は心の中で突っ込んだ。
俺かよ。と

出るか悩んでる間に携帯は鳴るのをやめた。
そんなに悩んでいた覚えはない。なまえがすぐ切ったのだ。
様子を見てみれば、なまえはあろうことかマテリアのセットを始めた。

いやいや、ちょっと待て。うそだろ。
レノは驚き急いで電話をかける。


何コールか目で出たなまえの声は遠慮がちに小さめだった。

「あ、レノ?ごめんね急に電話して」
「···どうした。何かあったのか?」
「いや。あのさ···今時間ある?無理ならいいんだけど····」
「あるなら電話しねぇぞ、と」
「そ、そっか。いや、あのね?今スラム街に居るんだけど····ちょっと助けて欲しいってゆーか····いや、あのさ、ちょっとスラム街ってゆーかスラムの外れのごみ捨て場に居るんだけど····」
「知ってる」
「え?!な、なんで?!」
「····なまえちゃんさっき見たからな。何しに行くんだろうな、とは思ったけど、と」
「え、そうだったの?!気付かなかった····」
「取り敢えずそっち向かうから、そこから動くんじゃねぇぞ」
「あ、うん、ありがとう。待ってる!結構奥にいるからモンスターも多くて····気を付けてね」
「そーゆー所に、何でいるんだよ、と」
「後で説明するから!よろしくね。じゃぁ」

電話を切った後、頃合いを見て出ていこうと彼女の様子を伺う。
しかし彼女を見たレノは目を逸らし、そのままコンテナに背中を預け、脱力し座り込んだ。







「····ったく····そんなに嬉しいかよ、と」


なまえは、ほんのりと顔を赤らめながら、嬉しそうに携帯を握りしめていたのであった。





















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