大きな窓から入ってくる暖かな日差しを受けながら、机の上の五線譜にペンを走らせる少女がいた。
その唇は時折やわらかなメロディーを口ずさむ。
――コン、コン
その穏やかな時間は、二度の控えめなノック音によって終わりを告げたのだった。
「どうぞ」
「失礼します」と優雅な動作で部屋に入ってきた男は、持っていた一通の封筒を恭しく差し出す。
「お嬢様、早乙女学園からです」
「!」
一瞬だけ目を見開いた少女は封筒を受け取ったものの、中々開けようとしない。封筒を手に持ったまま、困ったように男を見上げる。
「……お嬢様」
「右京……私、」
きっと自信がないのだろう。この方はどうにも自分を過小評価しているところがある。
男は、静かに言葉を紡いだ。
「――お嬢様の音楽は、不思議です」
「え?」
「心に音が直接響く。耳を傾けずにはいられない。そして、一度聴いたら頭からずっと離れない」
まるで愛しいものを語るかのように、ふわりと微笑む。
「私はお嬢様の音楽が大好きなのです。作った曲も、歌声も」
「……ありがとう」
少女は心からの笑顔を男に向けて、再び封筒に視線を下ろすと丁寧に封を切っていく。中に入っていた手紙を取り出して、一度呼吸をおいてから目を通した。
男は、その姿を優しい表情で見守っていた。
「…………合、格」
ぽつりと呟くと同時に、少女の顔に喜びが広がっていく。
「右京!受かった!」
「おめでとうございます」
「お父さんとお母さんにも伝えてくる!」と部屋を出ていく少女の後ろ姿を、男はにこやかに見送った。