手持ち無沙汰で暇だった私の手は目の前に座る幼馴染みのサングラスを取り上げた。
外されたサングラスから見えた目は驚いていてそれが可笑しくて笑みが溢れた。


「··········返してくれ」

驚きが困惑に変わって私を見ていた。
私はと言えばえー、どうしようかなぁー。なんて言ってサングラスをくるくる回してみる。

幼馴染みである彼、ルードは最早諦めたようにため息をついた後、懐から新しいサングラスを取り出してそれをかけた。
うそでしょ。

「何個持ってんのよ。どういう仕組み?」

ちょっと驚いたけどなんだかそれが用意周到な彼らしくてまた笑った。

私の手で弄られていたサングラスはどうしようかな、て思ったけど沢山あるならいいよね。

「じゃぁこれ、貰っちゃうね。どう?似合う?」

ふふ、と笑ってルードのサングラスをかけてみた。暗くなった景色にルードの表情も見にくくなってそれは嫌だなと思って頭にかけることにした。
そんな一連の私の行動にあー、だのうー、だの言って結局なにも言わないルード。
ほんと昔から変わらなすぎて笑いが止まらない。


「·····笑いすぎだぞ·····」


「あはは·····ごめんごめん!だって、もう、ルード可愛すぎでしょ!」


「··········かわいい·····」


不満そうに口をへの字にしたルード。なんなのその可愛さ。


「ほんと、全然変わんないねルード」


頭はスキンヘッドだし、サングラスだし、めっちゃピアスしてるしで外見はめっちゃ変わったけど。


「·····変わってないか?」


「ん?うん、いや、外見は凄く変わってて初めは分かんなかったけど·····なんだろ?纏ってる雰囲気とか手癖とか細かい所は全然」


「·····そうか·····。よく·····見ていたんだな」


「え?まぁそうだね。昔はよく遊んでたし。それに·····」

好きだったし。
昔は私は物凄く好奇心旺盛で冒険が好きだったからよく出掛けては怪我をしていた。それを見兼ねたルードはよく怪我の手当てをしてくれたり自分を犠牲にしてまで私を沢山助けてくれたりした。
優しくて、暖かいそんな彼が私は大好きだった。
だから突然都会に行くなんて一言だけ残していなくなった彼を私はどれだけ探した事か。
ミッドガルで仕事探してやっとの事で余裕ができたから情報収集してやっと見つけたらもう10年も経っていた。
彼がかの有名なタークスに所属していなければもっと時間かかっていただろうな。
別に他の恋に行っても良かったし、探す必要なんて無かったのかも知れない、もう好きかと聞かれれば分からない。これは半ば意地だ。意地で結婚適齢期を逃すのもどうかと思うけど。
ただ、久し振りでさっきあったばかりなのにドキドキしてるこの気持ちはどういう物なんだろう。これもまだ分からない。


「·····お前は。なんでここにきたんだ」


「え?何でって··········あはは、何ででしょ?」



「·····跡継ぎはどうしたんだ」



誤魔化すつもり満々で居たのに核心を付かれてう、と言葉に詰まった。
どうしようかな、本当は今日言うつもりないんだけどな、って思ってルードを見ると有無を言わせない圧力でこちらを見ている。なんだその圧力はいつの間に身につけた。
私は苦笑いを浮かべた。


「あー·····ちょっと。あんまり気軽に話すことじゃないんだけど·····」

「·····気軽に聞くつもりはない。」

どっしり構えて真剣にこちらを見るルードにもう言わないと言う選択はないようだった。

「じゃぁあのね?聞いてくれる?実はね·····」

私の家無くなっちゃったの。火事で
そう言ったらルードの表情が固くなった気がした。
そのまま私は机の上のレモンティーのストローに口をつけながら続けた。

「ルード居なくなってすぐに家族間で揉めてさ。私が跡継ぎになるの認めてくれなかった従兄弟家族が家に火放ってさ。
その日私。家こっそり抜け出しててビックリしたよ。帰ったら家無いんだもん」


私は所謂箱入り娘。お嬢様なんて言われる立ち位置だった。だけど、縛られるのが嫌いで落ち着きの無かった私にとっては苦痛そのもので、毎日の様に家を抜け出しては街を散歩したり、近くの森まで行ったりしていた。ルードに出会ったのもその延長で、出会った後は気付けばずーっと一緒に居た。
ルードが居なくなってしまってもそれは変わらなくてそのおかげで今私はここにいる。


「·····なまえ·····」



「近所の人にはさ、もうここには帰ってこない方が良いって言われて。ほら従兄弟に見つかったら私消されちゃう」


冗談っぽく言ってみる。実際どうなんだろ?もう10年も経ってるし、私一人無理に消されるって事はないかも?
でも。ほんとに消されたらどうしよ。
続く言葉が思い付かなくて沈黙が流れる。
·····お、重い!!

「ごめんルード。こんな話したの失敗。私····「なまえ」ん?」

私の言葉を遮って私の名前を呼んだルードの声は、昔と変わらずに優しく柔らかい声で驚いた。

「·····すまない」

「なんで謝るのよ」

「·····お前を·····俺は·····」

「ルード?」


ルードは言葉にしようか迷ってるように口をしばらく動かした。
黙って見つめていたら意を決したようにサングラス越しに私を真っ直ぐに見つめて言った。


「俺は·····お前から逃げた」

「·····え、そうなの?」

「なまえは令嬢だった。俺とは身分が違った」

「あー、、まぁそうだったね。」

「·····今さら無責任だが·····」

「·····ルード」

「·····肝心な時に守れなくてすまない·····」

「····もういいよ。謝って欲しくて言った訳じゃないし」

「·····なまえ」

「ん?何?」

「·····なんで会いに来たんだ·····俺は·····なまえ、お前と話す権利などない·····」


「権利ってあんた·····」

何を言ってるんだこいつは。全く的外れな言葉に呆れた。なんか自分の気持ちを黙ってるのが馬鹿馬鹿しく感じた。
だから、ぐい、とルードに近付いて凄んで言ってやった。


「私がね!会いたかったの!
家族も友達も居ないのよ?立ち止まって考えたらさ。私にはルードしか居なかったの!頼れる人が!」

「·····な··············」

「ここまで生きて来れたのだってルードを絶対探してやるってそんなストーカーみたいで気持ち悪い理由があったから来れたの!」

「き····、··············おい。ちょ、」

「なのに会って話す権利ない、とか逃げた、とかちょっと酷くない?」

「え、いや·····」

「私はもう一般人でそんな一般人が天下の神羅カンパニーのタークスに所属してるルード様に恋い焦がれてるんですけど」
「!!·····な·····なまえ!」
「あーあ、すっかり立場逆転だね。これじゃぁ私の方が権利ないよね?」

そうやってニヤリ、と笑ったらルードは観念した様に頭を抱えてかぶりを振った後ため息をついた。

「かなわんな·····昔から」

そう言って微笑んだ。
やっと、笑ってくれた。不覚にもドキッと、胸が高鳴った。私まだちゃんとルードの事好きなんだな。

私はこほん、と一つ咳払いをした。サングラスで見えない奥の瞳を見つめて笑顔で言った。


「ね、もう一度友達になってくれますか?ルード様」



「様はやめてくれ。
·········友達の件は····喜んで受けよう」

そっぽを向いて小さく答えたルードのお耳が赤く染まっていて本当に可愛い。可愛いおじさんってどうなんだと思うけど。
そんな可愛いルードの一面をみれて
ルードと出会うことができて
意地張って10年待ったかいがあるかも知れない。とこれからを想像して心が暖かくなった。









(·····家族の件、どこまで本当なんだ?)
(··········え?嘘だと思ったの?全部本当だけど)
(····え··········少し、いや、かなり軽いノリで話しすぎじゃないか?)
(いや、だってルードもう10年前の話だよ?立ち直ってるに決まってるじゃん)
(10年··············)
(ほんと、10年もルードを探し求めてたなんて私ってば一途ぅー)
(なっ······!!)


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