次の日、朝早くに訪問があった。
ソルジャーの人で、名前はカンセルさん。
カンセルさんは昨日の内にお兄ちゃんから私の様子を見て欲しいと頼まれていたらしい。
昨日の今日なのでソルジャーさんが私なんかに構ってていいのか疑問だったけどカンセルさんはこれも仕事だから気にしないでって優しく言ってくれた。
お昼位に精密検査の為、神羅ビルに行かなきゃいけないのだが、それもカンセルさんが快く連れていくと言ってくれたので、この人はとんでもなくいい人だと私の中で位置付けた。
それまでは他愛のない話で意外にも盛り上がった。お兄ちゃんの話や、カンセルさんが情報通で饒舌なのでミッドガル情報を沢山仕入れることができた。
早く観光したいなぁ。
あっという間に時間が過ぎて、カンセルさんに連れられて神羅ビルへとやってきた。
受付で名前を告げると38階へと通された。
名残惜しいがカンセルさんはここでお別れみたいなので、メルアドを交換して別れた。
58階の医務室に入ると昨日の女の先生が私を待っていた。
昨日の怪我した所を二人で見てみたが意外にも青みは引いてきていたので、跡残らないかもね、と二人で笑った。
「骨の方も大丈夫みたい。お嬢ちゃん頑丈ねぇ」
「あはは、田舎の人間なめたら駄目ですよ!そんな柔な身体してたら生きていけませんからね!」
私が元気アピールをすると先生は、でも無理はしちゃだめよ?と黒い笑顔で言われた。まじで恐怖なので無理しないようにしよう。と心に決めた。
それにしても……
「お兄ちゃんから連絡こないなぁ……」
医務室から出て携帯を開いたがお兄ちゃんからの連絡は来ていない。
まぁ昨日の騒動結構大事だし、この神羅ビルもさっき見たけど至る所ボロボロになっていて大変だったのが伝わってくる。忙しいんだろう。もうちょと連絡を待ってみることにして。
これからどうしようか考えていた時だった。
なにやらビル内が騒がしい。
何か嫌な予感がする。
一抹の不安を抱えながらエレベーターの方に行く。
「どうしたんですか?」
人だかりの中で一番近くにいた人に話しかけた。
「え?あぁ、何か上の方で昨日のと同じ奴らが襲撃してきたみたいだよ?」
まじでか
何なの神羅ビル!警備薄くない!?
と言うかここも危ないんじゃぁ・・・・
うわぁ、駄目だよ。そんなフラグたてちゃぁ・・・
その瞬間ガシャン!とガラスの割れる音と、羽音と神羅ビルの社員さん達の声が混ざり合って耳に届いた。
私はそんな中、一人悪態をつき、冷静に状況を見た。
昨日と同じ羽人間。数は多くない3体か。
まとめてこられると厄介だな。
さっき話した彼は腰を抜かしたみたいで私の横で倒れこんでいる。
他にも何人か腰を抜かしている人が沢山いた。
取りあえず、敵の注意をこちらに向けないと皆危ない。
私は一番近くにいた羽人間に向かって攻撃をしかける。昨日と同じなら体は脆いはず。
最初の一撃は剣で受け止められたが懐に入り全身全霊の蹴りを食らわせた。
ちゃんと倒れるのを確認することなく次の敵が2体こちらに向かってるのが見えた。
2体はきついから・・
カバンからあるものを取り出し一体に投げつける。
ボムのかけら。
威力は弱いがひるませることには成功した。
ひるんでいる間に一体を片付ける。
ひるんでいた方に対峙しようとした時だった。
「!?・・きゃ!!!」
いきなりの浮遊感、ものすごいきなりで驚いたが一体目が仕留めきれていなかったらしく、そいつに掴まれたのだ。
声を上げる前にものすごい勢いでビルの外へ飛び出る。
そして、そのまま上へと向かっていく。
もしかして落とされる!?
下をみて唖然とするこんなんどうやっても死ぬ。
体が一気に冷えて恐怖で震えた。
その時、私の近くを炎の塊が通過しそのまま掴んでいた羽人間に直撃する。
え、うそ。
途端に先程とは比べ物にならない程の浮遊感。私死ぬこれ。
諦めかけた時。
ガシィ
「!!」
腕が誰かにつかまれる、確認する前に声が降ってきた。
「ルード!!早く引き上げてくれ!!いってぇぇ…脇腹打ったぞ、と」
この声…ルードって
聞き覚えがありすぎる声に掴まれた腕の方を見ると体が宙に浮いている赤髪のお兄さん。昨日助けてくれたあのスーツのお兄さんだった。私を掴んでない方の手にロープを巻いて握りしめている。そのロープの先ではルードさんが懸命にロープを引いている。
もしかして命がけで助けてくれた…??
「腕、掴まれ!」
「は…はい…!!」
絶対に離さないようにお兄さんの腕を握りしめた。
それを見てお兄さんはに、と笑った。
状況が状況なんですが、またしても不覚。ときめいた。
何とか助かった私は、地面がある現実に案著した。そして赤髪のお兄さんとルードさんに猛烈な感謝を述べる。
「ありがとうございます。ほんと感謝してもしきれないです。」
安心しすぎて生理的に涙出てきた。震えも出てきた。二人はそんな私を見てぎょ、としていた。
取り敢えず涙を拭こうと服の裾で拭こうとしたら赤髪のお兄さんに止められた。
「おいおい、そんなんしたら顔傷つくぞ、と」
「大丈夫ですよ。傷なんてしょっちゅう作ってますから」
「はぁ。馬鹿だこいつ。おいルード。ハンカチあるだろ?」
「ば……。いや、ほんと大丈夫ですって……」
「あ??こんだけ震えている奴のどこが大丈夫なんだ?ん??」
「う……すいません…」
睨まれて、しかも正論過ぎて言葉に詰まり謝った。そんな私を見ていたルードさんは赤髪のお兄さんを諫めた後、胸ポケットからハンカチを取り出すと私に差し出してきた。
ルードさんの一連の行動がスマート過ぎて、見惚れて反応が遅れてしまった。
そしたら赤髪のお兄さんが、ルードあめぇな。と言ってルードさんからハンカチを奪うと私の前まで来てしゃがむ。目線があっていたずらっぽく笑うと私の涙を優しく拭いてくれた。
「……あ…ありがとうございます…?」
なんだか懐かしい気がして、何だろうと思ったら昔の記憶。お兄ちゃんにもしてもらった。思わず笑みが浮かぶ。
そしたら何を思ったのかお兄さんが私を抱きしめ頭をポンポンしてきた。
「な……ななななななにしてるんですか!!!???」
「お兄ちゃんって言ってもいいぞ、と」
耳元でクスクス笑うお兄さん。あんた昨日のお兄ちゃんの真似してからかってるだろ!!
昨日あんだけドン引きしてたじゃないか!!
「結構です!!!」
恥ずかしくて叫びながらお兄さんを押し返す。
するとすんなりと離れてくれたお兄さんに安心する。
赤髪のお兄さんはと言えばルードさんに向かってこれぐらいしてやらないと、なんて言ってる。
ルードさん呆れてるよ!!
私が二人を見ていたらルードさんがこちらを見てサングラス越しに目が合った気がした。
「だいぶ。落ち着いたみたいだな」
「え??」
確かにもう震えも涙も止まっていた。
もしかしてこの為に?さっきから気の利いた行動一つ一つに惚れ惚れする。
もう一つお礼を言うとルードさんが微笑んだ。わ、笑った!!!
「つーか、なんであんたここにいんだよ?ほんと、窓の外見てビビったぞ、と」
どんだけ空飛びたいんだよ、と付け加えられてそう言えば昨日もぶっ飛ばされた所受け止められたのを思い出し苦笑いをする。
「たまたまです。昨日のケガの精密検査でここに来てたんです」
「あーなるほどなるほど……と、その前にお客さんだ」
「え??」
とてもめんどくさそうに赤髪のお兄さんが言うと、バサッと音をたてて5体の羽人間が現れた。あ、さっきの仕留め損ねた2体も居る!!
なんとか立ち上がろうとしたら、ぽん。と頭の上に手を置かれた。
え。と顔をあげようとしたが途端にガシガシと荒くなでられる。
「な!なにする……」
んですか!?と言う言葉をさえぎられた。
「後は俺らに任せろよ、と。なまえちゃんは休んどけ、いいな」
「え」
やっと重力がなくなって見上げれば、顔は見えず、後ろ姿だけ見えた。お兄さんはロッドを弄りながらゆっくりルードさんの方へ歩いていく。ルードさんは手袋をきちんとはめなおし敵に対峙している。
なんだろう。すごく……すっごくかっこいい!!!戦う男!かっこいい!!!
二人並んだと同時に5体が二人に向かってくる。
それを見て赤髪のお兄さんがニヤリ。と口角をあげて言った。
「楽しもうぜ!相棒!!」
なんて、言ってたけど楽しむまでもなく正に瞬殺。
てか、強すぎ!!!赤髪のお兄さんの素早さとルードさんの力強さ。そして二人の息のあったコンビネーション。
凄すぎて、唖然。私なんか居なくて全然良かったわ。
なんか、見れば見る程に魅入ってしまう赤髪のお兄さんは、やっぱりちょっとだるそうにあー、よえー。なんて言いながらルードさんにちょっかいを出していた。
「立てるか」
「なんだか既視感だぞ、と」
既視感と言うか、昨日と全く一緒。
ルードさんに手を伸ばされている。
私はなんとかルードさんの手を借りて今回も立ち上がる事が出来た。
でも、まだ少しふらふらしてる。やっぱり九死に一生を経た私の体はすぐに回復してくれてない。
「なーんか、危なっかしいぞ、と」
「大丈夫か?」
そんな私を心配してくる二人。
なんとか?と疑問符をつけて返すと赤髪のお兄さんに呆れられた。
「そういや、お兄ちゃんはどうしたんだ?昨日は一緒だったのに妹のピンチには不在かよ、と」
「ち!違うくはないけど…。任務中だから…多分…また連絡するって言ってたし…」
ポケットから出した携帯には相変わらず連絡は来ていなかった。
思わずため息が出た。
赤髪のお兄さんはふーん。と無感情に言うと続けて言った。
「まぁ、この状況だしなぁ。ソルジャーは皆、上に招集されてたし、上で戦ってんだろ。まさか可愛い可愛い妹が巻き込まれてるとは思わねぇだろうしな、と」
ん?
感情は相変わらず読めないけどお兄さんなりにフォローしてくれてる?
てか…
「上で戦ってるんですか!?だ…大丈夫かな…」
「心配する必要はないだろう。」
「なんたって、ソルジャー様だからなぁ、
俺達なんかよりずーっと強いぞ、と」
「お兄さん達よりずっと…」
あれより強いの?!ソルジャーって凄い…!!!
「ん?あー……あぁ!」
「?」
私の呟きに赤髪のお兄さんは不思議そうな顔で見た後、何かを考えはじめて、一人で何かを納得していた。
その一連の行動が可愛いな。と思いながらなんの事か分からない私とルードさんは目を合わせた後お兄さんを見た。
そしたらお兄さんは結構私の近くまで来て、自分を指差した。
「俺、レノ」
「え?」
「なーまーえ。言ってなかったな、と」
「…あぁ!!!」
いきなりなんだと言う事と、距離が近いことに頭が回らなかったが、自己紹介してくれたと言う事に遅れて気づく。
ほんとだ。名前知らなかった。
「あっちはルード。分かったか、なまえちゃん?」
「はい!レノさんとルードさんですね!私も自己紹介した覚えはないので一応言いますがお兄ちゃんことザックスの妹のなまえです!いつもザックスがお世話になってます!」
ぺこりと二人に頭を下げると、知ってるぞ、とレノさんが笑った。ルードさんも微笑んで、世話にはなってない気がするがな。なんて言ってた。そうなの?
「さ、やっと名前を知り合った所でどうしますか、と」
「私…なんだかここに居ても迷惑そうだし帰ります」
「…一人で帰るのか?」
「え?あ、はい。」
途端に二人に溜め息をつかれた。
え、なんで
「……レノ、送っていってやれ。それまでは俺がやっておく」
「おー、まじか。じゃぁよろしくな相棒」
何だが二人で話が進んでるけど、レノさん送っていってくれるって言った?
「え、お仕事は?!別に私大丈夫ですよ?!ほら、強いの知ってますよね?!」
「は?確かに男顔負けの蹴り入れてたけど、お前。また死にたいの?次は助けてやれるかわからねぇぞ、と」
物凄い不機嫌な顔で睨まれて返す言葉もございません。
「すいません。よろしくお願いします」
「よし、きた」
私の返事を聞いてニヤリ、とレノさんが笑った。表情が豊かすぎ。どれもこれも素敵なんだけど。
「じゃぁ、どうする?」
「え?」
「え?てお前。ふらふらしてんだろ?抱いてやろうか?」
ニヤリ、と笑ったレノさん。一瞬何を言われたか分からなかったが、段々と理解して思わず叫んでしまった。
「大丈夫です!!」
「えー?ほんとかよー。てかなまえちゃん顔真っ赤。なに想像したんだよ、と」
「う、うるさいですよ!!もう!置いていきます!!」
「おー。ちゃんと歩けてる歩けてる。」
ゲラゲラ笑うレノさんをもう無視してエレベーターへと向かった。
てか、ここ45階なんか····だいぶ上まで来てたんだな。
ほんと生きてて良かった。
色々疲れて、一人、気付かれないように溜め息を吐いた。
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